かずわや
2015-08-02 17:40:49
1662文字
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【元主と刀版ワンライ】手を振る逢瀬

第8回「また逢えたなら」は義経主従で参加させて頂きました。元主たちは名前しか出てきません。お盆の話です。

ワンライ また逢えたなら
今剣と源義経
岩融と弁慶


「『またあえるなら』ではなく、『あいにゆく』のです。いわとおし」
白い柔肌をぽっと赤くして、今剣が無邪気にわらった。

縁側には、刀剣男士たちが作った、思い思いのきゅうりの馬がずらりと並んでいた。大きく『じっちゃん号』と書いてあるもの、かっこよくて強い最近流行りの馬にしようとごてごてと飾りをつけているもの、暑いでしょうからと隣に冷たい水桶を用意した気遣いに溢れているもの。
時は今頃お盆だと、彼らの主が言うので。
死者がこの世に帰ってくると知った彼らは、目の色を変えて精霊馬を量産し始めたのだ。
今剣もすぐに馬を作り始めた1人だった。
「みてください、このうまならバビューンとげんせにひとっとびですよ!」
「おお大きいなあ! 義経公と弁慶、二人とも乗っていけるのではないか?」
「もちろん! ふたりいっしょにかえってきてもらいます! まいごになったらこまりますからね!」
太いきゅうりに割り箸で拵えた屈強な足。紙に書いてはさみで切り、形を整えた手作りの「翼」をきゅうりにつけた、さも伝説上で語られる『ぺがさす』のような風貌をした馬。それを嬉しそうに岩融に見せびらかして、「あのこにぴったりでしょう!」と胸を張る今剣を、岩融は微笑ましく見守る。
他ならぬ守り刀の願いだ。あの優しい方々は戻ってきてくださるだろう。たとえ、この短刀と薙刀が、紙上でしか息をしていない作り物だとしても。

「今剣よ。もしまた主に逢えたら、何を請う」
俺はここに顕現してから獲った武功を見てもらいたいぞ。それから酒盛りもしたい。共に杯を合わせて、朝まで語り明かしたい。
彼らがやってくるであろう、空の彼方を見やり--岩融は今剣に問いかけた。
彼にも望みがたくさんあるだろう。そう思いながら振り返ると、今剣は「そうですねえ」と気取った様子で顎に手をおいた。
「うーん……。あっ、けまりを、したいです!ぼくのほうがずーっとじょうずだから、よしつねこうにみせてあげます!」
「はっはっはっ! 是非競うと良い、誠に良き催し物になるぞ」
「でもね。ぼくらは『またあえるなら』ではなく、『あいにゆく』のです、いわとおし」
胡座をかいたくぼみに今剣が収まる。ずり、と這い上がると、自分の腕では到底抱きかかえられない岩融のからだにぎゅうとしがみ付いた。辛いことでも思い出したかと慌てて顔を覗き込めば、それは穏やかで、優しい、ふっと息をつきたくなるような笑顔を浮かべていた。
甘えているだけのようだ。安心した岩融は、己の爪で傷つけぬよう、ゆっくりと今剣の銀糸を梳く。
「どういうことだ?」
「おやこはいっせ、ふうふはにせ、しゅじゅうはさんぜでしょう。ここでかりそめのおうせをはたしても、ぼくらは、またであえるんですよ」
親と子の関係は現世のみであり、夫婦は前世と現世あるいは来世の二世にわたり、そして主人と従者は前世、現世、来世でまた関係を紡ぐ。そう意味合いを込められた言葉だ。
成る程、それもそうだ、と岩融は頷く。
我らの主はそれを信じて共に冥土へ連れ添って逝ったのだから。

抱きしめる力が強くなる。
「だから、ぼくらがたたかうのは、またうまれかわってかれらにあうため。そう、おもっているんです。……こんどはぼくらのほうからあいにいきましょう、いわとおし」
「うむ、そうだな……。鶴丸ではないが、驚かしに行こう。つぎも、ずっと一緒だ」
「はい。ずっといっしょです!」

白い柔肌を赤くして、今剣が心底嬉しそうにわらう。
傾いた夕日が本丸を赤く染め上げ、どこからか夕餉の良い香りが漂ってくる。縁側を通る誰かが「逢う魔が時だ」と言ったのが聞こえた。
『逢う魔が時』。人ならざるものが逢う時間。ならば、そろそろやってくるだろう。霞みもしない記憶の中にいる愛しいもののふ達が。きゅうりの馬を猛々しく走らせて、いくさの時のように急いて来るのだろう。
大きく立派な馬を縁側に置き、今剣と岩融は夕餉へと駆け出した。