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かずわや
2015-06-23 17:44:24
3951文字
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【未完成】進展しない蜻蛉杵
とぎねさよ。出来上がらなかったので、ここで供養させてください…。
やりたかったこと
・麦わら帽子を被る御手杵
・小夜のことを「ちっこい左文字」と呼ぶたぬき
・仲良しな御手杵と小夜とたぬき
・↑を羨む蜻蛉切
・袈裟を噛みしめる左文字兄ズ
人をあまり本名で呼ばないたぬきはよいと思います。江雪のことは「上の左文字」、宗三のことは「真中(まなか)の左文字」、または「義元」と呼んでほしいですね!
御手杵は最初からおてぎね。
そして蜻蛉杵は全く進展してませんすみません
…
何もしてません
……
。
+++
照りつける陽射しは熱く、当番に充てがわれた畑に行くときは麦わら帽子の着用と適度な水分を携帯することが義務付けられるようになった。弟が麦わら帽子を被る姿は愛らしいと始終一期一振は頬を緩ませ、ちいさな子どもの刀剣たちは主から支給された「おもちゃ」に喜色を示し、青年の姿をとった刀剣達は似合わねえだの邪魔だのぐちぐち言いながら結局は陽射しを遮ってくれる広いつばを気に入ったようだ。
「小夜、でっかいミミズだ」
大げさにそうはしゃぐ声が畑から聞こえて、蜻蛉切は足を止める。しゃんと背を伸ばしたとうもろこし畑の中に、大きな麦わら帽子がひょこひょこしていた。スッと目を細め、食い入るようにその光景を眺める。緑のジャージの袖を捲り、大きな手でミミズを掴みけらけらと笑っているそのお人--御手杵の側には、自前の笠を被ったちいさな小夜左文字がいた。
そうか、今日はあの二人が当番だったか、と蜻蛉切はぼんやり考える。あの二人は仲が良かった。畑や馬当番に任命されるといつも文句ばかり垂れている御手杵は、あんなにだらしない笑顔を蜻蛉切に向けたりなどしない。
「青江に見せたらまた意味深なこと言うぜ、あいつ」
「ミミズがいるのは土が良い証拠だよ
……
」
「んぁ? そうなのか? じゃあこいつらは安心だな!」
とうもろこしを見やって御手杵が言うと、小夜も嬉しそうに口端を綻ばせた。
そこへ黒いジャージに身を包んだ男が、麦わら帽子を被らずに寄ってきた。
「おお正国ぃ、ちゃんと麦わら帽子を被らないと駄目だぞ」
「俺は刀だから良いんだよ」
「俺だって槍だよ!」
ぎゃあぎゃあとわめく二人はさながら元気な子どものようだ。横で黙々と作業をしている小夜のほうが大人に見える。同田貫正国は暇だから寄ってきただけらしい、と蜻蛉切は予想をつけた。断じて羨ましいなどと思っていない。断じてだ。
じゃれ合う二人を尻目に、小夜は今日収穫できた作物がたっぷり入ったカゴを持ち上げ、厨のほうへ歩き出そうとした。その小夜を同田貫正国がひょっこりと覗き込む。
「それ全部お前が持つつもりなのか? 代わりに持ってやるよ」
「おっなんだよ、やる気だな」
「うるせえよ御手杵。おいちっこい左文字、これを厨房に持っていけばいいんだな?」
「有り難いけど、同田貫は今日当番じゃないのに」
ほんのすこし渋る様子を見せた小夜に、同田貫は頬をかきながら言った。
「暇だからよぉ、これが終わったら御手杵に手合わせ頼もうと思って来たんだよ。何もしねぇっつうのはお前に申し訳ないし、なんか手伝わせろや」
「上から目線は良くないぞ、正国ぃ」
茶化された同田貫は御手杵に歯を向き、小夜が持っていたカゴを半ば奪い取るようにしてそのまま歩き出した。目をぱちくりとした小夜は我に返って、慌てた様子で同田貫の後についていく。待ってくれよお、と情けなく鳴いた御手杵も、カルガモの子のように小夜の後ろにぴったりついて蜻蛉切の目の前から姿を消した。
彼は無邪気な笑顔を浮かべていた。泥まみれになって遊ぶようなあの子ども染みた空間に、自分が入っていけるとは到底思わなかった。けれども、つい羨んでしまう。
何の躊躇いもなく彼に歩み寄っていけることが。
考えすぎなのだということはわかっていたけれども、やはり、どうしても蜻蛉切は御手杵に馴れ馴れしく近寄ることができなかったのだ。
同田貫と御手杵が、己は武器だということを強く意識している点で、悪友のようにつるんでいるのは見慣れた風景である。しかしそこにいつしか小夜左文字の姿も見受けられるようになった。
小夜と御手杵は仲がいい。
このちいさな頼れる子どもが、本丸に参じたばかりの御手杵の世話を、全面的に引き受けたからだ。その故あって、御手杵はまるで親に懐く子どものように小夜に甘えるようになり、それはそう時間もかからないうちに本丸での日常風景となった。
そして、蜻蛉切と御手杵は恋仲である。
これもこの本丸にいる誰もが知っていることだ。主さえ口元に微笑みをたたえながら、毎朝すれ違いざまに「昨晩の味はどうだった?」などと茶化してくるからいたたまれない。
まだ味見すらしていない、蜻蛉切は愚痴っぽくそう漏らしたくなるのを必死に抑えた。
確かに御手杵と気持ちを通わせたはずだ、と蜻蛉切は彼が顔を真っ赤にして自分の言葉を受け入れた夜を思い出す。けれどいつまで経っても御手杵のようすはぎこちなく、さっき同田貫や小夜に向けていたような笑顔を蜻蛉切に向けたことは無かったように思えた。
「で、依然としてあなたは手を出していないんですか」
麗しい桜色の唇から、そんな下賤な言葉がこぼれるのも仕方ない。蜻蛉切は正座をし、背筋を伸ばしながら思った。向かい合う相手は、全身桜色にすっぽり包まれ、常に憂いを帯びたその表情は軽蔑を含んで蜻蛉切を見ている。その後ろには、月白の美しい髪を無頓着に伸ばし、冷ややかな視線をこちらに送る揃いの袈裟が密やかに控えていた。
二人の背中には般若が見える。部屋に引きずり込まれたときから、何を言われるのか見当はついている。背中を冷や汗が流れた。
桜色の唇が開かれる。
「身も心も物にせず、蝶のようにひらひらと手放したままでいるつもりですか
…
? あの槍は生娘じゃないんですよ!?」
「しかし
……
」
「あの槍が小夜離れしてくれないと、小夜が僕らのもとに帰ってこないんですっ!」
一息に叫んだ後、宗三はわっと両手で顔を覆った。江雪も嘆かわしいと呟いて下を向く。どうも小夜離れをしないのはこちらも同じであるらしい。心内で苦笑をこぼす。
外では件の想い人が短刀に囲まれていて、子どもたちの明るくはしゃぐ声が、三人が膝を突き合わせる薄暗い部屋にも届いていた。どうやら短刀たちを次々と肩に乗せて、本丸中を走り回っているようだった。
「ほら、交代だ」
厚を肩から降ろして御手杵は大きく伸びをする。次は誰だ? と呼びかける声に、短刀たちがきゃいきゃいと手を挙げて御手杵の眼鏡に敵おうとした。その時、こちらを見つめる静かな湖畔の瞳と視線が合った。
なんだ、そこにいたのか。顔が見えないから心配した。
ふわっと破顔した御手杵の視線に気付いて、厚が叫ぶ。
「小夜、こっちに来いよ! 次はお前の番だぜ!」
「え、でも僕は」
「小夜、来いよぉ」
間延びした声に手招きされて、小夜はこわごわと子どもの群れに混じる。前から、小夜左文字という短刀は他の短刀とあまり交わろうとしなかった。岩融や御手杵の身体によじ登って遊ぶ子どもたちを遠くから見つめているのが常だったのだ。
御手杵に担がれた小夜は目をいっぱいに見開いて、怯えるようにしっかりと鳶色の髪を掴んでいた。けれどそのぷっくりした頰は紅色に染まっているように見える。御手杵はわざと身体を揺らし、小夜が慌てるのを大いに楽しんでいた。そうしているうちに、今剣を肩車した岩融がやってきて、子どもたちはまたきゃあきゃあ騒ぎながら新しいおもちゃに群がったのだった。
「ほら、小夜があんなに笑って
……
」
「羨ましい限りです」
暗がりで、悔しさのあまり袈裟を噛みしめる左文字の兄達に、蜻蛉切はどうすればよいか途方に暮れた。彼らは早く御手杵を手篭めにしろと言う。できるものならやってやりたい、むしろ疾うにやっている。しかしできないのは、御手杵がのらりくらりと蜻蛉切の攻撃を躱すからだ。
「ああ。誠に、羨ましい限り」
ゆえに、そう、呟くしかなかった。絞り出された声に宗三と江雪は呆れたものだと蜻蛉切を見返す。
「戦国最強の愛槍が聞いて呆れますね。数々の命を奪ったあなたが、槍の心すら奪えないとは」
「御手杵殿の心は、命ほど簡単ではない」
「触れれば切れるとは虚言でしたか」
「試してみるか?」
「おやめなさい、二人とも
…
」
ゆらりと立ち上がりかけた二人の肩を江雪左文字が強く掴んだ。女のように白く長い指だったが、その力は驚くほどえげつない。江雪は喧嘩に対して手加減などしないのだ。
「に、兄さん、ちょっと痛」
「蜻蛉切、我々としてもあなたには励んで貰いたいのです
…
。御手杵は、小夜の力を借りなければ生活できない、最初のような不器用ではもはやありません。一人で着替えもできるし、食事もできるでしょう」
「兄さ、」
頷く。
御手杵が小夜から離れないのは刷り込みのようなものである。主もそれを慮っているのか、練度に差のある彼らが同じ戦場に出向くことはないが、内番のときは一緒に組まされることが多かった。
それに、御手杵が蜻蛉切と共にいることを頑なに拒むのだ。
「嫌われているわけでは、ないのですよね
……
?」
「ああ、そんなことは、ない
…
はず、だ」
はっきり否定できない自分が恨めしかった。
眉を下げ、心配そうにこちらを窺う江雪の後ろで、肩を気にしている宗三がふんと鼻を鳴らす。
「ともかくこのままでは御手杵のためになりません。早急に小夜をこちらへ返してください」
全く、本当は誰のためなんだか。
蜻蛉切は視線をあちこちに彷徨わせた後、重い溜息をつき、確約もできぬまま左文字の部屋を後にした。
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