かずわや
2015-10-18 00:22:33
2129文字
Public ワンライ
 

【元主と刀】家族

第18回:新しい審神者は元主 結城秀康と御手杵。設定盛り込んだ現パロ、転生パロです。御手杵くんが孤児。結城家族が愛おしい気持ち120%で書いてます

昔から変な子と言われた。自分が変なことを言っている、という自覚もあった。でも、おかしいのはこの世界のほうじゃないのか。
だって、俺は槍だったはずなのだ。

この世界で馬は往来を走らない。
城を作る必要もないし、家族だけじゃなく周りの兵士の分まで食料を備蓄する必要もない。一月歩いて江戸へ行くこともない。俺が先頭に立つ必要もない。
どうにも魂がそぐわない世界だった。物心ついた時から記憶の中に残る光景と周りの生活が違うことに気づき、声をあげたのがいけなかったのだろうか。
いつの間にか自分はひとりになっていた。
「気味の悪い子」
そう言い捨てて出て行った女。
気味が悪いのはそっちだと悪態を吐く。自分は槍なのだから、母などいないに決まっているのに。肉の体から生まれ落ちたとは到底考えられず、女のことも母と思えなかった。
俺は槍だ。作った人間がいるはずだ。俺を求めた人間がいるはずだ。俺を振るって駆けた人間がいるはずだ。顔も名前も思い出せないが、彼らを思うと湧き上がる高揚感だけが心の頼りで。
会いたい。
槍だと思い込んでいても、身体は生身の子どもなのだ。ごみの散乱した、誰もいないアパートの一室で、身に覚えのない記憶だけに縋り付くことしかできなかった。死にたかった。顔を覆い、腐臭のする部屋の中で蹲った。
死ぬならいくさばだ。
こんなところじゃない。
哀れにもそう思い続けてしまったために、傷を受けたまま生き抜いてしまった。


「お前、まだ死ぬならいくさばだとか思っているのか」
笑いを含んだ声で揶揄られ、槍だった少年は白い頰をぷくりと膨らませる。夕暮れの道を、一方は長く、一方は短い影が寄り添って歩いていた。同年代の子どもに比べたらひょろ長く成長してしまったけれども、己の手を引いて足並みを合わせて歩いてくれる「人間」は、自分よりもずっと背の高い立派な成人男性だ。
「だぁって、俺は槍だもん」
「そうだなー。お前は俺と養父上が惚れ込んだ立派な槍だなー」
「馬鹿にしてるだろ……。なあ早くいくさに出してくれよ、今のあんたなら俺を使えるぞ」
「本体もなくて何がいくさだ。今はそういう時代じゃない。それにお前、このままだと栄養失調で餓死するところだったんだぞ」
握った指に力がこもる。抗議しようと顔を見上げると、深い皺を刻んで、厳しい色をたたえた瞳と重なった。
Tシャツの半袖がめくれて、白い腕に未だ消えない古傷がちらりと見える。その身体には、彼が母だった女から受けた暴行の痕や火傷の痕が染み付いている。男は目を凝らした。
孤児院での生活を彼は受け入れず、少年は子供たちからひとりだけ孤立していた。身体は痩せ細り、美しいあの若武者の面影はどこにもなかった。
けれども、気味が悪いと傷を受けても、己のことを槍だと言って譲らない、その頑固さが、まるで自分にそっくりなのだ。父に認められようと足掻いたかつての自分に。だからわかった。思い出した。孤児院で人を今にも串刺しにしそうな目をした彼を見つけた時、これは運命かと我が目を疑った。
つらかっただろう。足掻いただろう。怒り、恨み、諦めをもって、そぐわない世界に生きてきたのだろう。
今の時代じゃ槍として生きていけるわけがない。全てを思い出した男は、少年を養子として引き取ることにした。そしてかつての自分と同じように「養子」になった少年の数奇な運命に、男は苦笑を漏らした。

「あんた、本当に秀康なんだな」
ぽつり、と落ちる。
幼い子どもの声が偉そうな口を利く。それにつられるように、秀康は昔を想起した。怒りと、憎悪と、諦めをもってやってきたかの結城の地で、自分を興味深そうに見ていた家宝の槍。最初は秀康のことを下に見ていた。しかし徐々に打ち解けて、酒を酌み交わしもしたし、共に城外へ出たりするほど気が合うようになったのだ。厳かな父と三人で、家臣に隠れてこっそり歓談することもあったことをふっと思い出した。
「やっぱりあんただったんだ。本当にいたんだ」
ぎゅ、と手を握る力が強くなる。
「ずっと、会いたかった」
ずっと馴染まなかった魂が、彼を見てぴったり当てはまるような心地がしたことを忘れない。
名前を呼ばれた。「御手杵」と。
そして呼び返した。「秀康」と。
「俺も会いたかった」
考える時間もなく、身体の奥底から湧き上がるように、真っさらな脳内にお互いの名前はすました顔をして現れた。まるでずっと前からこの中で暮らしていたとでも云うように。顔も名前も覚えていなくても、この身体に刻まれた魂はかの時代を共に駆けたともがらを覚えていたのだ。
「これから家族になる。あの頃と同じように、血は繋がってなくても確かな家族に」
「そうだなあ。……懐かしいなあ」
「養父上もちゃんといらっしゃるぞ」
「本当か!」
何百年ぶりかの再会かは分からない。目を細めて喜んだ幼く白い横顔を、夕陽がほんのりと赤く染めた。それに、いくさに高揚した若武者の姿を思い出す。そしてこの手に握った太い柄の感触も。穏やかな夕暮れの道に、荒れた戦場に吹きすさぶ風のにおいを嗅いだ。






新しい審神者(かぞく)は元主
(今度は一緒に歳を重ねて)