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かずわや
2015-07-19 23:55:34
1431文字
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【へし宗】恋の逝き先
ワンライで書いた宗三さんと信長の、その後の長谷部。薬研もちょっぴり
織田信長が本能寺で討たれたらしい。遠い土地で伝え聞いた報せの中に、桜色の幻を見る。
薬研も、あの小憎たらしい刀も、主と共に死んだのだろうか。きっと一緒だっただろう。なんて憎らしい、羨ましい。あの方は特にあれを随分気に入っていたから、冥土の向こうまで持っていったに違いない。
強く唇を噛み締めた。
あの方と共に死ぬのなら、自分でありたかった。全くあの刀と来たら信長様に愛されているというのに仏頂面ばかりで、可愛いことひとつも言えない。形がいいのは顔ばかり、性格はお世辞にも良いと言えなかった。
(
……
あいつと話したことなど無かったのに)
そのことに唐突に気付いて自嘲する。我が主が自分以外の刀を誉めそやすのを見るのが嫌で、あの桜色には近寄らないようにしてきた。他のところから拾われてきたというのもいけ好かない、あの方の寵愛を欲しいままにして偉そうに、と愚痴のように零せば、かつて薬研に「自分の領域を後入りに荒らされたくない猫みたいだなあ」と笑われたことがある。
「でもアンタ、別に宗三のことを嫌ってるわけじゃないんだろう」
「
……
何故だ?」
「何故って。よく見てるじゃないか、あの姫さんを」
宗三は行こうと思わなければ行けない場所にある奥の座敷にいた。その部屋の窓格子から、時折白い横顔が覗いていたのを思い出す。思い出せるということは、無意識に通っていた証拠だ。驚くと同時に、ストンと腑に落ちた。近づかないようにしていたと思っていたが、顔はよく見ていたらしい。憂いを帯びた憎たらしいかんばせを、はっきり思い浮かべることができた。
「
……
そうか。よく、見ていたか」
「嫌いじゃないんだろう? わざわざ奥座敷に行くってことは」
「あれは見目だけは良いからな。花を愛でるのと同じようなものだ」
「素直じゃねえなあ。
……
ま、刀と持ち主は似るんかね」
宗三左文字は確かに美しい刀で、具現化したつくもがみの姿も妖しい美しさを持った耽美な男だった。世の中を睥睨する悩ましげな瞳、すっと通った鼻筋、形のいいくちびると、左右で色の違う宝石のような瞳。袈裟の隙間から覗く足は驚くほど細く、薄暗い座敷の中で肌の白さは輝かんばかりだった。その美しさで主を誑かしているのだろう。売女め、と整った横顔を睨みつけたことは多々あったが、直接言葉を交わすことはついぞなかった。
自分がこの黒田の家に降るときでさえ、別れの言葉などなく。
あれは自分に興味など無かったに違いない。いや、世の全てに興味は無かったのだ。いつも見下すような視線で格子の外を見ていた。目が合ったことはあっただろうか、無かったかもしれない。宗三の中に、「へし切り長谷部」などという刀の思い出はきっと無いのだろう。
長谷部の中には、憎しみと共に宗三左文字の名前と姿が強く刻まれているというのに。
遠い地で燃えたという宗三左文字を夢想する。赤い焔に飲まれる桜の袈裟は、それはそれはより美しかっただろう。我が主が持って行きたがったのもわかる気がする。激しく嫌がっただろうと思ったが、あれは生きる価値を見失っていたから、むしろ主と一緒に死ぬことを選んだに違いない。
あれは死んだのだ。もうあの憎々しげな瞳も、気だるげに座する男の身体も見ることは叶わない。その事実にすこしだけ寂寥を感じる自分がいた。二度とあの美しい刀にまみえないのだと思うと、あれほど憎んでいたのに、涙のひとつでも出る心地がした。
恋の逝き先
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