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すずかけあおい
2024-06-15 11:41:10
2556文字
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王子様のご執心
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王子様のご執心 里村誕生日小話
里村×章人。里村の誕生日当日です。
「ごめん。本っ当にごめん!」
章人は必死で頭をさげる。
今日、四月二十日は里村の誕生日だ。前に約束したとおりデートだったのだけれど、章人は寝坊をしてしまった。起きたのが待ち合わせ時間で、慌てて支度をして家を飛び出し、約束の場所に着いたときには里村は当然もう待っていた。
「可愛いなあ章人。寝ぐせついてる」
「あ
……
」
デートだというのに鏡も見ずに飛び出してきたので気がつかなかった。髪を手で撫でつけて頬が熱くなる。服装もいつもと変わらないシャツにジーンズだ。昨日散々考えて、出かけるときに決めよう、と思ってベッドに入ったのだが、翌日が里村の誕生日だと考えたらわくわくしすぎて寝つけず、朝方になってようやく眠りについた。そのまま熟睡して待ち合わせ時間まで寝てしまった、というわけだ。
「ごめん。すごく待ったよな」
「大丈夫だよ。章人とデートなんだから待つのも楽しい」
怒ればいいのに里村は章人の頭を撫でながら微笑む。
「ごめん。里村の誕生日なのに
……
」
「眠れなかった?」
「
……
うん」
「俺とのデートをそんなに特別に考えてくれて嬉しいな」
本当に嬉しそうに声を弾ませる里村は怒った様子がまったく見えないので逆に申し訳なくなる。時計を見ると約束の時間から一時間も経っている。
「先週のデートのときも前日眠れなかったって言ってたよね?」
「う、うん
……
」
里村とは毎週デートをしているし、学校でも会っている。だがふたりきりで会うというのは毎回楽しくて、どきどきする。それに里村の誕生日ならば気合いを入れてしまうのはあたりまえだ。
章人はしゅんとしたまま里村の顔を見あげる。
「里村と一緒にいられるの、嬉しいから。わくわくしすぎて眠れなくなる」
素直な気持ちを伝えると、眼前の整った顔がきょとんとして、それから笑い出した。
「なんで笑うの?」
「俺だって同じだよ。章人とデートだって考えるとどきどきしすぎて、どうにもならなくなる」
おそろい、といつかのように手を握ってくれた里村にようやく気持ちがほぐれた。里村がどきどきしているなんて、言われないとわからない。ずるい、と内心羨ましく思った。
「あっ」
「え?」
バッグの中を見て思わず大きな声が出る。驚いている里村にまた頭をさげた。
「ごめん。誕生日プレゼント、家に忘れてきた
……
」
「用意してくれたの?」
「里村だって俺の誕生日にプレゼントくれたし
……
別に、いらないならいいんだけど」
張り切っているわりには空まわりしていて、とにかく恥ずかしくなり視線を逸らしながらぶつぶつと言い訳めいたことを呟く。素直に「里村に喜んでもらいたいから」と言えばいいのに、と自分に呆れてしまう。
「そういえば俺があげたシャーペン、章人いつも使ってくれてるね」
「そっ、れは
……
色とかデザインとか気に入ってるし、持ちやすいから
……
」
言葉にしてから「そうじゃないだろ」と自分につっこむ。大事なことをごまかしてどうする、と里村の目を見る。
「
……
さ、里村がくれたから
……
気に入ってる」
「章人可愛いなあ。あーほんと可愛い。ホテル行く?」
「なっ」
その言葉に頬が一気に熱くなる。里村は本当に章人の手をとって歩き出すので慌ててしまった。
「待って、だめだよ。私服でも俺達高校生だし、それに
……
っ」
さすがにまずい、と言い募ると里村はまたきょとんとした。
「デートするんでしょ? とりあえずそこのカフェに入ろうと思ったんだけど」
「えっ」
「章人はどこに行くと思ったのかな?」
満面の笑みを浮かべた里村に顔を覗き込まれ、頬が猛烈に熱くなる。まさかホテルに連れて行かれると思ったなんて言えない。いや、里村がホテルと言うから勘違いをしてしまったのだ。悪いのは里村だ。
「
……
いじわる」
「章人が可愛いからだね」
「理由になってない」
むくれると頬をふにっとつままれた。
「機嫌直して。寝坊したなら朝ご飯食べてこなかったんでしょ? なにかおごるから」
「里村の誕生日なのに俺がおごってもらうの?」
「今日を楽しみにしてくれたお礼」
里村が機嫌よく歩き出すのでついて行く。里村との毎日をいつも楽しみにしているなんて知られたらどうなってしまうのか。里村のことだから毎日喜んでおごってくれそうだ。想像したら可笑しくて少し笑ってしまうと、章人を見た里村も表情を綻ばせる。
「章人、ありがとう」
「なにが?」
「俺の誕生日に章人が笑顔で隣にいてくれるのが、一番のプレゼントだよ」
そういうことをさらっと言ってしまえる里村はずるい。章人だってもっと素直になりたいのに。
「
……
プレゼント、明日渡す」
「来週でいいよ」
「どうして?」
「プレゼントを渡すためって理由をつけて章人が俺と会ってくれるから」
そんなふうに理由をつけなくても章人は里村に会いたいのに。
もしかして、自分で思っている以上に章人の気持ちは里村に伝わっていないのだろうか。章人はいつでも里村のそばにいたいと思っている。
「ふうん。じゃあ来週もデートする」
ふうん、ってなんだ、とまた自分につっこむ。もっと嬉しそうにはしゃげばいいのに、素直になれない。
「素直じゃなくて可愛いなあ」
「
……
」
里村は章人の気持ちをわかっていて、わからないふりをしているようにも思える。いつも余裕の里村が余裕をなくすところが見たい。
「
……
っ」
ベッドで里村が余裕をなくしたところを思い起こしてしまい、顔から火が出そうになった。昼間からなにを考えているのか。
「前言撤回。章人は素直だなあ。顔に全部書いてある」
「
……
」
嬉しそうな里村が章人の熱い頬を軽くつねる。見つめ合っていたら章人の腹が鳴ってしまった。どうしてこういうタイミングで、と恥ずかしくて逃げ出したい。
「楽しいね」
「え?」
「章人といるといつも楽しい」
骨まで蕩けてしまいそうな甘い微笑みにどきりと胸が高鳴った。こういう表情を章人も里村に向けられたらいいな、と思いながら微笑みを返した。
「里村
……
、あの」
「なに?」
「誕生日おめでとう」
里村が生まれてきてくれたことがとても嬉しい。この気持ちがうまく伝わりますように。
(終)
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