自室で有線イヤホンを使って音楽を聴く。ワイヤレスイヤホンも持っているけれど、有線イヤホンのほうがなんとなく安心感があって好き。繋がっている、という感じ。ベッドに座って少しぼんやりしていたら部屋のドアが開いた。
「かーんた」
「京平 ?」
イヤホンを外す俺を見て、京平が首を傾げる。
「なに聴いてたの?」
「適当に流してた」
イヤホンを接続しているスマホの画面を見せると、「ふーん」と返ってくる。
「どうしたの?」
「母さんが、りんごをおばさんに持ってって言うから、持ってきてそのまま寄った。俺も聴く」
京平が俺の隣に座る。
隣の家の京平は、俺の幼馴染で、好きな人。かっこよくて優しい京平は当然モテる。あっという間に彼女ができて、俺なんか忘れられていくんだろうと思っていたのに、告白はすべて断っているらしい。理由は教えてくれないけど、それで今でも遊んでくれる。
「イヤホン片方貸して」
「でもこれ、ワイヤレスじゃないし」
「いいじゃん」
俺はいいんだけど……。どきどきしながら左側のイヤホンを渡すと、右隣に座った京平が俺にぴったりくっついて左耳にイヤホンを着ける。有線イヤホン使っといてよかった、と思いながら、平静を装って京平を見る。
「……近くない?」
一応聞いてみる。もちろん、俺は嬉しい。でも京平は嫌じゃないかな、と念のため。嫌がられたらへこむけど。
「寛太 、なに言ってんの? 一緒にお風呂入ったり、ひとつの布団で寝たりしたのに今更距離が近いとか」
笑われた。笑顔が至近距離すぎて頬が熱くなる。それに、一緒にお風呂とかひとつの布団とか言うし。
「そんなの、小さい頃の話じゃん……」
最近人気のアーティストの曲をふたりで聴く。京平とイヤホンで繋がっていて、変な感じだけど安心する。ずっとこうしていられたらいいのに。
「……また告白されてたね」
「んー? ああ」
あ、嫌な話題を振っちゃった、と少し落ち込む。京平は放課後にまた女子から告白されていた。いつものように断ったみたいだけど。
「なんでいつも断るの?」
「好きな子いるから」
「えっ」
好きな子!? 初めて理由を教えてくれたことに驚き、それ以上にその理由に驚いた。
「誰?」
つい聞いてしまって、すぐ後悔。聞いてどうするんだ。傷が深くなるだけじゃないか。
――でも、そうか。好きな子いるんだ……いるよな。だからずっと告白を断っていたんだ。納得したくないけど、納得。
「教えてほしい?」
「ううん。いい」
「協力してくれるなら、教えてあげる」
京平が顔を覗き込んでくるので、俺は視線を逸らす。勢いで聞いてしまったけれど、聞きたくない。協力なんてしたくない。
「……協力なんて、俺じゃなにもできないし」
「寛太にならできるよ。ていうか、寛太にしかできない」
「? どういうこと?」
京平に視線を戻すと、びっくりするくらい真剣な表情で俺をまっすぐ見ていて心臓が大きく跳ねる。身体が動かない。時が止まったようにそのまま見つめ合う。
「寛太だけにできること」
「俺だけ……?」
京平の大きい手が、俺の手に重なる。頬が熱い。全身に心臓の音が響く。京平と繋がった有線イヤホンから聞こえるラブソングでは、「僕を見て」と切ない歌声が響いている。
(終)
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