かずわや
2015-10-27 17:27:31
1148文字
Public ワンライ
 

【元主と刀】3日も離れていられない

第19回:離れたくない 秀康と御手杵。所詮どっちもベタ惚れです。腐のにおいがぷんぷんするので気をつけてください!とても短い


「またどこか行くのかよぉ」
愛馬の毛艶を整えているところに不機嫌そうな声が降る。この家に養子にきてまだ長く経っていないが、随分懐かれたものだ、と顔を上げた。端正な形の眉をきゅっと寄せた、目をみはるほど長身の逞しくしなやかな若者。その不愉快な視線と尖った唇はまるで幼子のようであるけれども。それが自分の上に影を作っているのはなかなか恐ろしい光景だったが、しかしすっかり慣れてしまった自分がいる。
「あんた、俺んちの子になったんなら勝手な外出は許さねえぞ。晴朝だってちゃんと俺の許可を取っていくんだからな」
「今回の出征もお前より遥かに位が高い太閤様のご命令だ。引き留められるものじゃない」
そうそっけなく突き放すとまた眉間の皺が深くなった。

最近何かと世が忙しい。自分自身も太閤秀吉の命を受けて九州に出向くことが多くなり、その間全く結城の家に帰れない事態が続いた。帰ってきたら「お前のお気に入り」がうるさいぞ、と前に義父が寄越した手紙に書いてあったが、なるほどそういうことかと合点がいく。笑顔が透けて見えるような文面だった。義父は可愛い子どもが駄々をこねてるようにしか思っていないのだろう。だが、こねられる方としてはほとほと面倒だった。
「じゃあ俺も連れて行けよぉ。立派に働くからさぁ」
「お前みたいなでかい槍、一体誰が九州まで担いでいくって言うんだ」
……交代制とか」
「それにお前が先頭に立つと雨が降るからなぁ」
「なんだよ! そんなに俺が嫌いかよ!」
拗ねるとかなり面倒臭い。見た目ばかり良い大人だが中身はただの子どもだ。自分に似ている。だから嫌いだなんてわがままがよく言える。気に入られていることを、愛され慣れた槍はよく知っているのだ。こちらが折れてくれると思わんばかりの傲慢さに溜息が漏れるほど呆れるが、嫌なものでもないから本当にたちが悪かった。
ふくれっ面を浮かべる槍に向き直る。
「お前にはこの家と義父上、それから妻を守って貰わなければならん。お前にしかできないことだ、頼めるか、御手杵」
まじめに低い声でそう言うと、途端にわがままな子どもから家宝の槍の顔になった。ただ言いくるめられているという自覚はあるのだろう、眉はまだ寄せられたままだったが。
……分かった、行ってこいよ。無事に戻らなきゃ許さないからな」
「案ずるな」
せめてもの餞に勇ましく受け答える。すると御手杵はへら、と格好を崩して、「気をつけてな」と微笑んだ。
全く女々しくていけない。
離れがたいのはこちらも同じなのだ。「お前のお気に入り」は全く間違いではなくて、だからこそ悔しい気持ちでいっぱいになる。3日で帰るぞ。そう負けん気をこめながら囁いて腹を蹴ると、青毛の美しい愛馬は呆れたように鼻を鳴らした。