すずかけあおい
2024-06-15 11:50:38
2353文字
Public 早く大人になりたいな
 

早く大人になりたいな いちゃいちゃ小話

萬里と圭一がいちゃいちゃしているだけの小話です。

「萬里さん、これおいしい」
……
 杉田圭一、二十歳になったので初のアルコールに挑戦。だけれど萬里はずっと渋い顔をしている。
「顔が赤いぞ」
「ん……
 頬を撫でられ、くすぐったくて目を細める。そんな圭一を見た恋人はため息をつく。おいしい酒にそんな重苦しい表情はいけない。萬里の頬をつまむと、また嘆息された。
「酔ってるだろ」
「酔ってないよ」
 少しふわふわするくらいだ。心地よくて思考までとろんとしてくる。圭一がなにかするたびに眉を寄せるのは、機嫌が悪いのだろうか。
 そっとその額にキスをしてみる。
「酔っ払い」
「酔ってないって」
「酔ってるやつほど、そう言う」
 圭一の髪をくしゃくしゃとかき混ぜてまた眉をひそめる。そんな顔ばかりしなくたっていいだろう。
 愛おしい恋人は圭一の前では酒は飲まなかった。それはきっと未成年の圭一に合わせてくれていたからだ。だが、きちんと成年になったのだから一緒においしい酒を楽しみたい。大人な萬里にはそう簡単に追いつけないが、それでもわずかには近づいたのだ。
 そんな気持ちが余計に心地よさを連れて来る。萬里の太腿に頭をのせて甘えてみる。
「萬里さん、好き」
「酔っ払いが言うことは信用しない」
 冷たい答えに唇を尖らせる。こちらが愛を伝えたら、甘い言葉で返してくれてもいいのに。
「酔ってなくても言ってるじゃない」
「それは信じる」
 いつもよりそっけない萬里は圭一の頭をぐりぐりと撫でまわしてから、ぽんと軽く叩いた。
「圭一は外で飲むなよ」
「どうして?」
 膝枕の体勢から見あげても萬里は恰好いいけれど、やはりなにか複雑そうな、なんとも表現できない顔ばかりする。圭一が酒解禁になったことをもっと喜んでくれると思ったのに。
「萬里さん、今日冷たい」
 少し拗ねて身体をまるめる。圭一ばかり飲んでいるのも楽しくない。
……やっぱりお酒、嫌い」
「それでいい」
「萬里さんもお酒嫌いなの?」
 身体を起こして顔を覗き込むが、ふいと視線を逸らされた。やはり冷たい。
「嫌いなのは圭一が酒を飲むことだ」
「どうして?」
 もごもごとなにか言っているけれど聞き取れない。口もとに耳を近づけると、頬に唇が触れた。
「萬里さん?」
「可愛すぎて襲いたくなる」
 わずかに頬を赤く染めた萬里は、圭一を腕の中に閉じ込めた。そのまま萬里が身体を倒し、彼の上にのる恰好になって慌てる。
「お、重いよ」
「全然」
「でも、これ恥ずかしい……
 背中にきつく腕がまわっているので、萬里の首もとに顔を寄せて密着している。優しいにおいを感じ、胸が甘く騒いだ。
「圭一は無防備だ」
「そんなことないと思うけど」
「じゃあ今俺が圭一をどうしようとしてるかわかってるか?」
 それはわからない。もしかしてキスしたい、とかだろうか。先ほどの頬へのキスも不意打ちで心臓が跳ねてしまった。
「このまま俺の部屋に閉じ込めておきたい」
「え……
「こんなに可愛い圭一に、外を歩かせたくない」
 過保護であぶない願望に頬が熱くなった。キスよりもっと優しくて甘い。萬里の首に頬ずりしてひとつ頷いた。
「うん。いいよ」
「酔っ払い」
「酔ってない」
 身体を少し起こして萬里を見おろす。普段とは違う角度から見る彼はとても色っぽくて、思わず顔を背ける。だが、すぐに頬を包まれて、もとの位置に戻された。
「じゃあ一緒に暮らすか」
「え?」
「俺の部屋にいてくれるんだろ?」
 目を瞬いて、言われた言葉の意味を考える。それはつまり、同棲……
 理解したと同時に、かあっと頬が燃えるように熱くなった。萬里と同棲。そんなの嬉しすぎる。
「い、いつから?」
「圭一が大学卒業したら」
「えっ」
 そんなに先までおあずけなのか。高校生のときのおあずけ体験を思い出す。
「やだ。今すぐ一緒に住む」
「だめだ」
「なんで!」
「けじめだ」
 なんだかこんなふうに頭の固い萬里も懐かしい。言い合っているうちに可笑しくなってきた。
「萬里さんのそういうところ、本当に好き」
「じゃあ卒業後でいいな」
「よくない。引っ越し業者探してみる」
 圭一からキスを贈って、善は急げと身体を起こそうとするが阻まれた。腰に腕がまわり、ぎゅっと抱き寄せられる。その近い距離に今さらどきどきしてしまった。
「じゃあ覚悟してさっさとここに越してこい」
「覚悟?」
 ふっと柔らかく目を細めた萬里が圭一を見つめる。その甘い視線に肌がさわりと粟立った。
「一生離さないから」
 まるでプロポーズのような言葉に視界がゆらりと揺らめいた。泣いたら萬里が見えなくなるので、手の甲で目もとをこすってひとつ頷いた。
「萬里さんこそ、酔ってるんじゃないよね?」
「俺はひと口も飲んでないだろうが」
 後頭部に手が滑り、うなじをするりと撫でられる。誘われるままに唇を重ねた。萬里にとっては酒臭いキスかも、と思ったが、離れたくなかった。何度も唇を合わせて吐息が触れる。
「萬里さんってすごい」
「なにが?」
「俺、すごく酔っちゃった」
 酒ではふわふわした程度なのに、萬里の甘い言葉や優しいキスで完全に泥酔状態になってしまった。視界が定まらず、とろんと思考が溶けていく。温もりを求めるように抱きついて瞼をおろした。今になってアルコールも効いてきたのか、眠気が襲ってくる。だが、なにより圭一を安心させるのは萬里の体温だ。これさえあればどこでも眠れる自信がある。
「そういう殺し文句をどこで覚えてくるんだ……
 遠くで呆れたような声が聞こえたけれど、眠くて目が開けられなかった。
 朝起きたらいつも隣に萬里がいる生活が、近い未来に待っている。



(終)