元主と刀ワンドロワンライ、開催おめでとうございます!派に遅刻しましたが、結城晴朝と秀康、御手杵の初めましてを書かせていただきました。歴史や二人の人格、話し方は全て捏造です。ご了承ください。御手杵は二人のことを同じくらい大切な主だと思っているけど、秀康のことは自分の子どものようにも思っていてほしいです。
俺が初めて会った人間なら自分を打った五条義助だが、初めて会った主なら俺に名前を授けてくれた結城晴朝だろう。晴朝に俺の姿は見えていなかったけれど、目を細めて誇らしそうに俺の本体を撫でてくれて、俺はその数々の戦を乗り越えてきたであろう傷だらけの厚い手のひらがお気に入りになった。
こいつが俺を求めてくれたんだな。
髭の生えた端正な顔を覗き込む。なかなか良い目をしてるし、体躯も良い。俺はいささか大きい得物だけれど、こいつなら存分に俺を振るってくれるだろう。
こいつの為に戦いたいと思った。
きっと槍冥利に尽きる戦い方をして、俺を最期まで使ってくれるんだろうな。
優しい瞳を見てそう思った。
晴朝の養子に、と引き取られてきた秀康は、そりゃあ元気な幼子で、晴朝の袖を引っ張ってはけらけらと笑い、屋敷中を走り回るやんちゃ坊主だった。
「こら秀康、走んじゃねえよ。埃が立つだろぉ」
姿は見えないと知っていながらも声をかけざるを得ない。何分晴朝には子どもがいなかったから、俺は初めて見るちいさな人間に興味を持ったのだ。ただでさえ人間は脆いのに、秀康はずっとちいさくて、どこで怪我をして死んでしまうか気が気じゃなかった。
「あんたは晴朝の大事な子どもなんだからさぁ、もっとしっかりしてくれねえと俺も困るよ」
庭で遊び転げている秀康の近くにしゃがみこむ。いつか晴朝の名字を継ぐことになる子だ、もしかしたら俺を振るってくれる二代目になるかもしれない。死んでしまったら折角のこの結城の名も、晴朝の名前も、俺も全部無駄になってしまうのだ。
「晴朝に迷惑かけんなよぉ。俺の大事な主なんだからさぁ」
「……? あっちちうえー」
「おいおい、聞いてんのかよ」
ついつい益体もないことを言ってしまうほど秀康は元気な子だった。たおやかに微笑みながら、縁側からこちらを覗き込む晴朝に飛びつく。本当の親子のような彼らを、俺は神のごとく見守ってた。たとえ末端でも、まあ神様なんだけどな。
突然晴朝が俺を見た。ああ、見えるようになったのか。目を丸くした晴朝に、俺はにっこりと笑いかけた。見てくれて嬉しい、俺はあんたの槍だ。あんたが誇りにしてくれてる槍だよ。
言われずとも分かったのか、晴朝もいっそう微笑みを深くした。
「ちちうえー?」
「何でもないさ、行こう。ああ、今日は良い日だ」
大切で大事な主に見てもらえるってほど嬉しいことはないよなぁ。
次期当主にと秀康が正式に決まった時、こいつも俺の姿が見えるようになったらしい。その儀の時、晴朝は俺を秀康に譲ると言って、俺を秀康の前に差し出した。俺もちょこちょこそれについていく。俺の本体を眩しいものを見るかのような目で見たあと(だって俺は宝物だぜ?)、隣にいるのほほんとした顔の男を見て、秀康は素っ頓狂な声をあげた。
「父上、其奴は!」
「結城の宝、御手杵の槍に憑いている憑喪神だ。お前にもついに見えるようになったか」
「あんたにとっちゃ初めましてだなあ、秀康。あのやんちゃ坊主がこんな立派な武将になってよぉ」
秀康はちいさな子どもみたいにこれ以上無いってほど目を丸くした。男前が台無しだぜ、秀康。
「あんたのことこんなちっちゃい時から知ってるけどよ、あんまり変わらねえなあ、人間ってのは」
「お前を初めて見てから結構経つが、お前もそれほど変わっとらんぞ、御手杵」
「はは、人間じゃないしなぁ」
晴朝がさもおかしそうに言う。すると、暫く固まっていた秀康が、腹を抱えて声をあげて笑い出した。
「はははは! そうか! あの声はお前だったのか! 幼き時分より誰にも聞こえぬ声が聞こえると思っていたが、そうか、お前だったのか」
歩み寄る秀康が、晴朝の手にある俺の本体に触れる。
「お前の姿は初めて見るが、この美しい武器は、いつも私のそばにあったのだな。ああ良き日だ!」
ぶわっと。
俺の周りで桜が舞う。素晴らしいな、と目を細める晴朝に反して、嬉しいのか、と秀康はいたずらが成功した子どもみたいな顔をして笑った。
秀康は、邪魔者が追い払われるようにこの家に来たらしい。けれど、きっと生まれた時から秀康は結城家を継ぐ運命にあったのだろう。結城の家宝の声が聞けたなら、次期当主として申し分ないじゃないか。
のちに、俺は最期まで使われないまま飾りの槍になってしまったけれど、結局俺はこの家が好きだった。
初めて俺を見た時。俺の大事な二人の主は、俺との「初めまして」を、愛おしい思い出の中に刻みつけてくれたのだ。
『良い日だ』と、笑ってくださった。
今でも遠く褪せた空に馳せては思い出している。身体が溶け落ちたとき、あの二人の主の記憶は、心の支えになった。
俺に触れた、傷だらけの厚い手のひら。廊下を駆けた幼子の足音。驚きと喜びをもって俺の姿を受け入れてくれた、今は亡き俺の愛おしい主たち。
それらを思い出すたびに、俺はこの結城の宝で良かったと思うのだ。
『お初にお目にかかります』
(俺たちの愛おしい『初めまして』)
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