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すずかけあおい
2024-06-15 11:49:43
1723文字
Public
王子様のご執心
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王子様のご執心 いちゃいちゃ小話
里村と章人がいちゃいちゃしているだけの小話です。
「ゆ、悠誠」
「
……
」
勇気を出して呼びかけてみると、里村の動きが止まった。
「あのさ」
「どうしたの、章人。悪いものでも食べた?」
それは思われて当然の質問だ。章人が里村を名前で呼んだことはない。ではなぜ呼んだかというと、それは「甘えてみたくなった」から。無性にそんな気分なのだ。暖かい陽気で脳みそが溶けたのかもしれない。もちろん恥ずかしい。教室からは出て、ふたりきりのときを選んだ。
「あの」
「うん?」
まだ不思議そうな顔をしている里村が、それでも章人の話を聞いてくれる。ほわんと心が温かくなった。
「手、繋いでもいい?」
「ほんとにどうしちゃったの?」
そう思うだろう。章人も同じように思っている。人間は不思議な欲求が生まれるときがあるのだ。それはもしかしたら、普段素直になれない反動なのかもしれない。
「だ、だめ?」
「いいけど
……
」
訝りながらも手を差し出してくれるので、おずおずと握る。かあっと頬が熱くなったが満たされる。この満たされる感じが欲しかった。
里村とつき合って、それなりに関係も進展している。けれども俗に言う「いちゃいちゃ」とはほど遠いところにいる。章人だってそうやって甘えられたらと思うし、いちゃいちゃできるならしてみたい。恋人とくっつきたいという願望はおかしいことではない、はず。
「種明かしして?」
「種明かし?」
「罰ゲーム? それとも、世界の終わりでも感じ取った?」
なるほど、さすが頭のいいやつは想像力も豊かだ。罰ゲームは章人でも思いつくが、世界の終わりは浮かばなかった。そういう理由づけをすればよかったのかもしれない。
「甘えたいだけ」
だが今はそんなごまかしを言いたくないくらいにまで、里村にくっつきたい。心で触れ合いたい。
「えっ」
「悪いかよ!」
いつもの調子が戻ってしまい、慌てて口を手で押さえる。里村はほっとしたように表情を緩めてから章人の頭をぽんと撫でた。
「具合が悪いんじゃないんだよね?」
「うん」
「頭をぶつけたとか、そういうのでも」
「ない」
それならいい、と髪をくしゃくしゃかき混ぜられる。くすぐったくて恥ずかしくて少し俯くと、ふにと唇を押された。
「手を繋ぐだけでいいの?」
「いい」
「ほんと? 足りないんじゃない?」
章人ではなく、里村が足りないのだろう。それでも呆れより胸が高鳴った。里村が章人に触れてくれることが嬉しい。
「悠誠が足りないなら、いいよ?」
「章人に名前呼ばれると危険」
「なんで?」
「すごく可愛い」
いつもならば言い返すが、今は素直に受け入れて里村の肩に頭をのせる。ゆっくり抱き寄せられ、唇が重なった。離れていく柔らかな温もりを追いかけるように、里村のうなじに手をまわして引き寄せた。
「もう、章人
……
降参」
キスをしているのに笑い出した里村は、章人を軽々と抱きあげて自身の膝の上に座らせた。里村の脚に跨る恰好になり、さすがに逃げ出したくなった。
「だーめ」
「里村意地悪」
「里村じゃないでしょ」
「
……
」
口の中で「ゆうせい」ともごもご言うと、里村の笑みが深まる。頬に唇が触れ、章人も里村にキスを贈った。
「ねえ章人」
「なに?」
「明日世界が終わっちゃうかもしれないから、今日うちにおいで?」
そんな確証はどこにあるのか。さすがにその誘い文句は呆れたが、そうならないという確証もない。
「世界が終わらなくても誘うくせに」
「大正解」
「
……
ご両親は?」
「いつもどおり仕事」
それなら、と小さく頷く。里村は章人の腰を引き寄せて、もう一度キスをした。甘く優しく、吐息が合わさる。
「満足した」
「俺は満足してないよ」
「もういい」
里村の膝からおりて隣に座り直す。たくさん甘えられて満たされた。充足感でほくほくしていると、また肩を抱かれる。
「章人は本当に可愛い」
「可愛くない」
またいつか気が向いたら名前で呼んでみよう。それは明日かもしれないし一年後かもしれない。そのときには今日以上に甘えたい。
もしかして、自然と名前で呼ぶようになる日が来るのかな、と想像してみたら頬がぽうっと火照った。
(終)
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