すずかけあおい
2024-06-15 11:28:52
1905文字
Public 据え膳はいかが
 

据え膳はいかが ホワイトデー小話

海里×征大。本編後です。pixivに『ホワイトデー小話まとめ』で投稿済。

 海里と温泉に浸かりながら息をつく。
 バレンタインにチョコをあげたら、そのお返しにと海里がホワイトデー前の土日に星空ツアーに誘ってくれた。いつか海里が俺の部屋のベランダから空を見ていたことを思い出した。「昔見た星空がとても綺麗だったから征大にも見せたい」と、「日本一星空が綺麗に見える場所」に誘ってくれた。
 星空の感想はもう言葉にならない。散らばった宝石のような星が濃紺の空いっぱいに広がっていて、部屋から見る空と繋がっている場所とは思えなかった。ぽかんと口を開けたまま空を見あげる俺を、隣の海里が見ていたことに気づいたときには恥ずかしかった。
 ホテルまでとってくれて、チョコのお返しにしては豪華すぎる気もするが、海里が楽しそうだからいいかと思っている。
「ありがとう、征大」
「なにが? お礼を言うのは俺のほうだよ」
「ううん。征大とこられたからすごく楽しかった。ひとりで見たって味気ないからなかなかこようって気にならなかったんだ」
……
 もしかして、以前はそのときつき合っていた恋人ときたのだろうか。なんだか急にもやもやし始めた。思わず俯くと海里に顔を覗き込まれた。
「どうしたの?」
「別に」
「のぼせた?」
「大丈夫。でももう出る」
 せっかく旅行に誘ってくれたのだから、過去のことなど詮索して嫌な空気になりたくない。逃げるように湯から出て脱衣所に向かう。身体を拭いていると海里も追いかけてきた。
「どうしたの、征大」
「なにが?」
「なんか不機嫌?」
 言い当てられてどきりとする。でも認めたくない。少しだけひとりで拗ねたら元に戻るから、今は放っておいて欲しい。
「そんなことない」
 首を振って浴衣を手にとると手首を掴まれた。
「隠しごとしないで?」
……
「それとも俺には言えないこと?」
……それは……
 言えないことではないけれど、言いたくない。海里の過去に嫉妬しているなんて知られたくない。
「征大?」
 心配そうに俺の目を覗き込む海里に胸が痛む。それと同時に黒いもやが心に広がる。
 海里は芸能人のように恰好いいからいろいろな人とつき合ったことがあるかもしれない。それを聞いたら海里は気分を害したことを顔に出さずに正直に教えてくれると思うが、それもすっきりしない。でも思い切って聞いてみる。
……前にきたときは誰ときたの?」
 海里の目を見ずに聞くと、「なあんだ」と力が抜けたような声が聞こえた。
「大学のときに男友達三人ときたんだよ。もしかして彼女ときたと思った?」
「男友達……
 ほっと息をつくとまた目を覗き込まれた。
「嫉妬してたの?」
 整った顔の口元が緩んでいて、なんだかおもしろくない。
「なんか……喜んでる?」
 喜ばせるために嫉妬したわけではない。でも海里は頷く。
「愛されてるなって思って」
「っ……
 頬が熱くなり、海里の手をふりほどいて身体を押しのけるがすぐに捕まってしまった。裸のままで抱き合っているところを誰かに見られるのは恥ずかしいと思うのに力いっぱいで嫌がれない。
「聞きたいこと、他にある?」
……ない」
「ほんとに? 征大にはなんでも話すよ」
 本当はある。海里が今までどんな人とつき合って、どんなことをしてきたのか。どんな甘い時間を、幸せな時間をすごしてきたか――すべて知りたい。教えてもらってどうするわけでもないけれど、ただ知りたい。
……俺のこと、好き?」
 でも口から出たのはまったく違う問いかけだった。海里は真剣な表情のまま頷く。
「好きだよ。なによりも誰よりも」
「それならいい」
 過去に戻って海里ともっと早く出会うことなどできないし、過去の海里にとらわれて今の海里を放置するのもおかしい。だから俺は、今海里が俺を好きでいてくれるならそれでいいと喉に詰まったものをこくんと呑み込む。そこにはぐちゃぐちゃな嫉妬が引っ掛かっていた。
「早く部屋戻ろう。俺がどれだけ征大を好きかしっかり教えてあげる」
「なんかやらしいことするつもりだろ?」
「あたり」
 浴衣を肩に羽織らせてくれるので腕をとおす。帯も締めてくれるけれどゆるい気がする。自分も浴衣を着ている海里に声をかける。
「これじゃほどけちゃうよ」
「すぐほどくからいいの」
 よし、と満足そうに微笑む海里が愛おしくて、もう一度抱きつく。抱き留めてくれた腕に身体を預けて、そっと瞼をおろすと満天の星空が瞼の裏に見えた。あんなに星空が綺麗に見えたのは、海里と一緒だからだ。
 そっと俺から唇を重ねてから部屋に戻り、とびきり甘い時間をすごした。



(終)