かずわや
2015-10-31 23:32:27
2061文字
Public ワンライ
 

【元主と刀】あんたにあげるよ

記念すべき第20回目、お題「花言葉」は御手杵と秀康で。こないだの御手杵かるたで衝撃を受けたため、これ幸いと秋の七草を使わせて頂きました。「いつも愛して」って笑う御手杵くんかわいいーーーー愛してるよーーー!!って言ってた、秀康と晴朝パパが。

ワンライ 花言葉


鈍色の雲が流れ、埃に塗れた風が砂だらけでがさがさになった髪を揺らしている。戦が終わったらしい。離れがたくて、足がまだ地面に引っ付いてるように動けない。
帰るよ」
袖を引かれて弾かれたように見下ろすと、案じるような色をした小夜と目が合った。
「ん」
「今日は、七草粥だって。之定が言ってた」
「そっか」
まだ刺してたい、なんて思っても言わない。終わったのならそれで終わりだ。知っている奴は知っているから戦の時は存分に自由に戦わせてくれるけど、それでも未練がましく潰えた戦場を見渡してしまう。
もう終わったんだ。
もう誰もいないんだ。
そういう時、ぽっかりと俺の意識は宙に浮く。また蔵の中に押し込められた時のように、自分の存在が否定されたように思ってしまう。
「帰ろう」
小夜が引っ張るのにつられて歩き出す。小夜は知ってる奴だ。肉に刃を突き立てる時、そこに一番「自分」と「生」を感じる者だ。俺と同じ。だからよく気にかけてくれるけれど、小夜は俺より大人だから俺みたいに戦馬鹿になったりしない。

なら、あの子はどうだったのかな。
俺みたいになかなか戦に出られなかったあの子は。俺に似てるから。


「秋の七草か、いいね」
晩飯の席で青江が嬉しそうに手を合わせた。どういうことだ?と尋ねると、「縁起のいい花言葉が多いから」とにっかり笑う。
「ハギ、キキョウ、クズ、フジバカマ、オミナエシ、オバナ、ナデシコ、秋の七草……五七五で言ってごらん。ハギには『誠実』、オバナには『努力』や『活力』、クズには『芯の強さ』、ナデシコには『勇敢』などあるね。なるほど僕らにぴったりだろう?」
鍋を持って通りすがった歌仙が口を挟んでくる。そういう話になるとすぐに聞きつけてやってくる奴だ。俺がふんふん頷きながら温かな粥を啜っていると、歌仙が「恋の花言葉も多いけどね。『優しい思い出』、『いつも愛して』、『変わらぬ愛』、……」と歌うように続けた。
ふ、と脳裏に浮かぶ。歌仙のあげた優しく強い言葉のそれぞれが、俺の中でひとりの人間の姿を作っていく。

「『あなたを思い出す』」

「それ」がパッと笑って俺を見上げた。
……へえ、そりゃ良い言葉だな」
「気に入ってくれたようで嬉しいよ。なんなら摘んだものが厨に余ってるから、部屋にでも飾るかい?」
「ん、ああ……そうする」
まさか頷かれるとは思っていなかったのだろう。歌仙が目を丸くして俺を見た。隣の青江の手からも食器がぽろりと溢れる。なんだよぉ、と毒付くと、「風流だね」と歌仙がにんまり微笑んだ。
夕餉の後、歌仙は野草をまとめて、それはそれは立派な生花に仕立ててくれた。
「全く君には時々驚かされるよ。戦ばかりかと思っていたら、突然色なことを言い出す」
「生憎戦経験は少ないけどな。だからといって花に詳しいわけでもないが」
「良いんだよ。それを責めたりする奴なんかここには誰もいないし、そんな人生を歩んできたものもここにはいない者含めてごまんといるだろう。卑屈になっちゃいけないよ。僕は、それで思い出す人がいることが幸せだと、思うだけさ」
誰に渡すのか、歌仙にはもう目処が付いているらしかった。全く鋭い奴で、侮れない奴だ。ありがとうと厨を出る間際に、歌仙がぽっと俺に言葉を投げてきた。
「君が戦以外でそんな風に笑うんだから、悪い思い出じゃなかったんだろう?」
……そうじゃなけりゃ、渡そうなんか思わないさ」
「それもそうだ。愚問だったね」


誠実、努力、芯の強さ、勇敢。
全部あの子にあげたい言葉だ、と俺は風にそよぐ七草を見ながら考える。戦で武功をあげられなくて、誰にもその悔しさを打ち明けられなかった若婿。子どもみたいに愚痴を言うのを見られるのが嫌だって、一番仲の良かった腹心にも言えなかった。すると、自然と相手は俺になる。俺はただの飾りの槍で、槍として生まれたのに実戦で使われなかったのが、自分の生い立ちに似ているとあの子は思っていたらしい。だから吐き出しやすかったんだそうだ。俺の前ではよく泣く子だった。短い人生だったけれど、きっと長く近く共に居ただろう。俺はあの子を何より慈しんでいた。
あの子は誰より実力があったのだ。その機会が与えられなかっただけで。

優しい思い出、いつも愛して、変わらぬ愛、あなたを思い出す。

何百年経ってもそれは変わらない。本当に変わらない。
瞼の裏に、精悍な顔つきをした武将が立っている。それが俺の姿を見とめて、パッと笑顔になった。懐かしい顔だ。すぐに思い出せる。あの子は俺の前でよく泣いたけど、それと同じくらいよく笑ってくれたっけ。
「全部、あんたにあげるよ」
本当に全部あげてしまいたくなった。花も、それに込められた言葉も、俺のいまの気持ちも、何もかも。嬉しくなって両手いっぱいに抱えた七草を差し出すと、呆れた顔をしたけれど。
「欲張りだな。ひとつで良いわ、御手杵」
その全てを受け取りながら、嬉しそうにわらってくれた。