スサ
2024-06-15 22:00:30
3717文字
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【ゲ】潮干狩り行く義親子の話

ほのぼのです。転職水が職場の日帰り旅行にちいこい鬼くんつれてく話です。養父がマドンナでモテる。
「きー坊」は杜さんのお話から…(以前お許し頂いてます)

 子を育てるには金がかかる。だから働かないわけにはいかないが、同時に、人ならざる子のそばにいる時間も大事だと思った。
 また、売血への世間の風当たりやまなざしの変化もあり、結論として水木は住まいのもう少し近くに職を変えていた。以前世話になった製薬会社の役員が口利きしてくれたのは医療器具を扱う会社で、さほど規模は大きくなかったが、悪くない職場だった。
 子育て中の者も多く、昼休みはそれぞれの家庭や子供の話で盛り上がる様子もそこここで見られた。実の子ではないとはいえ、水木が育てる子もまだ幼い。まだ男が育児だなんて、という意識が世の中にないではないが、そうはいっても子煩悩な男親というのがいないわけでもなし。
 自然、子どもの話題をきっかけに親しくなることも増え、若手とまだ子が幼い社員を中心に、日帰りのバス旅行の企画が持ち上がったりした。
 養い子、鬼太郎は普通の子ではない。というより人間の子ではない。だが見た目に大きな違いがあるわけではないし、笑うとうんと可愛いのである。身内びいきだろうと知ったことか。あの子は本当に可愛いのだから。

 それなりの人数が集まり、観光バスを貸切にしての日帰り旅行の先は、潮干狩りだった。昼は食材などを持ち寄り鉄板焼だそう。何でも、そういった催しが好きな社員がいるとのことだった。
 人見知りというか、おとなしい子である鬼太郎は、知らぬ人ばかりの環境にやはり緊張しているのか、しっかり水木にしがみついて離れない。だが、小さな手でぎゅっと水木のシャツを握る様子や、水木の胸元に押し付けられた大福のような頬は周りの大人や年上の子ども達から見ても微笑ましかったようで、お父さん子ねぇ、と微笑ましく見守られることとなった。
 それに何と言っても、自分の胸にしっかり抱きつく幼子を見やる水木の穏やかで優しい顔があまりにも眼福だったのである。すれ違う老若男女が二度見三度見するくらいに。
 今日は海に行くんだ、海っていうのは大きくて、と優しく話しかける水木に、幼子がはっきりしない小声で問いかけた内容は誰にもわからなかったが、破顔して、そうだ、銭湯の風呂よりずっとずっと大きいぞ、と水木が言い聞かせるに至って、可愛らしい質問だったのだと周りにも知れる。そうしてさらに、怖くなんかないさ、俺が一緒なんだから、と言ってまあるい体を揺らしてやる水木は実に愛情に溢れていたし、ひしと抱きつきながら、いとけない、シャボン玉のような笑い声をこぼす子だって、きっと実の親へ向けるような全幅の敬慕を向けているに違いない。
 わけあって親友の子を引き取ったのです、と照れくさそうに会社で言った水木に、そんなことできるもんだろうか、と思った人間だっていたかもしれないが、目に入れても痛くないと言わんばかりの様子を見せられてはそんな疑いは捨てるしかなかっただろう。

 潮干狩りにきているのだから当然だが、海はなかなかの勢いで沖に引き始めていた。
 鬼太郎が波に足をとられては大変なので、水木は鞠のような体を抱き上げている。
「帽子飛ばないようにしないとな」
 ゴムがついているとはいえ、海は風が強い。片手で器用に鬼太郎の体を抱き込み、もう片手で幼い義息に被らせた帽子を押さえる。すると、ん、と凛々しい顔で頷いて、鬼太郎は両手で自分の帽子のつばを掴む。えらいなあ、鬼太郎は賢いな、と手放しに褒める水木に、鬼太郎は恥ずかしそうに顔を隠してしまう。
「なぁんだよ、恥ずかしがり屋さんめ」
 楽しげに頬擦りする水木と、きゃーっと笑ってはしゃぐ鬼太郎の背でほんの少し残った海がキラキラと光る。眩しい光景に、同じ社内の人間だけでなく、通りすがり人達も立ち止まったり二度見したりしていく。
「きたもあしゃりとぅにくの」
 ね、とシャツを引っ張られ、水木は目をふっくらとたわませ、そうだな、と頷く。
 鬼太郎を抱いた腕、その折った肘には熊手が入ったバケツを引っ掛けた格好で浜から離れていく。薄く膜のように残った波が跳ねるが、さすがに腕の中の子にまではかからない。それでもキラキラした反射光は目に入るのか、光を捕まえるように小さな手を動かす。
「こら、きー坊、あんまり動くと落っこちちゃうぞ」
「みじゅ、きやきあ!」
「ん?ああ、きらきらだな」
 顎で帽子を抑えるようにして、水木は笑う。幼子につられるように。そしてそれが嬉しくてまた鬼太郎も笑う。
 潮干狩りだから目的は貝採りだけれども、子連れなら半分くらいは子どもを遊ばせるためだろう。そういう意味では、水木はもう充分元をとった気持ちになっていた。
 足元に視線をやれば小さなヤドカリが見え、しゃがみこみ、ほら、見てみな、と優しく声をかける。
……むいむい?」
「はは、でんでん虫じゃないよ、ヤドカリだ」
「やーかり」
 うんうん、と頷いて、水木は鬼太郎の体を少し離して浅瀬の底が見えるように、しようとしたが、離されるのを嫌がるように鬼太郎が手足をばたつかせる。
「落とさないって」
「や、みじゅ、みうがい!」
 必死に腕を伸ばす顔を見たら、水木もそれ以上は離せず、まったくと言いながら自分の胸に抱き寄せる。ぽんぽんと背中や尻を軽くたたいて、きたはまだみずがいいか〜、と鼻歌まじりにいえば、んと顔を埋めてくる幼子は、全身で養い親に甘えていた。
「本当に可愛がってるのねぇ
 こっそりとその様子を横目に見て、同じ会社で働く女性が話しかければ、その同僚たる男性も「なんか、意外だなぁ」と応じる。
 会話の端々から水木が養い子を大事にしているようなのは伝わってきていたが、現実はそれ以上だ。
「子煩悩っていうか。でも実の子じゃないんだろ」
「自分の子だってあそこまで面倒見れる男の人、珍しいんじゃない。格好良くて紳士なだけじゃなくて子どもの面倒見までいいなんて
 完璧じゃない?と女性数人で話し合う横、男性陣は男性陣でまた違う心情でもって水木達の様子を見ていた。
うちの姉ちゃんより優しいんだけど」
「甥っ子いくつだっけ?」
「みっつ、ちょうどきたちゃんと同じくらいかも」
なんか、水木さんてあんな優しい顔すんだな
 なんというか、変な気分になりそうだ。と男性陣の一部に妙な緊張感が走る。男らしくはないかもしれないが、それをからかおうと思う者はいなかった。
 大人達はそんな様子だったが、子どもは素直なので、小さな子どもに付き合う水木の所に「いくつ?」「カニさん見る?」「でっかいハマグリとれた!あげる!」などとわらわら集まってきた。最初に鬼太郎を見にやってきた女の子に水木が「次の誕生日で3歳だよ」と微笑んだのを他の子も見ていたのだ。
 鬼太郎よりお兄さん、お姉さんにあたる子たちに鬼太郎はすっかり人見知りして水木の胸に顔を埋めてしまったものの、徐々に顔を見せるようになり、最後は一緒に小さな手で貝を拾うまでになった。
「みじゅ」
 見て、とばかりに小さな手がアサリを見せてくるのを、水木は微笑んで見ていた。
 とはいえ根が働き者なので、鬼太郎を見つつちゃんと貝もとっている。その様子を見て、同僚達は「仕事のできる男」と唸っていた。
「きーちゃんのお母さんはいないの?」
 と、わらわら集まる子ども達の誰かから無邪気な質問が飛ぶ。アッ、と焦ったのは話が聞こえる程度に近くにいた親である。周囲の大人たちにも少し緊張が走る。
 う?と首をひねった鬼太郎はまだ意味がわからず、きょとんとした幼子の肩を抱き寄せるようにして水木が答える。そうだよ、と。
 水木は悲しげな顔をして、けれど口元はどうにか微笑んでいる、といった顔をした。
 その顔、表情にはどうやら年端のいかない子ども相手にも訴える力があったようで、怒られたわけでもないのに「ごめんなさい」と謝る。
 親も自分の子どもの肩をつかみ、すみませんと頭を下げる。
 水木は苦笑し、気にしないでください、大丈夫です、と声をかけた。
 相変わらずきょとんとしている鬼太郎を軽く抱き寄せ、水木は目をやわらかく細めて微笑んだ。涙袋がたわんで、うんと優しげな顔になる。その顔で命じられたら何でも聞いてしまいそうな
「だからその分も、おじさんは頑張って鬼太郎が寂しくないようにしたいんだ。君もうちの子と仲良くしてくれたら嬉しいな」
 な?きたもそう思うよな?と小さな鬼太郎を背中から抱きこむようにし、その腕を軽く上げさせる。鬼太郎は、う?と不思議そうな顔をした後、自分を覗き込むような水木の顔を見てふにゃっと笑う。
「あーい」
 はい、よくお返事できました。
 慈母のごとき言葉と表情は、比較的年上の子ども達の心に消えない印象を残すことになったが、それはまた別の話である。

 帰りの車内では、やはり水木の胸にしがみつくようにして眠る鬼太郎と、時々あくびを噛み殺しながらもぽんぽんとその背をゆっくり叩く水木の姿が見られ、来年と言わず秋の行楽にもバス旅行の企画を決意する社員グループがあったとか、なかったとか。