すずかけあおい
2024-06-15 11:40:02
1349文字
Public 王子様のご執心
 

王子様のご執心2 後日談

里村×章人。『王子様のご執心2』の後日談小話です。

 教室の扉の前で五回目の深呼吸をする。気持ちを落ち着けようとしてもまったく効果がない。心臓はばくばくと脈打つばかり。
 昨日のことを思い出すだけで頬が熱くなる。肌に触れた里村の優しい温もりが蘇り、ぶんぶんと頭を振る。いつもどおりに、いつもどおりに。
「なにやってるの、章人」
「えっ」
 なぜか背後から里村が声をかけてきた。教室の中にいるものだとばかり思っていたのに、当人は通学バッグを持っていて今登校してきたようだ。いつもこの時間ならばすでに俺を待ちかまえているのに、どうしたのだろう。俺の視線を受けて里村が困ったように微笑む。
「章人の温もりが残ってる気がしてベッドから出られなかったんだ」
「っ……
 そういうことを言われたらまた温もりが蘇ってきてしまう。どきどきしているのは俺だけではない、ようだ。
「身体つらくない?」
 こくん、と小さく頷く。頭を撫でられてふたりで教室に入るとクラスメイト達の視線が一斉にこちらに向いた。
 まさかみんなに昨日のことをばらしていたりするのだろうか。ありえる。「章人はこんなに可愛かったんだよ」と自慢する姿が目に浮かぶ。
 かっとなって隣に立つ里村の足を踏む。
「痛っ、どうしたの?」
「なんでそういう……っ」
「え?」
 きょとんとする里村にクラスメイト達が駆け寄ってくる。ああ、俺の平和の学校生活が――そう思ったけれど、今までもあまり平和ではなかったような気もしてくる。
「どうだった? 河西からお返しもらえた?」
「ふたりで登校してきたの? じゃあ途中でなにかもらった?」
 みんなが口をそろえてそう聞くので、もしかして話していないのだろうかと里村を見あげると苦笑された。屈んで俺の耳元で囁く。
「あれは俺達だけの秘密」
……
 ぽうっと頬が熱くなって俯くと、俺の反応から里村はお返しをもらえたのだとクラスメイト達が盛りあがる。
 バレンタインに俺が里村からチョコをもらったことは周知の事実で、ホワイトデーが間近になり里村は毎日この質問を浴びせられているのを思い出す。みんな里村と俺のことに興味津々らしい。なぜだ。
「ついにもらったんだ! なにもらったの? お菓子?」
「なんだろうね」
 珍しく言葉を濁す里村にみんなさらに興味をそそられるようで里村を囲んでいる。足を踏んでしまって悪かったな、と反省しているとそっと手を握られ、「ごめん」の気持ちを込めてきゅっと握り返す。隣を見あげると目が合ってすぐに手を離した。
「あー、章人が可愛い」
……可愛くないし」
「そういうところも、ほんと可愛くてたまらないんだよね」
 俺達だけの秘密。
 そんな甘い言葉にくらっとしてしまったなんてことは、俺だけの秘密。


 それから、ふたりきりになると「『好き』って言って?」と迫られるようになった。そんなことを簡単に言えない俺を里村は優しく見つめる。恥ずかしいけれど、どんな里村も世界で一番好きで、でも素直に言えなくて。
「ベッドの中ではあんなに可愛く『好き』って何回も言ってくれたのになあ」
「ベッ……そういうこと言うな!」
「かーわい」
 馬鹿みたいなじゃれ合い。いつでも俺を幸せにしてくれるのは里村の笑顔。

 ねえ、好きだよ。



(終)