かずわや
2014-04-09 12:56:00
2313文字
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烏羽玉の花


【冒頭文】そんな風に求めてばかりいるからみじめなんだよ。
【要素】さよなら、催眠、烏羽玉
【CP】嶋山
フォロワーさんから頂いたお題小説です。


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そんな風に求めてばかりいるからみじめなんだよ。
悪態をついたのは自分なのに、理不尽に涙が溢れ出しそうだった。
そうだ、俺がいつまでも甘えていたから。全て幻覚だったと自分に思わせてしまわなければならないほど、嶋田さんを追い詰めてしまった。
気づいた時にはもう遅くて。
俺に何も気づかせずに何かをやるのは、あの人のオハコだった。

「ごめんなさい

ベッドの中でそう呟く俺を、嶋田さんは優しい顔をして撫でてくれる。
自分のことも、俺のことも考えて出したであろう、きっと苦しい決断。俺はそれを受け入れるしかなかった。嶋田さんと俺の弱さを。


「嶋田さん、これサボテンですか?」
窓辺に置かれた、小さな植木鉢に手を伸ばしてみる。背が低く、控えめで小さな棘。随分こぢんまりとしたサボテンだ。
「ん、ああ。知り合いから貰ってさ」
忠みたいだろ、それ。と嶋田は歯を見せて笑う。
「どこがですか
「んー?この控えめなところとか。謙虚なお前みたいで可愛いなって」
そう言って隣に寝そべる少年の髪を梳くと、少年は頬を真っ赤にしてサボテンに伸ばした手を引っ込めた。拗ねたように顔を背けてしまうので、けらけらと笑いながら謝ってやる。
「ほら、機嫌直せよ」
キスしてくれたら、直します」
布団を口元まで被るのは彼に対する些細な嫌味だ。些細すぎて、嶋田にとっては煽りにしか見えない。
それにしたって、いつもは受身な少年が口に出すこの嫌味は、ただの可愛い甘えでしかないのだ。

「ばーか」

布団を引っぺがして、唇にちょんと口付けてやる。おまけに鼻の頭にも。
足りないとばかりに山口の腕が嶋田の首に回った。ぐっと引き寄せられ、少し不機嫌な顔が間近に迫る。

「もっと
っ」

その言葉の、なんと可愛いことだろうか。
真下にいる少年が自分と同じ性別だとは思えない。けれどこの体つきも手の大きさも確かに男であるし、しかも彼は自分より少し背が高いのだ。
良い、それでもこの子が愛おしい。
嶋田はさらに深く山口に口付ける。自分の中に取り込むように食べ尽くす。
「ふぁっ。しまださんすき、です……んっ」
「俺もだよ、忠」
山口が幸せそうに笑う。それを見て、嶋田は恋人として幸せに浸らなければならないはずだった。
けれど、今の彼を蝕むのは、苦い不安だ。下の山口が無邪気に微笑み、嶋田を呼ぶたびに、嶋田の中で重たく苦しい黒の煙がぐるぐると逆巻くのである。

これは一種の麻薬のようだ、と嶋田は思った。
山口を欲しがれば欲しがるほど離れられなくなっていく。たとえ自分の人生がボロボロの濡れ雑巾みたいになったって、嶋田はきっと自分の幸せよりも山口を取ってしまうだろう。それくらい彼は『麻薬』なのだ。
愛おしくて、甘くて、
欲しくてたまらない。優しく可愛い少年の毒。
そんなのは、だめだ)
この子のためにも。
自分のためにも。
この恋が花開くことはあってはならない。黒く、重たい、自責の念が、嶋田にとり憑いてぐるぐると巡る。

山口は無邪気に笑っていた。


サーブ練習が終わった金曜日、山口は友達の家に泊まると嘘をついて嶋田と同じベッドにいた。細やかな甘言を交わし合って、秘密の晒し合いをしあって、少女のように肩を竦める少年に、嶋田はふと声をかける。
山口の脳内に注ぎ込むように、ゆっくりと、静かに力強く。
「忠、もうやめにしよう」
静寂。
先ほどまでけらけらと笑っていた山口の顔が固まる。みるみる青白くなっていく表情に嶋田は胸を痛めた。
だが、言わなくてはならない。
自分のためー自分を好いてくれている山口のために。
「これ以上俺といたら、忠は駄目になる。忠の未来を、俺は駄目にしてしまう」
『大人』として、嶋田は山口に言わなくてはならない。
「だからもう……別れよう」
ベッドの中で繋がっている手は、酷く熱い手は、こんなにも力強く山口の手を握っているのに。離れ難くしているのに。
……しまだ、さん」
手がスッと離れた。
それだけで、山口は体温が急激に下がった気がした。
「だ、駄目になんかならないです!なんでそういうこと言うんですか、嶋田さん!」
「忠は、良い子だからわかるよな」
自分から遠ざかった手が、髪を梳く。ごつごつしているけれど優しいその手に恋をしたのに。自分を見守ってくれる親のような瞳に恋をしたのに。
「ごめんなさい……
……けれど、そうやって自分のことを思いやってくれる、嶋田の優しさにこそ恋をしたのだ。
反論できるはずがなかった。

「さよならだ、忠」

密やかな二人だけの時間を引き裂く、残酷な言葉。死刑宣告にも近いそれは、嶋田にとっても同じ気持ちだっただろう。

なあ忠。烏羽玉って知ってるか」
「ひっく知らない、ですぐすっ」
「サボテンの一種なんだけどさ、花が咲くまで三十年くらいかかるらしいんだ」
……?」
「だから、」

目尻から涙を零しながら、嶋田は震えた声で言う。

「三十年経っても、お前が俺のこと好きだったらまた、帰ってきて、くれないか……?」

三十年かけてやっと咲く花もあるのなら。
この恋だってまだ期待していいのかもしれないと。
そんな虫の良いことを考えて、山口の迷惑にしかならないだろう。それでもやはり嶋田にとって、彼は離し難い存在だったのだ。
………………はい」
真っ赤に腫らした目を細めて、山口は微笑んだ。