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すずかけあおい
2024-06-15 11:10:46
2145文字
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空気を読んで!
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空気を読んで! バレンタイン小話
貴宗×都希。ふたりが付き合い始めた後です。pixivに『バレンタイン小話まとめ』で投稿済。
「これはなんだ」
貴宗は綺麗にラッピングされた箱をいろんな角度から見て、それから俺を見る。二月十四日にこういうものをもらったら、なにかなんてすぐわかるだろう。
「チョコだよ」
「俺はバレンタインの希望を都希に言わなかったか?」
「
……
」
言われたけど、そんなもの用意できるわけがない。身体にリボンを巻いた俺からのキス、なんて
……
想像しただけで顔から火が出る。
「付き合って最初のバレンタインなんだから、まともなもの欲しがってよ
……
」
「恋人からのキスが欲しいということの、どのへんがまともじゃないんだ」
「こ
……
こいびと
……
」
かあっと頬が熱くなる。付き合っている自覚はあるけれど、この響きはまだ慣れない。貴宗はそうなるのが当然だと思っていたみたいな顔をしてさらっと言ってしまうけど、俺には予想外の展開なんだ。
「キ、キスなんて
……
」
「俺はいつもしてるだろ」
「貴宗はしすぎだよ
……
って、言ってるそばから!」
頬にキスをされて心臓が跳ねる。貴宗は隙があるとすぐにキスを仕掛けてくるから、こんなんじゃ心臓がいくつあっても足りない。
「ほら、都希もしてみろ」
「やだよ! チョコで我慢して!」
「『やだ』?」
綺麗な眉が片方ぴくんと上がる。眉の形まで整っているなんて美形はずるい。俺の頬に手を添え、顔を近づけてくるので逃げようと後ずさるけれど、後ろは壁だった。
「やだって言ったか?」
「
……
言った」
「ほう
……
へえ
……
」
「な、なに
……
?」
口角を上げて、色々な角度から俺を舐めるように見てくる。なんだか嫌な視線だ。
「
……
はあ」
「えっ」
「好きなのは俺だけか」
突然のため息と諦めのような言葉にどきりとする。どうしよう、嫌われてしまっただろうか。心臓が今度は嫌な動きをして冷や汗が頬を伝う。
「あの、貴宗
……
?」
「いいんだ。俺だけがずっと都希を好きだったんだ。そう、片想いは長かった
……
この気持ちが泡になって消えるのも、仕方ない」
なにを言いたいの、と顔をじっと見つめたらまたキスをされた。思わず顔を後ろに引くと壁に頭をぶつけた。
「っ
……
痛い
……
」
「大丈夫か?」
涙目で後頭部をさすると、そこを貴宗が優しく撫でてくれてどきどきしてしまう。ぶつけたところを確認するように何度も撫でる。もとはと言えば貴宗のせいなのに、なんて考えられなくなるくらい真剣な顔。
「こぶにはなってない。気分が悪かったりするか?」
「それはない、けど
……
」
「病院に行ったほうがいいかもな」
「おおげさだよ!」
ちょっとぶつけただけなのに。でも貴宗は難しい顔をして俺をぎゅっと抱きしめる。
「都希になにかあったら困る。本当に大丈夫なのか?」
なんだよ
……
いつもはからかったり意地悪したりするくせに、こういうときはまるで俺が大好きみたいな声を出す。こんなふうにされたら、すごく愛されているんだと思ってしまう。いや、もしかして俺が思っている以上に貴宗は俺が好きなんだろうか
……
?
「大丈夫だよ。心配かけてごめん」
つられてなのか、こういう場面だから素直になれるのか、俺も貴宗が大好きという声が出てくる。きっと貴宗が考える以上に俺は貴宗のことが好きになっている。
「貴宗」
「どうした?」
屈んでいる貴宗の頬にそっとキスをすると、目を見開いたまま動きを止めてしまった。五秒ほどしても動かない。首を傾げて頬をつついてみたらびくんっと肩を上下させて解凍された。飛びのくように俺から離れる。
「つ、都希
……
!」
「貴宗がしてって言ったんでしょ
……
!」
俺まで恥ずかしくなってきてしまったけれど、貴宗は湯気が出そうなくらいまで、耳だけではなくて額や首まで真っ赤になっている。こんな反応をするなんて、やっぱり貴宗の気持ちは俺が思っている以上に大きいのかもしれない。
どきどきしながらゆっくり貴宗に近寄り、肩に手を置いて唇を重ねる。悔しいことに俺が背伸びをしても顎にしか届かなかったけど、貴宗が空気を読んでぎこちなく屈んでくれた。貴宗の背の高さと俺の背の低さが憎いけど、結果は逆にいい雰囲気になったように思う。貴宗はまた背が伸びたんじゃないか。
「
……
チョコ食べるか」
「
……
うん」
なんだか目を合わせられない。貴宗はすごく真っ赤だし、俺も頬が表現できないくらい火照っている。
「これ、俺から」
かわいくラッピングされた箱が差し出され、受け取る。昔から俺が好きなチョコのバレンタイン限定品だ。専門店にしか売っていないのに買いに行ってくれたんだろうか
――
そう考えて、馬鹿だな、と自分を笑う。買いに行ってくれなければ今もらえるはずがない。
「た、食べさせてあげようか?」
ちらりと見上げて聞くと、貴宗は頭を抱えてしまった。
「
……
キャパオーバー
……
」
「なんで?」
「都希から色々されるのは想定外だ
……
心臓がもたない」
色々言うくせに、実際に俺からなにかしてあげると許容量を超えてしまうらしい。今まで知らなかった貴宗がよりいっそう愛おしくなる。
付き合って初めてのバレンタインは、気持ちが膨む、くすぐったい日だった。愛されている実感ってこういうことを言うのかもしれない。
(終)
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