mikagami3
2023-07-08 22:00:16
3953文字
Public エスコンZERO マーセナリー(♀)
 

雪に途切れた約束

エスコンZERO二次創作SS
マーセナリールートのサイファー♀と片羽の妖精が、十年後に再会して、なんやかんやあって、年に一度の約束を取り付けて、その後。
傭兵として生涯を歩むことを決めた彼女の、唯一の後悔。SSメーカーの時より少し加筆あります。

「せめて、一年に一度は会って貰えないか」
「めんどい」

 再会なんて、一度きりで良かった。
 なんなら、二度と会うことなんてないと思っていた。
 あの日、あの時、アタシは確実に《殺した》と思っていたし、思っていたから今まで仕事ができた。
 まさか、殺し損ねてたなんて。
 聞くところによると、あの戦争で生き残った《敵》は存外多いらしい。むかつく。
 己の仕事の不始末を全て消して回りたいが、もうとっくに彼らとの利害関係はないし、今は敵ですらないただの《他人》だ。わざわざ関わりに行くほうが無様だと思った。
 だから、彼らに関しては「ああ、そう。残念ね」で終わらせてやった。せっかく拾わせてやった命、せいぜい長生きするといいわ。
 でも、こいつは別。
 二度と会いたくなかった。いや、少し違うわね。
 二度と面を拝めない覚悟で、それでもいいと決めて撃った。
 今更どの面下げて会おうって言うの?
 あんたも、アタシも。
 殺せたと思ったから、覚悟の通りに殺せたと思ったから、アタシは笑って次の仕事場を探せたし、あの頃の仲間に会った時も笑えた。鋭い鷲の目すら懐かしく思える。
 けど、あんたは駄目。
 過去の亡霊が目の前に現れたようなもの。それがアタシの幻覚ならまだ救いがある。アタシが立ち直れば済む事だ。
 けれど、あんたは生きている。生きて、もう10年も経ったというのに、あの戦争を引きずってる。
 そんな馬鹿でかい荷物を引きずったまま、またデカイ花火の中でもがき苦しんでる。
 馬鹿でしょ。
 でかい荷物を引きずってる男が、その荷物が見えている女と会って、どうしようというのよ。見えていたって、手なんか貸さないわよ。タダ働きは嫌いなの。
 だから、いえ、それでも、全部を言ってやろうなんて気は全く起きなくて、ただ一言突っぱねた。
 そうしたら、なんか、捨てられた子犬みたいな顔をするのよ。
 アタシが悪いことしたみたいじゃない。そういう顔やめなさいよ。

「サイファー……
「何て顔してんのよ。いい年してみっともない」
「それは、そうだが」
「アタシも、あんたも、もういい年なのよ。それだけ時間が経った」
「ああ」
「なら、今更でしょ。会ってどうするの。酒でも飲む?」
「それでもいい」

 適当なことを言って怒らせようと思った。それなのに、あいつは微かに笑った。
 いい考えだ、と言って。

「一杯付き合って貰えれば、御の字だ」
「分らないわ。アタシ、あんたが分らない。今も、昔も」
「お互い様だ。分かろうなんてしなかっただろう? 俺達」
 それはそう。
 後腐れの無さが最大のメリット。それが傭兵という仕事だった。
 少なくともアタシにとっては、適度に笑えて、美味い酒が飲めて、強い敵と戦える上《綺麗な空》を飛べて、終わってもさっさと次が探せる傭兵という仕事は最高だった。
 気持ちよく仕事ができるならそれに越したことはないけれど、不要な干渉はそれを台無しにする。だから、僚機になる男の、内面まで理解しようなんて考えなかった。それでも仕事の相棒として信頼してはいた。それは本当。
 結果的に殺し合うことになったけれど。
 けれど、信頼していた人と殺し合うのは初めてじゃなかったから。
過去に経験しているから、この男は《あの人》では無いから、まだ大丈夫。
 だから、何でもないように肩を竦めた。

「傭兵なんてそんなものでしょ?」
「そうだな。俺もそう思ってた」
「だったら」
「だから、わからなかった。何も。何もかもが。お前は強い女だ、ということしか分からなかった」
「それで十分よ」
「だから見誤った。もう二度と、間違えたくない」
「傲慢ね。人間なんて、生まれた瞬間から間違いと失敗を繰り返すのに」
「そうかもしれない」
………現実主義のあんたが、殺すしか能のないアタシと会う。その動機は、何?」

 魔が差した。知りたいと思ってしまった。
 アタシは自分の顔は綺麗だと思っているし、総合的に美女の類だと思っている。
 傭兵としての自分も、胸を張って強いと言える。どんな戦場でも戦えると思ってる。
 けれど、この男は別段、それらを求めているわけではないはずだ。

「サイファー。俺は……あー、これを口にするのは酷く、恥ずかしいんだが……俺は、弱い。腕力とかの話じゃない。心だ。俺は、恐らく、酷く臆病で、どん底に堕ちやすい」
「知ってる」

 そのくらい知ってる。
 戦火に焼かれる街を見たあんたの目を見れば、誰だって想像がつく。
 あんたこそ知ってるの?
 おそらくは昨日まで仕事をしていただろうあんたの目を。
 あの日の目に、よく似てるわよ。

「知っててほしくなかった」
「伊達に、コンビ組んでなかったじゃない。知ってたわよ。それくらい。ただ、それでも仕事をしようとするあんたを、尊重してただけ」
……サイファー。俺は、死ぬまで、探し続けるだろう。国境の意味を探すために生きるんだと思う。やり方は変わるかもしれん。だが、きっと、生きる理由は変わらん」
「そう」
「そうだ。だから……俺は、お前に、星になってほしい」
……死ねってこと?」
「そうじゃない!!!! どうしてそうなるんだ!? あ、ああそうか、死んだら星になる民話とか神話とかあるかでもそうじゃない!」

 まあ、分かってて言ったけど。
 狼狽える様がおかしくて、あの頃みたいで、不覚にも笑ってしまった。
 笑ったアタシに安心したのか、それでも気恥ずかしいのか。
 ごほん、と咳払いをして妖精は話を続けた。

「俺が言いたいのは。道標だ。灯台、止まり木、何でもいい。ただ、其処にいてくれ。
 お前がいるべき場所に、俺は帰る。見失わないように、迷わないように、ただ、居てくれ。頼む。サイファー」
「アタシは傭兵。一つところにはいないわ。銃火舞い踊る戦場を渡り歩く根無し草。
 名も無き武器の一つ。それが、アタシ」
「円卓の鬼神が何を言うのやら」
「片羽の妖精に言われたくないわね?」

 無力に絶望して、見るべきモノを誤った男。
 あんたが無力だと言うのなら、そこらの有象無象は存在価値すらない。
 それでも、そんなあんたでも、この先、惑うかもしれないと言うのなら……

「ねえ」
「うん?」
「あの日、あんたに貸してやったハンカチ。返して」
「ハンカチ? あっ」

 覚えていたことに、内心で安堵の息を吐いた。
 口実は、多少効果がありそうだ。

「返してくれたら、考えてやってもいいわ」
……約束じゃなくて?」
「我儘ね。ふん、しょうがないわ。返してくれたら、手紙を出すわ。場所が変わるたびに。あんたに手紙を書いてあげる。それでいいでしょ? このアタシが、居場所を教えてやるって言ってるのよ? 感謝しなさい」
! ありがとう」
「返したら、の話――

 言い終わる前に差し出されたのは、白いハンカチ。
 アタシが、あの日、アタシの髪と一緒に渡した、シルクのハンカチ。

……物持ちが良いこと」
「返さなければ、とは思っていたからな」
「そう。じゃあ、次に塒を移った時に、手紙を書くわ。この街には、もう少しいるつもりだから、しばらく先かしらね?」

 いつまで続くか分からないけど、それを言うほど野暮じゃないわ。
 本音を飲み込んで笑ってやれば、おかしいくらいに嬉しそうな顔をされた。

……!」
「会ってあげるわ。年に一度、あんたの情けない顔をつまみに、酒を飲んでやるから」


 あの時、あいつはなんて返事をしたんだっけ。

「忘れちゃった」

 口の中が鉄臭い。体中が、痛い。
 アタシも、歳を食ったわね。そうね、でも、相応しい結末だわ。

「あらかた、拠点は潰し終わってるし。そもそも歩兵は専門じゃないのよね」
 
 銃火は、遠い。
 当たり前だ。敵を殺し終えたのを確認したところで、力尽きただけなのだから。
 指一本動かせない疲労が回復するのが先か、あちこちに空いた傷口から血を失って死ぬのが先か。
 冷静に、死ぬ、と思った。
 それでいい。
 アタシは、ココで死ぬのが似合っている。
 寒々しい青灰色の空の下。ぼんやりと空を見上げて。
 頬を切るような寒さは、むしろ気持ちがいい。

……初雪ね」

 そろそろ雪の季節なのだと、ここが地元だと言う同僚が言っていた。
 初雪に間に合った。次の夏に持ち越すことはないだろう。
 ようやく、肩の荷物を下ろす時が来た。

「貴方に、会いにいけるのね」

 脳裏に浮かぶのは、あの日殺した、あの人。誰よりも愛した、美しい黒髪の人。 
 今度こそ、その顔面引っ叩いてやるから。
 あの時は、顔も見れないまま引金を互いに引いたけれど、今度こそ目と目を見て、腰を据えて、喧嘩をしたいわ。
 恨み言も言ってやる。アタシは貴方の子供を育ててみたかったと。
 初めて愛した人なのよ、と。
 愛しい貴方。愛しているからこそ、殺した貴方。
 愛をくべて憎悪を燃やしたアタシに、貴方は会ってくれるかしら?
 会いたいわ。
 会えたら、ひとしきり喧嘩をしたら、父さんにも会わせてやるから。ぼこぼこにされるといいわ。
私はそのつもりは無いのだけど、片羽のこと、浮気だと思われてしまうかしら?
……別れを言わない、不義理な女だと言うかしら?

……ほら。やっぱり、アタシが約束を破るじゃないの」

 今年は、会ってやれないわね。
 それだけは、謝っておくわ。
 この雪に。

 情けなくも、目尻から一滴だけ涙が零れてしまった。
 さよなら、相棒。

……ごめん」