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すずかけあおい
2024-06-15 11:20:38
1812文字
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本当に必要なもの
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本当に必要なもの バレンタイン小話
新堂×小越。本編後、新堂視点です。pixivに『バレンタイン小話まとめ』で投稿済。
「情緒ってなんだよ
……
」
土曜日の今日、小越と出かけて映画を観たけれど、感動している小越に対して俺が冷めていたら「新堂さんは情緒って言葉を知るべき!」と言われた。俺にそんなものを求められても困る。なんとも思えないものは思えないのだ。
「
……
」
俺の部屋に泊まる予定だった小越は怒った様子で帰ってしまった。小越とすごす予定だった時間を一人ですごすのはとても寂しい。メッセージを送ってみようか。でもなんと送ればいいのかわからない。
「
……
ああもう
……
」
どうして小越に関してはこうなってしまうのだ。好きだからだとはわかっているけれど、好きすぎるだろう。小越に渡すつもりだった、ラッピングされた小さい箱を顔の前にかざし、放り投げようとしてからやはり思い直してそっとテーブルに置く。
「
……
チョコ渡せなかったじゃねえか」
誰かにチョコを贈りたいと思う日が来るとは思わなかった。相当惚れているらしい。うちに来たときに渡そうと用意しておいたのに、小越は泊まらなかった。チョコに驚いてから嬉しそうに照れ笑いする小越を想像したのに現実はこれだ。人間関係は難しい。と言っても俺は小越以外にこんな気苦労をするつもりはない。
「謝るか」
でもどう謝ればいいのだ。『情緒がなくてごめん』?
……
変だ。『これからは一緒に感動するから』?
……
無理だ。
スマホにとととっと文字を入力しては消し、入力しては消しを繰り返す。なんと送ればいいのだろう。シンプルに「ごめん」?
……
いや、メッセージで謝ろうとするからだめなのか? 電話か、直接会って
……
。
コートを掴んで玄関に向かうとインターホンが鳴った。
「
……
?」
こんな時間に誰だろうとモニターを見ると小越が映っていて慌ててドアを開ける。
「し、新堂さん
……
っ」
どん、と勢いよく抱きつかれて少し身体が傾くけれど脚に力を入れて抱き留める。こんな時間に、なにかあったのか。
「ごめん、俺
……
新堂さんにひどいこと言った
……
」
「いや、俺も悪かった」
「頭が冷えたら情緒なんてなくてもいいから新堂さんじゃなきゃだめだって思って、すぐ謝らなくちゃって急いで来たんだけど
……
迷惑だよね。ほんとごめん」
身体を離そうとするのを留めて小越の腰に手を回す。ぎゅっと抱き寄せたら俺より背の低い小越が顔を見上げてくる。目尻が赤くなっていて、もしかして泣いたのだろうかと思うとたまらない気持ちになる。そっとその赤くなったところに唇を寄せる。
「新堂さん
……
」
「悪いな、好きなんだ」
「え
……
」
「俺も小越じゃなきゃだめだ」
額を合わせて、どうか気持ちが伝わってくれと祈る。俺がどれだけおまえを好きか、どんなにおまえだけを欲しいと思っているか。情緒が必要なら身につける。無理だと思ったけど、小越が望むなら無理なことなんてなにもない。
「
……
好きだ」
「新堂さん
……
」
「小越だけしか好きになれない」
見上げられた瞳に俺だけが映っていてほっとする。こいつが離れて行ってしまったら、俺はどうしたらいいかわからない。小越の頭に顎をのせると、むむ、と謎の声が聞こえてきた。
「どうした?」
「
……
この体勢、俺は男として非常に悔しい」
「恋人としては最高だろ」
くく、と笑うと顎を置いた頭がこくんと縦に揺れた。可愛いやつだ。
「
……
あの、さ」
「ん?」
言いにくそうに口を開く小越の顔を覗き込むと、あっという間に顔が真っ赤になっていく。
「しゅ、終電もうないから泊まっていっていい
……
?」
「
……
」
玄関に置かれている時計にちらりと視線だけ向ける。まだ終電はある時間だ。でも小越にとってはもう帰る術がないという気持ちなのか、抱きついて離れない。こんなに可愛いことをされたら離せるわけがない。
「そうだな。なんならずっと電車が動かなくてもいいくらいだ」
「えっ
……
」
「上がれ」
室内にとおすと、リビングでチョコの箱を見つけて首を傾げている。そうだ、置いたままだった。
「お姉さんからもらったの?」
おかしなことを言うから少し笑ってしまった。姉から俺にチョコが贈られたのは小学生の頃が最後だ。自分宛てだと考えもしない小越の鈍感さがまた可愛い。
「違う。俺から小越に」
「俺に
……
」
小越が泣き出してしまうなんて、想像もしなかった。嬉しい、と繰り返す愛おしい男をいつまでも抱きしめた。
(終)
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