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すずかけあおい
2024-06-15 11:31:43
2545文字
Public
甘々彼氏
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甘々彼氏 ホワイトデー小話
敦朗×多希。本編後、敦朗視点です。pixivに『ホワイトデー小話まとめ』で投稿済。
「敦朗さんの馬鹿!」
多希が部屋を飛び出して行く。すぐに追いかけようと足を踏み出して留める。それを多希は求めているのだろうか。
明日はホワイトデーで、多希は泊まりに来ていた。バレンタインに俺が作ったチョコのお返しだとチョコ作りを始めて、得意げに「チョコは『あなたと同じ気持ち』って意味なんだよ」と教えてくれた笑顔が可愛くて、でも手元が心配で、つい手出しをしてしまった。多希が怪我をしたりしたら倒れる。「チョコを刻むのは俺がやってやる」と言うと、「俺が作らないと意味がない」と怒られた。それで一度は引いたけれど、やはり見ていると心配で仕方がない。特にあぶなっかしい手つきをしているわけではないのにそう思うのは、俺が多希を好きすぎるからだ。包丁が終わったら今度は火を使って湯を沸かしている。火傷をするのではないか。
「多希、チョコなら作らなくてもいいんじゃないか?」
「どういう意味?」
余計なことを言ったと自覚している。けれど多希が怪我をすることを考えたら口は止まらなかった。
「できたら手作りはやめてくれ」
そう言った瞬間の多希の表情は言葉に表現することができないほど傷ついたものだった。
そして多希は部屋を飛び出した。
「
……
あんなこと言うつもりなかったのにな」
多希の気持ちが嬉しいのは本当なのに、あんな言い方をしてしまった。多希といると余裕がなくなる。今までつき合った男達にこんなふうになったことなどない。多希だけが特別なのだ。
先程まで多希が立っていたキッチンに立つと、細かく刻まれたチョコがまな板にのったままだ。湯を沸かしていたやかんの火を止めてため息をつく。
以前から甘やかしすぎだと多希から言われていたけれど、それはどうやっても収まらないのだ。多希をどろどろに甘やかして、俺なしじゃ生きられないようになってもらいたい。だからついなににでも手を出してしまう。だめになることを多希は不安に思っているようだけれど、どんどんだめになっていいと俺は考えている。
まな板の横にレシピの表示されたスマホが置かれている。多希のものだ。これを届けるという理由をつけて追いかけてもいいだろうか。
もし拒絶されたらどうしようと思うと足が動かない。多希はもともと俺の甘やかし癖を嫌がっていたし、これがきっかけとなって別れ話になってしまったら
――
。
無理だと頭を振る。そのような状況になったら生きていけない。多希に必要とされたいと思いながら、俺のほうが多希をなによりも必要としているのだ。
多希のスマホが着信音を鳴らす。非通知着信になっていて、誰だろうと思うけれど人の電話に勝手に出るわけにはいかない。ぐっと我慢するがいつまでも鳴りやまない着信音に、つい電話に出てしまった。
『
……
敦朗さん?』
「多希? どこからかけてるんだ?」
誰かに頼ったのだろうか。でも出て行ってからそれほど時間が経っていない。友人などに偶然会ったりしてスマホを借りたのだろうか。
『公衆電話からかけてる』
「そうか
……
」
多希が俺以外を頼ったのではなくてほっとする。こんなときなのに多希のためになにかをするのは自分だけでありたい。
『
……
俺、ショックで傷ついたから』
「そうだな。悪い。あんなことを言うつもりはなかった。ただ多希が心配で
――
」
『敦朗さんはいつもそう。俺を甘やかしたり過剰に心配したり』
わかっているけれど自分を止められない。十五歳も年上なのに未熟な俺に多希は呆れているだろうか。
『でも、そんな全部が、敦朗さんが俺を好きだからだってわかってる
……
』
「それでも言っていいことと悪いことがある。本当に悪かった」
『反省してる?』
「してる」
俺の答えにほっと息をついたのがスピーカー越しでもわかった。今多希はどんな表情をしているだろう。今夜は冷えるから、薄着で飛び出して行って寒い思いをしているのではないか。すぐに抱きしめてやりたい。
『俺も敦朗さんが好きだからチョコ作りたいんだ』
「そうだな。ありがとう」
『すぐ戻るから、チョコ作らせてね。俺の気持ちを贈りたいから』
「
……
」
黙って見ていられるか不安だけれど、多希をこれ以上傷つけないためには口を閉じておかなければ。
『じゃ、切るね』
「迎えに行く。今どこにいるんだ?」
『自分で戻れるよ』
きっと困ったように笑っているだろう。見えなくてもわかる。
五分ほどしてコンビニのレジ袋を持った多希が戻ってきた。鼻と頬を赤くして、「馬鹿って言ってごめんね」と言いながら俺の腕の中に収まってくれた。
「俺、敦朗さんが好きなんだ」
「俺も多希がこの世で一番好きで大切だ」
「うん。知ってる。そんな敦朗さんにこれをあげる」
多希がレジ袋から出したのはチョコレート。
「やっぱり手作りはやめる。敦朗さんが心配しちゃうもんね」
「いや。作ってくれ。多希の気持ちがこもったチョコが欲しい」
俺が「頼む」と頭を下げると多希が目を丸くした。
「作っていいの?」
「ああ。もう手出しも口出しもしない」
「
……
ううん。手出しも口出しもして?」
なにか考えついたような多希の笑顔が可愛い。もう一度抱きしめると腕の中で笑っている。
「ふたりで作ろう? そういう時間も幸せだから」
情けないことに感動しすぎて言葉が出てこなかった。なにを言ってもこの思いを表現することはできないだろう。多希への感謝、愛おしさ、反省
……
いろいろなものが混じり合ってなかなか言葉が出てこない。
「嫌?」
俺の沈黙を嫌だからだと思ったようで、多希が心配そうに顔を覗き込んできて慌てて首を横に振る。言葉にしようとして、やはりできない。ただ抱きしめる。
「敦朗さん? どうしたの?」
「
……
愛してる」
ようやく言えたのはそんな陳腐な愛の言葉だけ。本当はもっとたくさん伝えたいことがあるのに、俺にはできなかった。
「うん。俺も敦朗さんを愛してる。だから一緒に愛のこもったチョコ作ろうね」
多希が俺の胸に額をぐりぐりと押しつけるので、その髪を撫でてやった。くすぐったそうに笑う表情があまりにも可愛くて、チョコ作りを始めることがなかなかできなかった。
(終)
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