かずわや
2014-05-24 23:24:22
1268文字
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【ワンライ】まばたきの小さな闇【月山】


泣き声がちらつく。鞄を捨てられ、中身のプリントをばら撒かれて泣いている、情けない自分の声だ。

時々やってしまう癖の話。

真っ暗な部屋に一人でいるとき、その瞳を柔らかく閉じたとき、走馬灯のようにふとその声が聞こえてくる。呪いのように、俺を締め付ける。
いじめられていたという苦い過去は何年経っても俺の中から消えてくれなかった。いじめっ子達の歪んだ笑顔を思い出すたびに胸が抉られるような気がして、未だに足が竦んでしまって、体が冷えてたまらない。それでも俺は、布団を枕のように抱き寄せて、思い出したくもない記憶を瞳の裏で思い出すのだ。

痛いと分かっていて尚思い出すのは、なんてことない。
俺が求めているのはこの先にある幸せだから。これは所謂第一段階、下準備。踏み台に過ぎない過程。
本当に思い出したいのは、涙で滲む視界の中に現れる、『ヒーロー』の姿なのだ。

まだ幼い顔に浮かぶ嘲笑。俺が敵わなかったいじめっ子達に向けて、軽く吐き出された侮蔑の言葉。
それら全てが俺にとって輝いて見えた。何よりも代え難い宝物になった。

苦い記憶が、とてもあまくて大切な思い出に変わった瞬間だった。

幼い俺の泣き声が止む。遠ざかる『ヒーロー』の声を思い出せば、ずきずきと俺を蝕んでいた胸の痛みは綺麗さっぱり消えていた。
「ツッキー」
呟いた声は俺の中に溜まって。

滑稽な話だけれど、これは、俺がまだその隣にいられることへの感謝でもあるのだ。
こんな幸せを得る為に、俺が時々いじめられていた頃を思い出すと話せば、彼はどんな反応を返すだろう。
酷く気持ち悪がるかもしれない。どうでも良さそうにヘッドフォンを黙って掛け直すかもしれない。「うるさい」といつもの言葉を吐くのかも。
まあ、言わないけど。
そんなことを考えるたびに、俺は思わず笑ってしまうのだった。
どんな反応をされようが構わない。今が幸せなことは何が変わっても違わない。だって彼に出会えてこんなに幸せになれるなら、あの苦い記憶もそんなに悪くないなあなんて思ってしまうのだから。

苦しくて、悲しくて、情けなかったはずなのに。もう二度とあんな思いはしたくないのに。
彼と出会うきっかけをくれたと気づいただけで、思い出は180度色を変える。


まばたきの奥の小さな闇に、また俺の泣き声が響く。泣き声は次第に止んで、もう少しだけ低くなる。そのときの俺はもう成長していて、嬉しそうな声だけが彩っている。もう何度も脳裏に浮かんだ、彼との些細な思い出を馬鹿みたいに繰り返し。
あの時出会えて本当に良かった。
その想いを噛みしめる為に、俺は何度も瞳を閉じてみる。
……ああ、そうだなあ。
きっと君は「馬鹿じゃないの」って俺を嗤うんだろう。そんなことはもう忘れたよ、なんて。
ううん。良いよ、覚えてなくても。これはこれからもずっと俺の中に溜め込まれていくんだから。誰にも言わない宝物なんだから。
ただ、ひとつ、ありがとうって言いたいだけ。

宵闇に沈んで朝を待つ俺は、きっとあまく笑っているのだろう。