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かずわや
2015-10-11 15:16:01
1492文字
Public
ワンライ
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【元主と刀】親の心子知らず
17回お題「言い合い」は小夜と細川幽斎様で参加させていただきました!捏造多々あります。反抗期の息子忠興くんに意地を張るお父さん、見守る神様たち。
「小夜、小夜、おいでや小夜。菓子をやろう」
「
……
だから、付喪神はものを食べないってば」
それでも手招きに従い素直に寄る。仏頂面をした幼子。老人は愛おしそうに目を細めながら、幼子の頭を撫でるそぶりをした。人ならざるモノだから触ることなどできない。きっとその髪は、見た目に反して柔らかいのだろう。
貧しい子どものような粗末な服を着ている。髪も無造作に括り、結びめに留めた紐は大きさが不揃いで下手くそだった。結び替えて服も召し替えようと言ったが、己に刻まれた呪いを象徴するようなこの服装を変えることはできないのだと云う。
身なりはみすぼらしいが、振る舞いには気品がある。「小夜左文字」と綺麗な名前をつけられたからか知らないが、彼はいつもしゃんと背を伸ばし、真っ直ぐ人の目を見て話した。ゆえに老人は幼子を我が子のように可愛がった。
「小夜、連歌をしよう。老ぼれの遊びに付き合っておくれ」
「
……
忠興様とやれば良いでしょう」
そう呟くと老人の目つきが変わった。戦の荒波を乗り越えてきた、当主の炎が一瞬その目に宿る。物凄い顔をして小夜を見下ろしたがしかし、小夜も慣れたものだった。穏やかな青い目が老人を糾弾するように見上げている。老いた人と幼い神の睨み合いが、暫く続いた。
「
……
やれ、敵わん」
先に折れたのは幽斎のほうだった。
「しかし忠興はなぁ
……
儂が選んだ茶器は嫌だの禅宗は嫌だの何だの
……
」
「僕は、幽斎様の何でも自分が正しいと思っているところが悪いと思う」
「ぐぬ
……
お前、忠興の刀から何か言われたのか」
「なにも。ただ、仲直りしてほしいという話はしたよ」
短気な癖に風流な文化を愛するおかしな刀の友人を思い出し、小夜は細々と、しかし強く幽斎に言った。恥ずかしそうにこけた頬を掻く、その指はもう骨と皮だけになって、筆より重いものを持つことはない。兜も鎧もめっきり着なくなった。人知れず世から離れていこうとする中で、どうも家督を譲った息子からは離れられないようだった。
「小夜は冷たい
……
」
「僕は人間じゃないからね」
こんな言い合いは何度しただろう。反抗ばかりする息子の愚痴を誰にも見えぬ刀に垂らし、それにおざなりな返事をかえす。じゃれ合いのようなものだった。取り留めもない話をしながら徒然を過ごすしか暇を潰せない二人の、時が止まったようなじゃれ合い。
木枯らしが吹く。庭の柿の木はすっかり葉を落として寒々しい姿を二人に晒していた。風が肌を刺したのか、ぶるりと震えた幽斎に小夜が、
「幽斎様、風邪を引くよ。何か羽織ってきたほうが良い」
と親切心を出してやる。
「小夜は寒くないのかい」
「僕は人間じゃないから
……
」
それなら火鉢を出そう、と幽斎が腰をあげる。寒くないって言ってるのに。小夜はむくれた顔をした。人の言うことを聞かないというか、世話を焼きたいのだ、この主は。
火鉢をよっこらしょと持ってきて、火種を入れて炭を混ぜる。「寂しい」と口に出して言えない人だった。だから小夜は、寒くないけれども火鉢の側に寄ってやる。すると彼は溶けた餅のように頬を緩ませて、「餅を焼こうか」などと言うのだ。
「あなたは之定に餅を焼いたんでしょう」
「たわけた事を」
「僕と言い合うくらいなら忠興様とやり合ったほうが何千も良いよ」
「またそんなことを言う
……
」
仕方なさそうに目を細め、くゆりくゆりと灰をいじる、その指はもう刀を握らない。帝を立てて歩き回ったこともあるが、もう遠い昔のことだ。この足はもうあの時のように誰かの下へと訪ねゆかぬ。彼は厳格な父だった。
口だけが達者になるばかり。
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