かずわや
2013-06-30 23:44:38
1170文字
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聞かせない慟哭


「やっぱり駄目だった」
泣きそうに瞳が潤んでいた。いやもう泣いていただろう。僕の肩に顔を埋めて、君は小さく嗚咽を漏らす。全く僕の可愛い友達を泣かせるなんて、とんだ糞野郎だな。硬質の髪をゆったりと撫で憤慨するも、少し安心している自分が居た。
「もう、諦めちゃってもいいんじゃない」
無理な変化は君に良くないからさ。君を離すのが怖くて、僕はそんな罠を仕掛けてみる。するとやがて嗚咽が止まって、彼は照れ臭そうに僕から離れた。名残惜しい。僕の服が君の涙に濡れていたって、僕は一向に構わない。その涙を抵抗無く舐め取れるほど、僕らが近しい関係だったらな。そんな劣情を抱いた瞬間氷の中に閉じ込めて、僕はもがく君の言葉の続きを待つ。
「でも、好きなんだ」
どうしようもなく。
「嫌われるのが怖いよ……嫌われたかもしれない。いや、嫌われたんだ。俺が余りに怖がりだったから。でもね、ツッキー、そう思ってもまだ俺はあの人が好きなの。」
目元をごしごしと拭いて、山口はできるだけ明るく笑う。そして僕の手のひらに自らの手のひらを重ねて、体を倒してきた。僕は黙って受け止めてやる。少女では無いから柔らかくないけれど、僕にとっては最も愛しい友の体を抱きしめて、その匂いを肺いっぱいにこっそり吸い込む。山口は息を吐いた。
「でもやっぱり辛いから……。もう少しこのままでも、いい?」
「いいよ。お前がそうしたいんだったら」
「ありがとツッキー。俺、ツッキーの優しいところ、好き」
……僕も好きだよ。お前のこと」
「えへへ」
柔らかく抱きしめていた力を強くして、いっそう君をこの腕の中に閉じ込めて。本当はもう何処にも行かせたくない。悪いけれどその恋を早く諦めてほしいと思っている。だけどそれを言えないのは、僕が君の良き親友でありたいからだ。最愛の友達に、一番に信頼される存在になりたいから。山口が密やかに思い人の名を紡ぐ。僕の名前を呼ぶその口で、僕よりも愛しているかの人の名前を。
良いんだ。山口は誰かから貰える愛情に慣れていない。僕があげるそれには慣れているのだけれど、他人からのは少し恐怖があるらしい。恥ずかしくてつっけんどんになって、結果愛情をくれる人を傷つけてしまうのだ。そんな山口に好きな人ができて、好きな人も山口を好きでいてくれることは、僕も嬉しいことなのだ。幸せではないけれど。
できれば山口は幸せにしてやりたい。山口の好きな人と結ばれてほしい。そう願うのは、君にとっての良き親友の僕。
山口を幸せにしてやりたい。それができるのは、山口が唯一受け入れられる惜しみない愛情を与えられる僕しかいない。そう望むのは、君を最愛とする友達の僕。
痩躯は未だに僅かに震えていた。それにどうしようもない悲しみと愛しさを感じて、僕はただひたすらに君を閉じ込め甘やかした。