かずわや
2015-05-27 16:48:55
2748文字
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ぎねとさよ


近侍の仕事として御手杵の面倒を見ているうちに彼を大きな弟みたいに思うようになった小夜と、ちいさいけど自分より遥かに強い小夜がだいすき(家族的な意味で)な御手杵の話。私の本丸で今一番アツいでこぼこコンビ。


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今日の出陣は、御手杵にとっていささかレベルの高い敵が相手だった。それでも、練度の高い周りの刀が十分フォローできる合戦場を選んだのだが、この様子を見ればフォローが追いついていないと分かるだろう。刀装が剥がれているにも関わらずまっすぐ敵陣に駆けていく御手杵に、次郎太刀が「あいつ、まだ動けんのかねえっ!」と呆れた声を出して笑う。
後ろに隠れて一軍の戦闘を眺め、経験を得るだけでよかったはずの御手杵が一人で突っ走っていくものだから、御手杵を守ろうにも呆れてものも言えない刀が多数だ。
「捨て置いて行っても良いんじゃないですか?」
「何を言うがじゃ! あんなの尚更置いていけん!」
「無謀なことを……
敵と刃を交えながら、宗三、陸奥守、江雪が言葉を交わす。その間にも御手杵は自分よりも数倍大きな敵にその槍を突き出し、また間合いを取り、再び突っ込むということを繰り返していたが、御手杵の練度ではまだ歯が立たないのは誰の目にも明らかであった。

「あー、なかなか倒れねえなァ、こいつ」

既に御手杵を含む第一部隊は敵の本陣に入っている。そして今、御手杵が相対しているのが、まさしく敵の総大将であった。
ゾクゾクと背筋を震わせ、唇をキュッと吊り上げた御手杵は随分愉しそうだった。全力で槍を突き出しているにも関わらず、全く効いていなさそうな敵に怒りを通り越して笑みが浮かぶようだ。戦闘狂とまではいかないが、相手が強ければ強いほど燃えるほうだと自負している御手杵は、それじゃあとことん付き合ってやろうじゃないかと唇を舐める。
「うおりゃあっ!! まだかっ!ぐっ!?」
脇腹に鋭い痛みが走る。敵の斬撃が御手杵の上着の隙を突き、肌を切りつけていた。
やばい、間合いに入られた。
尚も笑みを浮かべた頭でそう考える。顔は笑っているが内心焦っていた。槍はリーチが長い分、懐に入られるとうまく処理できない。その間合いに、御手杵は敵の侵入を許してしまったのだ。

既に刀装はなくしている。次の攻撃は避けられない、まともに受ければ重傷だ。せめて傷を小さく、と手杵の槍の柄を振りかぶった刀に向ける。
赤い不思議な炎を伴った刀が振り下ろされる--その、瞬間だった。

ガキィンっ!!

鉄と鉄がぶつかり合う鈍い音が目の前に。御手杵は、今、たとえ反射といえども目を閉じていたことを、情けなく思った。

短い刃が御手杵の前に飛び出している。振り被られた大きな刃を、そのちいさな刀身が火花を散らしながら受け止めていた。
「ぁ、ああ……?小夜?」
「御手杵、身を引いて」
「でも」
「身を引いて!!」
動きが止まっているなら今がチャンスじゃないのか。
御手杵は槍を抱え直し、すぐさま敵の首に狙いをつけて突き出そうとした。しかし、小夜が激しい口調でそれを止める。
「今のあなたの練度じゃこの敵は倒せない。僕が殺すからあなたは後ろに下がって。これ以上傷つけるわけにはいかない」
「ああ、わかった

しぶしぶ引き下がった御手杵はその後、一軍隊長--小夜左文字の鮮やかな演舞を見ることとなる。

短刀で抑えていた相手の太刀を跳ね上げると、小夜はすぐさま敵の懐に走り込み、全体重をかけて強く、刃を骨と皮の腹に突き刺した。呻き声をあげて敵がよろける。ぐ、と力を込めて腹を裂いた後、刀身を回して傷を広げながら引き抜き、後ろに高く跳躍して距離を取る。
それで終わりかと思いきや、今度は御手杵の肩を借り、袈裟を翻して上空に高く跳び上がった。
「ひぇ?」
体重を感じる暇もなかった。台にされたことにも一瞬気づかず、目を丸くした御手杵の目前で、小夜はふらつく敵の喉元めがけて正確に得物を突き刺した。腹と喉の急所二つを突かれ、総大将の太刀は体勢を整えることもできないまま、風にさらわれる砂のようになり霧散する。

槍にはできない動きに見惚れていた。短刀という者は、ここまで鋭く恐ろしく美しく舞えるのか。
背筋の毛がぞわ立つ興奮。御手杵は強い者が好きだった。
「はは……、小夜はかっけえなあ」

仕事を終えた小夜はふうと一息つき、敵の埃と砂を被った顔で御手杵に向き直った。

……次は無理をしないで。僕だっていつもあなたを守れるわけじゃないから」

青くちいさな瞳は、既に戦の余韻から解き放たれ、さざ波も立たぬ静かな湖面のように静謐であった。
その驕らない視線に、また御手杵はしばし見惚れる。
認めよう。俺はまだ弱い。

「ああ、ごめんな。世話かけた」
「御手杵の面倒を見るのには慣れてる」
「だよなー。小夜はいつも助けてくれるよな、ありがたい」
「そう思うならまず周りを見て。僕はともかく、兄様たちの邪魔をしたら斬られてしまうよ」
「ん、わりぃ」

大きな槍とちいさな短刀が連れ立って戻ってくる。小夜が御手杵をたしなめている姿は、まるで親兄弟のようにも見えた。
「仲が良いですね」
江雪が微笑ましく言えば、宗三は眉を寄せてそっぽを向いた。可愛い弟が、兄ではなくて別の者につきっきりなのが面白くないのだった。

「なあなあ、高く跳んだ後に喉に突き刺すあれ、教えてくれよお」
「あれは短刀だからできるんだよ……。それに御手杵はまず手入れ部屋」
「うえー」
「その体じゃ復讐なんてできないからね……

物騒なことを至極まじめな顔をして言う小夜に、「復讐ねえ」と御手杵は笑う。このちいさな子どもは自分よりもよっぽど深い闇を抱えていて、それは誰にも癒されることはない。平気な顔をして永遠に「復讐」に囚われ続ける。御手杵が、逃げられないと分かる夢に苛まれ続けるように。
故に御手杵は彼の生きがいを止めたりしないのだ。

「良いぜ、手入れ部屋に行くよ。行くから今度俺と一緒に復讐してくれ」
……わかった」

そう軽口を叩き、小夜の同意を得ると、にっと御手杵は歯を見せて笑った。突然小夜の手が引き上げられ、御手杵の肩に丁度よく乗せられる。「え、ちょっとおてぎね、」珍しく狼狽えた小夜が、慌てて御手杵の好き放題にはねた鳶色の髪を掴む。しかし御手杵はどこ吹く風だ。
「助けてくれたお礼ってやつ」
顔を上げた瞬間、小夜の目がきらきらと輝き始めた。こんなに高い視点から地平線を見るのは初めてだったのだ。宗三よりも江雪よりも高い御手杵の背はあたたかい。まだ戦の高揚が残っているのだということに気づくと、小夜は思わず呆れながらその口元に笑みを結ぶのだった。