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すずかけあおい
2024-06-15 11:47:09
2924文字
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読み切り小話
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読み切り小話 武×良介
受けの心の声が聞きたい攻め(武)と、少し我慢しがちな受け(良介)、大学生カップルの小話です。
「Bluetoothついてる?」
「は?」
武が突然重要なことのように聞いてきたが、なににBluetoothがついているのかを聞かれているかわからない。
「なにに?」
「良介に」
なぜ人間にBluetoothがついているのだ。聞かれた良介は一瞬混乱した。なにか深い意味がある質問なのか、言葉のままの問いなのか。あれこれ小難しく考えるタイプではない武なら後者だろうと踏んだ。
「ついてるわけないじゃん」
ついていたら怖い。
「そうかな。オンにしてみてよ」
徐に手を伸ばした武は良介の耳たぶに触れ、つまんだり離したりして電源を入れるような仕草をしている。そんなことをしても、ついていないものはついていないのだからオンになどならない。
「繋がるかな」
「いやいやいや」
冗談にしては真面目すぎる表情でイヤホンをつける武に首を横に振る。だが武は目を閉じてイヤホンに集中している。なにも聞こえるわけがない。良介はデジタル機器ではないのだから。
「おかしいな。なにも聞こえない」
首を傾げてイヤホンを外し、もう一度良介の耳たぶをつまむ。発想からしておかしい。
「聞こえるわけないじゃん。そもそも、なにが聞こえると思ったの?」
「良介の心の声」
間髪を入れずに答えが返ってきたが、さらに意味がわからない。
「心の声?」
それは良介が考えていることや思っていることだろうか。そんなことを聞いてどうするのか。良介からしたら心の声を聞かれるなんて、もちろん恥ずかしい。
「俺、たまに心配になる。良介に無理させてないかなとか、我慢させてないかなとか」
「無理なんてないけど
……
」
無理はしていないけれど、人と人とのつき合いなのだから少しの我慢くらいは誰にだってあると思う。会えなくて寂しいのを我慢したり、忙しいかもしれない、と電話で声が聞きたいのを我慢してメッセージにしたり。そういうことは仕方がないことだ。
「心の声が聞けたらいいなって、すごく思うんだ」
「うん。ごめん」
「なんで?」
今度は武が不思議そうにする。そこまで良介を気遣ってくれる優しさが嬉しいけれど、逆に申し訳ない。きっと良介のなにか負の感情が透けて見えていたからそんなことを考えたのだろう。隠しごとが通用しないのは、それだけよく見ていてくれているのだとくすぐったくて、まる見えになってしまう自分が情けなくもある。
「心配かけちゃってるな、と思って。でも武がそばにいてくれたら、それだけでいいから」
もっともっとと望んでいたら、きりがない。自分は欲張りな人間だから、求め続けていたら武を食い尽くしてしまうかもしれない。
「今、すごくBluetooth機能が欲しい」
良介の肩に額をつけた武が唸るように零す。両肩に添えられた手は微かに震えている。
「どうして?」
「だって良介、なにか我慢してる」
「
……
」
顔に出ていただろうか。じっと目を覗き込まれて視線を逸らしてしまう。それでは肯定したようなものだと視線を戻すと、寂しそうに微笑んでいる。そんな表情はさせたくない。
「
……
だって、武がすごく好きなんだ。好きすぎて、気持ちが爆発しないように抑えないと」
呟くように言うと、自分でもこんな気持ちは重いとわかった。思わず後悔のため息をついてしまう。武は一瞬目を瞠り、それから両手を伸ばしてきてわしゃわしゃと良介の髪を撫でた。
「わ、なに」
「やっぱBluetooth機能いらないから、もっと口で言って」
乞われる視線に恥ずかしくなる。武の真剣な瞳でまっすぐ見つめられることには、いつまで経っても慣れない。それでも、頬が熱くなるのを感じながら見つめ返した。
「
……
武が好
――
わ」
まだ言いかけているというのに、ぎゅうっときつく抱きしめられた。苦しいくらいの抱擁が、逆に優しい気持ちにしてくれる。
「俺も良介が好き」
深い愛情を感じる落ち着いた声。心の底から気持ちが出ているとわかる。気持ちをうまく伝えるのが苦手な良介は、彼のこういうところが羨ましい。まっすぐに、正直に。包み隠さず溢れる思いを伝えてくれるところが愛おしくてたまらない。
「大丈夫。気持ちが爆発しても全然問題ないから、いっぱいぶつけて?」
言葉を促され、軽く身体を離す。優しい瞳を覗き込み、その真意を探す。
「でも武はそれでいいの? 迷惑じゃない?」
「むしろそうして欲しいよ。良介の気持ち、たくさん聞きたい」
瞳の中にわずかの困惑も見られない。まっすぐに良介の気持ちを求めてくれている姿に胸が熱くなった。
「じゃあ我儘言ってもいい?」
「言って。なに?」
本当に言っていいのだろうかと悩むけれど、向けられた視線に嘘がないので素直に口を開く。
「毎日会いたい。会えないなら声が聞きたい。武をいつでも感じてないと寂しい」
「うん」
「もっとそばにいたい。たくさん抱きしめて欲しい。いっぱい好きって言って欲しい」
言い出したら止まらない。恥ずかしいけれど、これが良介のいつも考えていることだ。欲張りな願望で縛ったら、武に呆れられてしまうのではないかと我慢していた。
「それ、全然我儘じゃない」
言葉と裏腹にとても困ったような表情をして見つめられ、やはり迷惑だっただろうかと不安になる。
「良介が可愛すぎる。離したくなくて困るくらい大好き」
頬を軽くつままれ、宝物を見るような瞳を向けられた。武が聞きたかったのは、これなのかもしれない。良介の、包み隠さない本音。
「心の声が聞きたいけど、Bluetoothで自動的に聞くより、良介の口で言ってもらうほうが嬉しい」
「うん
……
」
「たくさん気持ちを聞かせて? 俺が『そんなの難しい』って困るくらいのこと言ってよ」
考えてみたこともないおねだりだ。そんな難しい願いごとをして欲しいなんて知らなかった。期待されても頭を悩ませてしまう。良介が言えばなんでも聞いてくれるような武が困る願いごととはどんなものだろう。
「たとえばどういうこと?」
「蓬莱の玉の枝や竜の首の玉をとって来いとか」
「かぐや姫じゃないし、そんなこと言わないよ」
それはたしかに無理難題だ。思わず笑ってしまうと、武は幸せそうに目を細めた。
「良介が望むなら、俺頑張るよ」
「頑張らなくていい」
こんなに愛してくれている人に対して、呆れられるかも、と気持ちを我慢していた自分が恥ずかしい。これほどまっすぐ思ってくれているのだから、良介も全身でぶつからなければいけないし、そうしたい。
「じゃあ、もっと簡単な我儘。今日泊まっていっていい?」
武は明日の朝からバイトが入っているので早く帰ろうと考えていたが、思い切って我儘を伝えてみる。武はきょとんとして、それから笑い出した。
「それも全然我儘じゃない。むしろ俺がそうして欲しい」
嬉しそうな笑顔に心が温かくなり、良介は自分から抱きついた。
「武も、思ってること教えて?」
「受け取ってくれる?」
「うん。聞きたい」
髪を撫でられ、優しい手つきに瞼をおろす。
今夜は心が蕩けるまで、たくさんの気持ちを伝え合いたい。
(終)
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