すずかけあおい
2024-06-15 11:43:24
1772文字
Public 読み切り小話
 

読み切り小話 克幸×豊

攻め(克幸)が受け(豊)を寝かしつけます。社会人カップルの小話です。

横向きになると、穏やかな寝顔が見える。寝顔まで整っているのは本当に感心する。起こしたら悪いと思うのに、頬をつついてしまう。
「ん……
眉間に皺が寄った。起きてしまうかな……起きない。ほっとしたような残念なような、複雑な気持ちになる。
……はぁ」
体勢を仰向けに変えて肩まで掛け布団をかけ直す。瞼を下ろしてみるけれど眠気はまったくやってこない。眠れるときは吸い込まれるようにすうっと眠れるのに今日は全然だめだ。もう一回隣で眠る男のほうを向く。明日も仕事だから早く寝ないといけないんだけど。
……
本当によく寝ていて、夢に少し嫉妬してしまう。俺の克幸を独占しているなんてずるい。起こしてしまおうかな。そうしたら俺を見てくれる。それで「ごめん、眠れないから構って」と素直に言おうか。……いや、さすがに悪い。
……寝よ」
克幸に背を向ける体勢になって、少し身体を丸める。瞼を下ろすと当然だけど真っ暗で、なんだか心細くて余計に眠れないけれど、頭の中で羊を数えて無理矢理眠気を呼び寄せる。寝てしまえば、嫉妬のもやもやも消える。羊を必死に数えていると、背中から優しい温もりに包まれた。
「豊、眠れない?」
いつもより少し低い声。本当に起こしてしまったか。
「ごめん。すぐ寝るから、克幸ももう一回寝て?」
「どうした? 身体、強張ってる」
「あ……
ぎゅっと抱きしめられて力が抜ける。知らずに身体に力が入っていたんだ……。克幸の体温、声、腕の力強さ、すべてにほっとする。もぞもぞと身体の向きを変えて、克幸のほうを向く。
……夢見てた?」
「うん」
「どんな夢?」
「豊の夢」
「ふうん……
俺じゃない俺に独占されてたんだ……。気に入らなくてやっぱり嫉妬してしまう。夢の中の俺は、俺であって俺じゃない。その気持ちが思いきり顔に出ていたんだろう、眉間をつつかれた。皺も寄っていたか。
「豊だよ?」
「でも俺じゃない。本物の俺を見て」
「かわいいこと言ってる」
克幸が少し笑う。かわいすぎたか、と頬が熱くなるけど、これが素直な気持ち。いつでも俺だけを見てほしい。
「そんなかわいい豊くんを寝かしつけてあげましょう」
「どうやって?」
「お話をしてあげる」
「話? 昔話とか?」
「まあ一応昔話かな」
克幸が腕枕をしてくれる。なんの話だろう。たぶん俺でも知っているものだろうけど。
「あるところに、豊くんという人がいました」
「それ昔話じゃない」
「ははは」
額にキスでごまかされた。おとなしく話の続きを聞く。
「豊くんはこの世で一番かわいくて、とても優しい素敵な人です」
「それ違う」
「違わない」
なんなんだ、もう。また頬が熱くなってくる。
「そんな豊くんに一目惚れした人がいました。克幸くんです。克幸くんは豊くんが大好きで、豊くんのそばにいたいので告白します」
……うん」
ちょっとどきどきしてきて、克幸から告白されたときのことを思い出してしまう。シンプルに「好きだよ」と言われただけなんだけど、こんなに幸せな言葉がこの世にあったのかと思うくらい嬉しかった。
「豊くんも克幸くんが大好きなので、告白を受け入れます。二人はなにがあっても離れず、色々なことを一緒に乗り越えながら幸せに暮らしています」
――ん?
「昔話じゃないの? ラスト現在進行形じゃん」
「これは俺の一目惚れ話。ずっと現在進行形。始まりのところは一応昔話だろ?」
「そうだけど……昔と言うほど前じゃない」
「確かに、今でも豊に初めて会った瞬間のことは昨日のことのように思い出せるよ」
ずっと現在進行形、に心が温かくなる。優しい微笑みとともに髪を撫でられたら、なんだか不思議と瞼が重たくなってきた。克幸の低い声が心地よかったからかもしれない。
「眠れそう?」
「うん……なんか眠いかも」
「じゃあおやすみ」
「克幸は?」
俺だけ寝て、克幸がこんな時間に起きたままだったら困る。重たい瞼を強引に上げて克幸を見る。
「大丈夫。俺も寝るから」
「ほんとに?」
「ほんと」
額に唇が触れる感覚で、眠気が限界に達して瞼を下ろす。眠りの世界に旅立つ意識の中で静かな声が聞こえた。
「おやすみ、豊」
おやすみ、克幸。
告白は克幸からだけど、一目惚れしたのは俺のほうが先だよ。



(終)