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かずわや
2015-08-15 23:08:10
2230文字
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【元主と刀版ワンライ】あなたによろしく
記念すべき第10回「拝啓、主」は結城秀康と御手杵くんで参加させていただきました。主大好き御手杵くん!!
元主と刀版ワンドロワンライ、10回目開催おめでとうございます!これからも元主と刀が盛り上がることを期待して作品を作らせていただこうと思います。
拝啓、主
秋が近づいたかな、と思うような風だった。昼間の熱はまだ残っているものの、頰を撫でる風は酒をあおった体にほどよく冷たく気持ちがいい。同室の男に遠慮しながら出た縁側には、誰かが置きっ放しにしたきゅうりの馬が寂しそうに鎮座している。
見上げた月は綺麗な半月をしていた。
夜が丑の刻を越える頃、自分の背後に誰かがすっと立つ気配があった。草木も眠る丑三つ時、か。この時間には人には視えぬ者が現れると云う。
青江か石切丸の出番だなあ、と頭をかすめ。御手杵はふっと笑みをこぼした。誰が来るかと思いきや。顔を見なくても、この時期にこの場所に誰が来るかなんて、畳を踏みしめる足音の重さでわかるのだ。幽霊に足音なんてあるのかおかしな話だが。
御手杵は後ろを見ることなく呟いた。
「あんたが死んで結構経つよな」
背後の誰かが隣に胡座を掻いて座る。苦笑しているようだ。御手杵は杯を彼のそばに置いてやった。
「あんたが死んだ後、大変だったんだぜ。晴朝は号泣だしさ」
どこまでも子どもな奴だ。晴朝があんたにしてあげられることなんて親として先に死んでやることだけだったのに、あんたはむなしく先に死んじまった。とんだ親不孝者だ。反省しろよ。
そう云うと、病に冒されていなかったころの人の顔がくしゃっと笑んで、そうか、と懐かしむように言葉を紡いだ。月が青白く軒下を照らす。そこには人の形をした槍と、彼がかつて主と慕った人の子の姿があった。
「俺も泣いてやったんだよ。真似しなくても自然と涙が出た。あれが悲しいってことなんだって初めて知った」
「それは光栄だな。天下の槍に泣いて貰えるとは」
「やめろよお。あんたのために泣いたんじゃねえ、晴朝のために泣いたんだ」
唇を尖らせてそっぽを向く御手杵に秀康はまた笑いを零す。父上から譲り受けた槍は、どうも父親顔をして自分を下に見たがる。槍でありながら晴朝の真似をしているのだと知ったのはもう随分と遠く、懐かしい、昔のことだ。
「相変わらず強情だな
……
ここの連中とも意地を張ってるみたいじゃないか」
「ぐっ」
「あれは本多殿の槍だろう? お前を叱る声色は作左衛門を思い出すな。流石本多家と言ったところか」
「な、なんで知ってんだよ
……
」
「いつも見てるからな」
そらごとだ。
杯を傾けながら、何でもないように嘘を言う。
だが、戦国一と誉れ高いあの逞しい槍に、この御手杵が意地を張っていそうなのが容易に想像できたのである。なんせ主である結城秀康のことも子ども扱いしたがる、自尊心が高い槍なのだ。
……
暫く経ち、返事がこないことを訝しんで横を見ると、穴のあくほど目を見開いた御手杵と視線が合った。
ぼわ、と御手杵が耳まで真っ赤になる。
思いがけない愛槍の変化に、秀康は腹の底から声を出してわらった。
「冗談だ、冗談」
「
……
あ、あーっ、もう! あんたそういうとこあるよなあ! 何なんだよ早くあっち帰れよ!」
「酷いことを言う。お前がきゅうりの馬を作ってくれたからお前のところに来たのになあ」
「あっ、あれは祭りみたいなもんで! 本当に来てくれるとは思わなかったから
……
っ! てか晴朝は!? 晴朝帰ってこいよ! 俺晴朝のほうがいい!」
「喧しいな。あの方は向こうでお茶を飲んでいる。お前によろしくと言っていた」
御手杵は「うえー!」と叫んだ後、はっと口を噤んだ。同室の--それこそ話題に出た蜻蛉切だ--のお叱りを気にして、小声でまじかよ
……
と囁くと、肩をがっくり落として縁側に寝そべる。信じたのか。幼子のような槍だ。秀康は幼子にするようにその柔らかな枯茶色の髪を撫ぜてみようとしたが、案の定、指は彼の髪を通り抜けるだけだった。
今は自分がこの世界にそぐわない存在だったことを思い出す。人なき人である御手杵のほうが、この世界に必要とされている。
この槍の体温を、自分は一生知ることができないのだろう。
「なぁ、秀康。晴朝のところに帰ったらよろしく伝えてくれよ」
「父上だけか」
「拗ねんなよ。あんたにはもう会えたから良いだろ」
拗ねてなどいない。が、御手杵が父上ばかりを気にするのは面白くない。
「あんた本当ガキ。変わんねえな」
秀康を流し目で見上げ、御手杵が悪戯小僧のように歯を見せてわらう。今度は秀康がそっぽを向く番だった。くすくすと笑いながら御手杵が体を起こす。ギシ、と木が軋む。
「拝啓、主」
ふと肩に何か重みを感じた。振り返って視線を少し下げれば、御手杵が穏やかに微笑みながら肩に頭を預けている。一瞬何をしているのか分からなかった。
分かったのは、「御手杵は存外にあたたかい」ということだけだ。
「俺はあんたたちの一本槍であれて、幸せだったよ」
深く、沈むように、御手杵がそう呟く。
そうか。今は、肉の体に血が通っているのか。かつての自分と同じように。
空が白み始める。体温が少しずつ消えていく。御手杵は相変わらず安穏としていて、そういえば戦場に向かう時も行列の先頭に立つ時もこんな顔をしていたと秀康は風が体を通り抜けるのを感じながらぼんやり思った。
「お前がそんな槍で、こっちも幸せだったさ
……
」
俺たちの槍はあの頃と全く変わらなかった。呆れるほどに、まだ過去を愛してくれていた。それを父上に伝えにゆかねばならない。
日の光が本丸の壁を照らす頃。縁側では、人の形をした槍がすうすうと寝息を立てていた。
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