優しく手を引かれて寝転び、見上げると一面の星空が広がっていた。隣で同じようにするマスターは僕の横顔を一瞬だけちらりと見て、それから星を仰ぐ。ドキドキする胸が鳴り止まないのは、息を呑むような満天の煌めきだけでなく、繋いだ手が離されないからだともわかっていた。
記念日の過ごし方を尋ねられ、それからすぐに任務の予定が滑り込んだ。去年はシャルル兄さんとマークスさんを加え、四人でピクニックをした。その時期どうしても外せない公務があったペンシルヴァニアさんとケンタッキーは今年こそと意気込んでくれたみたいで、任務先の野営地で素敵な景色を見上げている。
地面が近く、土と青草のにおいがする。僕たち以外に人の気配のない山中で、静かだった。物陰から何が飛び出してくるかわからない、そう怯える暗い路地裏だって皆が息を潜めて静かだったけれど、自然の中にある静寂は揺り籠のように心地良い。ペンシルヴァニアさんが時折士官学校からふらりと消えたがる気持ちが、少しだけわかるような気がした。
穏やかな夜風に晒され、肌の表面が薄らと冷える。特に会話もなく、自分の呼吸の音に意識が向く。繋いだ手だけがぽつんと温かく、平常よりも少しだけ早いスピードで心臓が動き続けていた。
彼女がいなければ、自分の頭の上に泣きたくなるほど綺麗なものか広がっていることを、きっと僕は知らなかった。
「……あ、流れ星……」
視界の端に、ひとつの光が駆け落ちていった。
思わずつぶやくと、マスターが「どこ?」と首を傾ける。
「あっちの、北西の空です。もう見えませんが……」
「もうひとつくらい流れるかも」
「ああ。そうだといいですね」
願いをかける時間はなかったけれど、僕だけ見てしまったのも何だか寂しい。願いを叶えてくれる奇跡が降ってくるなら、この人のところにゆくべきだ。
「世界が滅びるなら、流星群がいいな」
突然聞こえてきた不穏な言葉に驚いて、返す言葉に迷う。
「きれいだなぁって思って、上を向いて、ああこれは仕方がないなって思うの。私はそれがいい」
「そう……なんですか」
「うん」流れ星を探す瞳は夜空を真っ直ぐに見つめている。「諦められる理由がほしい」
繋いだ手が緩みそうになり、慌てて指先に力を込めた。すると、彼女は少しだけ驚いたように僕の方を見て、ゆるく微笑む。
「冗談。ただ、私は――」
邪気のない瞳に星の煌めきが灯って、僕はあっと声を上げた。二人とも起き上がって夜空を見上げるも、星の尾すらもう留まっていない。
「落ちたよね?」
「はい。落ちました」
「残念。またちゃんと見られなかった」
「……でも。きっと、また見られますよ」
祈るような言葉が自然とこぼれ落ちた。
「それまで、僕が一緒にいます」
そう言い切ってから、力のこもった声に気恥ずかしさが追いついてきた。鼓動がまた早鳴る。それでも彼女の視線から逃れることは違うと思い、真っ直ぐに瞳を見返した。
一瞬きょとんと目を瞬かせ、それから短く息を吐く。少しだけ伏せたまぶたの薄い皮膚が震えていた。
「うん」
薄く開いたくちびるが何かつぶやこうとしたその時、マスターは弾かれたようにパッと顔を上げた。
少し離れたところから、僕たちを呼ぶケンタッキーの声が聞こえてきた。焼きマシュマロをするらしい。「行こうか」と笑い、マスターは立ち上がった。
繋いだ手に優しく引かれながら、天に祈る。
ゆく道がどんなに過酷でも歩みを止められないこの人に、いつか、優しい星の奇跡が降り注ぎますように。
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