かずわや
2015-08-09 19:27:42
1510文字
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【元主と刀ワンライ】恩返し

第9回お題「真似」は松平の人々と御手杵で書かせて頂きました。愛してくれた癖が抜けないおてぎねくんは可愛い。
時間めちゃくちゃ過ぎてますし遅刻しました、ごめんなさい!

ワンライ 真似
結城と御手杵

「自分の身体だから、もっと雑に扱っても構わねえと思うんだけどさぁ」

そう言いながら、御手杵はなにやら決まりが悪そうな顔で、真っ先に穂先をつたい落ちる血を拭う。肉の体が傷ついても全く躊躇しない。腸が千切れようとも、目の前に大将がいるならば彼は進もうとするだろう。そんな鬼のような彼が、鋼の本体が血に塗れるのを、何故だか嫌がる。

「前の主の……ってか、俺の手入れをしてくれた人たちの影響かなぁ。少しでも錆びが付くかと思うと、落ち着かねえんだ」

遠い時代に目を細めながら、手入れ部屋で穂先を整える御手杵の表情はゆるい。己の頰に入っているひびには全く気にせず、美しい指先が穂先を滑り、手入れの妖精たちの手を借りて槍身の輝きを戻していく。
蜻蛉切はそれを半ばぼんやりと見ていた。
自分の傷には頓着しない御手杵が、己の槍の手入れは自分でしたがる。それに疑問を持ち、不躾かと思いながらも手入れ中の彼に尋ねたのだ。
面倒臭がりだから、己の傷も槍の汚れも全て妖精たちに任せているのかと思いきや。
身体にひびが入ったままにも関わらず、御手杵は嫌な顔ひとつせずに、槍の手入れを行いながら蜻蛉切に悠々とそう語るのだった。

……大事にされてたって自覚があんだろうなあ。少しでも錆びが付けば研師を呼ばれてさ、くすぐったかったけど、そういうのあったかくて気持ちよかったから」
「さようですか」
「あんたもあるだろ?」
「そう、ですな。汚れを拭き取り新しい油を注してくれる手つきは、まるで頭を撫でられているかのようでした」
「そうそう、分かるじゃないか。そうやって大事にしてくれた恩があるから、俺は、『手杵の槍』を大事にしたいんだ」

人間の真似に過ぎないかもしれないけど。

付け加えられた言葉にハッとした。虚無を生んだ気がした。思わず身を乗り出して、「そんなことはない」と声を荒げてしまった。
「貴方の恩を思う心遣いは正しい。我らを大切にしてくださった主たちのため、己を手入れすることの何が悪い。貴方は優しい。それは、嘘ではないはずだ」
……なんだよぉ」
驚いた顔を緩めて、御手杵はへにゃっと笑った。虚無が死ぬ。御手杵の周りでぽんっと桜の花が咲く。「あれ、うわ、」と慌てふためいた御手杵が、蜻蛉切を振り返って恥ずかしそうにはにかんだ。
「ごめん。あんたのことば、予想以上に嬉しかったみたい」
そう、身をすくめて首を傾げるので。
思わず己の武骨な手が、白い頰をかすめた。その瞬間、ひびの入っていた御手杵の頰から、ぱらと欠片が落ちる。それに思った以上に驚いて、蜻蛉切は思わず手を引っ込めた。御手杵は一瞬びくっと震えた後、何でもないかのように自分の頰を抑える。
そうだ、彼は今中傷とはいえ傷のついた肉の身体を引きずっているのだ。仮初めの器だが、肉の身体も傷がついたまま放っておけば悪影響を与えかねない。
決まり悪くなった蜻蛉切は、苦し紛れに呟いた。
……槍の身体だけでなく、肉の身体も大事にしてくだされ……
「はは、そうだな。あんたに可愛がってもらえなくなるもんな」
「お……っ!?」

じゃー俺本格的に手入れはじめっから、またな。
そう言ってスパンと閉められる障子。思わず腰を上げた蜻蛉切の目の前で、無情にも「10時間」の字が瞬いた。行き場のない右手をおろおろと降ろし、蜻蛉切は火照った眉間にしわを寄せる。

彼が手入れ部屋から出てきたら、意趣返しに松平の「真似」をして愛してみてもいいかもしれない。ああ見えても己の家が大好きな人だから、案外喜んでくれるだろう、と蜻蛉切は御手杵の元を後にした。