すずかけあおい
2024-06-15 11:12:50
1618文字
Public ちょっとおかしい幼馴染
 

ちょっとおかしい幼馴染 バレンタイン小話

詩音×心。本編後です。pixivに『バレンタイン小話まとめ』で投稿済。

「ここちゃん、おはよう!」
「おはよう、詩音」
 満面の笑みで駆け寄ってくる詩音に身構える。最近は「会いたかった!」と言いながら抱きついてくるから。朝から全力で好き好き言っていて減らないのかなと思うのだけれど、むしろ増幅していっているように感じる。不思議だ。
「っ、……?」
 やはり駆け寄ってきた詩音が、俺のすぐ目の前で立ち止まってぽっと頬を赤く染める。
「どうしたの?」
「うん……ここちゃんは今日がなんの日か知ってる?」
……
 よく知ってる。今日は二月十四日、バレンタイン。詩音の気合いの入りようは想像もできない……というよりあんまりしたくない。数日前から毎朝メッセージで『○日後はバレンタイン』と送られてきていたんだから忘れているわけもない。
「バレンタインでしょ?」
「正解! ここちゃんはすごいなあ」
 顔面を緩ませて通学バッグに手を入れ、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。
「遅刻するから歩きながらでもいい?」
「だめ、俺のここちゃんへの愛は歩きながらなんて渡せない! ここちゃんが転んじゃう!」
 なにをするつもりだ。チョコと思われる箱をこちらに差し出し、詩音は満面の笑みだ。受け取ろうとしたらひょいと高く上げられ、ぎゅうっと抱きしめられた。
「好きだよ、ここちゃん。ここちゃんがこの世で一番可愛い」
「可愛くないし、こんなとこじゃ……
 さすがに家の前で抱擁はどうかと思う。ぱっと離れた詩音は目をきらきらさせて頬を更に赤くする。
……ここちゃん、誘ってくれてありがとう」
「違う!」
「大丈夫。今日はうちの親出かけるから、たくさん愛し合えるよ」
 さあ俺の部屋へ、と詩音が手を引くので引き返す。
「学校だよ。詩音の部屋に行くのは今じゃない」
 詩音の手を引っ張って駅に向かう。うしろから、可愛い、ここちゃん積極的、可愛い、とぶつぶつ聞こえてくるけれど聞こえないふりをする。
「俺のチョコ、ここちゃんのバッグに入れておくけどきっと溶けちゃうね」
「ああ、暖房で?」
 電車や教室の暖房で溶けてしまう心配をしているんだろう。でも教室に冷蔵庫なんてないんだからそれは仕方ない。
「ううん、俺の愛が熱すぎるから! 冷蔵庫に入れてもなかなか固まらなかったんだよ」
……
 気になることがあるので、一応聞いてみる。
「このチョコ、今年はまともだよね?」
「うん!」
 本当かな。
「去年は『愛』って書いてあったけど、今年は?」
「書かずに入れた!」
 チョコの中に「愛」の形をしたチョコが入っているのを想像する。重そうだな。
「愛って書いたらここちゃんがチョコを割れなかったって言ってたから、俺の愛をこうして……
 チョコに手をかざしてゆらゆら揺らす。そういうことをしたのか。去年の達筆の「愛」もなかなかだったけど、今年はそれ以上のよう。
「だから今年は割ったらなにかが溢れてきちゃうかもね?」
……変なものは入ってないよね?」
「ここちゃんにあげるものに変なものなんて入れるはずないでしょ!」
 手をぎゅっと握られて、その手の甲にちゅっ、ちゅっと何回もキスをされる。そのまま舐め始めそうなので慌てて手を引っ込める。前みたいに手を食べられたら困るしどきどきしてしまうのでこういうときはさっさと逃げる。
「チョコはありがとう。とにかく学校行こ」
「照れてるここちゃんも可愛い」
 今日は一日このテンションか、と思ってから、いつもこのテンションだっけ、と思い直す。疲れているときには勘弁して欲しいけど、こんな詩音だから俺も好きなんだ。しょうがないから、とことん付き合ってあげよう。
 学校が終わったら一旦帰って俺からのチョコを持って詩音の部屋に行こう。今年も絶対「一生飾る」と言い出すのがわかる。
 たまには俺も詩音からのチョコを飾っておこうか。そうしたら詩音は…………どんな反応をするだろう?



(終)