eto_hina
2024-06-09 11:53:34
1493文字
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スローガン

付き合ってない⚡☁
反省してるから、それなりの努力はするよ、って感じ

「先輩って、恋人には『尽くす派』だったんですね」
 なんか意外。そんなことを言う後輩に何を言っているのかと思っていたら、どうやら顔に出ていたらしい。マスカラマツエクだったか? でバサバサまつ毛で大袈裟に3回、パチパチパチと瞬きした後輩の口がもう一度開く。
「だって、プロフェッショナルーとか言ってるのに仕事の合間に連絡ちゃんとしてるし、お休みは絶対会いに行ってるし、出すものは全部先輩持ちなんですよね? 尽くしてるじゃぁないですか、羨ましい」
「羨ましーの」
「羨ましいですよ、相手が先輩じゃなかったら。不安にならなそう。先輩じゃなかったら」
「そんな言う? 滅茶苦茶ディスるじゃねぇか」
 先輩はいやですよ、と可愛くないことを言う後輩。可愛くねぇなこいつ。ほんと可愛くねぇな?
 でもこいつの言い分は間違えてねぇんだよな、ちゃんと関係を知ってれば。だって仕方ないだろう。あいつから連絡は来ねぇし、会いに来ることは無いし、金だってあいつが出すわけが無い。だって仕方ないだろう。あいつは俺に会いたいわけじゃないだろうからな。でも後輩はそれを知らない。だから『尽くしてる』なんて言えるんだろう。尽くしてる尽くしてる、か?
「だって仕方ないのよ、これは」
 ぽつり、と言った言葉は後輩の耳には届かなかったらしい。それは別に構わない。代わりにあいつに届いてくれ。反省してるんだ、これでも。後悔はしてないが、結構きつい。
「無理やりなんてすんじゃなかったなぁ」
 興味本位とノリで手を出して、ベッドの上で傷だらけでシーツを赤く濡らしたあいつを思い出す。可愛かった、といえば俺の性癖が歪んでると思われそうだが、まあ、可愛かったもんは可愛かった。それで落ちてしまったのだから人生何が起こるか分からない。
「ま、ちょろいからそのうち絆されんだろ」
 それまでは反省してますって顔で『尽くし』ますよ。反省してるのは事実だからな。早めに絆されてくれるに越したことはないが、焦っちゃかえって長引くもんな。
「先輩顔が気持ち悪いですよ」
 ニヤニヤするとか、リア充ですか。
 可愛くない後輩が、せっかく可愛くしたんだろう目ですんげえ顔で睨んでくる。はいはい、仕事しますします。俺は出来る先輩ですから。
「さっさと片付けて、あいつんとこ行ーこう、と」
 今日は休みのはずだから、メールして、連れ出して、美味いもんを食わせる。そんでいっぱい謝って、家に来てくれれば儲けもん。絆されてちゃんと『恋人』になってくれればもうちっと楽になる。早く、早く。でも焦らず。急がば回れと誰かも言ってるし?
「愛は……忍耐、と」
 最後の一文を入力してエンターキーを叩きつけて、しっかり保存を確認する。時間を見ればピッタリ定時。さすが俺。
「終わったんで、今日は残業しませーん、お疲れ様です、と!」
 オフィスを出て、あいつのいる所へ。最短距離で、最短時間。足には自信がある、なんせ俺はエースなので、優秀なので。
 鼻歌交じりに目当ての店に行くとちょうどこちらに背中を向けて何かしている金髪の男に遭遇した。ツイてる。運が向いてるなぁ、そう思いながら男の肩に手をかける。
「よ、クラウド」
 振り向いた美人は俺の顔を見る。ノーモーションで繰り出される平手打ち、いや、掌底か?
 グラりと揺れる体を何とか踏ん張って支える。店に逃げてくクラウドを逃がすかよ、と追いながら、オレはココ最近のスローガンになりつつある言葉をもう一度口にした。
「愛は、忍耐……イテテ」
 やっぱり痛いのは嫌だから、さっさと絆されて欲しいぞ、と。