すずかけあおい
2024-06-15 11:15:39
1944文字
Public こんなの夢に決まってる
 

こんなの夢に決まってる バレンタイン小話

真永×凛音(+伊吹)『これが夢なら覚めないで』の後です。pixivに『バレンタイン小話まとめ』で投稿済。

「ハッピーバレンタイン、凛音」
「寝ぼけてんのか」
「鴻上はどいてろ」
「どかない」
 あいかわらずの二人だけど、今日は特にいがみ合っている。というか一か月くらい前から真永は警戒していたし、俺は伊吹からの視線をずっとびしびし感じていた。チョコを山盛りもらってもおかしくない二人は、すべてのチョコを事前に断り俺のそばから離れない。
「ほんとにしつこいな」
「粘り勝ちって言葉があるんだよ」
「凛音相手に藤本が勝つなんてことがあるわけないだろ」
「あの……
 俺は二人を見上げて視線を行ったり来たりさせているだけ。伊吹もいい加減諦めてくれればいいんだけど全然その気配を見せない。真永は気が抜けなくて大変そうだ。
「凛音、しつこい男は嫌いだって言ってやれ」
「えっと……
 それを言ったら、俺だって小さい頃からしつこく真永が好きだったわけで。
「だったら小さい頃から凛音が好きだったしつこすぎる鴻上なんて凛音は嫌いだな?」
「それはない」
「鴻上が答えるな」
「あ、それは本当にないよ。俺は真永が好きでいてくれて嬉しいから」
 自分で言って、かあっと頬が熱くなってしまった。真永の勝ち誇った笑みに伊吹が顔を歪ませる。これで決着がつくかな。
「まあ俺の気持ちがこもったチョコは受け取れ」
 と思ったらつかなかった。むしろ燃え上がらせてしまったような気がしないでもない。
「だめだ」
「鴻上宛てじゃない」
「凛音宛ては俺宛てみたいなもんだ」
 わけのわからないことを言っている真永がおかしくて笑ってしまうと、二人が顔を見合わせる。こんな状況で笑うなって怒るかもしれない。
……俺の言葉で笑ったんだからな」
「いや。俺だ」
「藤本の言葉のどこから笑いが生まれるんだ」
 やっぱりおかしくて笑いが止まらない。そうしたら真永と伊吹も笑い出す。三人で笑っていると仲良し三人組みたいだ。絶対にありえないけど。
 伊吹のチョコをそっと押し戻す。
「このチョコは受け取れない」
「なんで?」
「俺には真永からのチョコがあるから」
 悔しそうな伊吹は、じゃあ、と手のひらをこちらに差し出す。なんだろうと顔を見上げると、満面の笑み。
「凛音からのチョコは?」
「あるわけないだろ!」
「鴻上には聞いてない。凛音?」
「えっと、……ない、ね」
 でも真永宛てはちゃんと用意してある。これは絶対渡すと今朝気合いを入れた。真永も楽しみにしているだろうし、俺も真永からのチョコが楽しみだ。
「そっか……
 寂しそうな表情を見せて伊吹が顔を近づけてくる。すぐに真永が伊吹の額を押さえて止めてくれたから無事だった。
「なにしてんだ」
「言わせんのか?」
 さっと真永の背中に隠されて、また二人が向かい合う。この二人はずっとこんな感じだろうな。


 学校帰り、真永の部屋に呼ばれたのでお邪魔することにした。チョコも渡したいからよかった。
「なんなんだ。藤本のやつ……
「伊吹がまたなにかした?」
 あの後も俺のいないところでやり合ったんだろうか。でも二人はずっと俺のそばにいた。
「しつこすぎ」
 部屋に入った途端ぎゅうっと抱きしめられて、どきどきしながら真永の背中に手を回す。優しいにおいと心地よい体温にそっと目を閉じる。
「どんなに伊吹がしつこくても、俺には真永だけだから」
「そうじゃなきゃ困る」
 真永の心音が聞こえる。俺が一番落ち着く音で、なにより大切な音。
「凛音はしつこい男は好きか?」
「え?」
「藤本が粘り勝ちすることなんてないよな……?」
 俺は、真永は不安になることなんてないと思っていたけど違うのかもしれない。俺の肩に額をつけて、はあ、と息をついてから目を覗き込まれる。
「凛音には俺だけだよな?」
「そうだよ。真永以外にいるはずない」
 髪を撫でてあげるとふにゃっと表情が緩み、甘い笑顔を見せてくれる。身体を離して通学バッグからチョコを取り出す。
「真永に」
「ありがとう」
「真永だけだから大丈夫だよ」
 そっと頬にキスを贈るとまた抱きしめられた。先程より少し速い心音が聞こえて、俺と同じなんだなと思う。何回してもキスはどきどきするし頬が熱くなる。
「これは俺から。一緒に食べよう」
 真永からのチョコを受け取り、二人でラッピングをとく。箱の中に並んだハートのチョコに口元が緩んだ。ころんとしたピンク色の可愛いハートが九個。
「いっぱい『好き』って言われてるみたい」
 真永の愛がたくさん。俺からのチョコは真永の好きなオレンジピール入りのもの。
「どんなに言っても足りないくらい凛音が好き」
 抱き寄せられて瞼を下ろす。チョコより甘いキスに、俺が溶けてしまいそうだった。



(終)