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mikagami3
2022-04-18 20:26:11
6734文字
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エスコン7 トリガー♂
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甘くて、甘えて、甘えさせて
ダルセン姉弟が生存してるという捏造ルート小話。トリガーが実家に里帰りした日に合わせてチョコレートのお菓子でお茶会している。
トリガーくんの父親・妹・祖母と愛犬が出てきます。
「大丈夫なのかい?」
「
…
?」
リビングで、愛犬を撫でながらココアを飲む息子の顔を、テオドロは覗き込んだ。
ぼんやりしているように見えたため、心配になったのだ。
ところが息子は不思議そうに、母親譲りの青い目で見上げてくる。
ひやりとしながら、どこか日差しの温かさも感じる淡い色。
愛おしいその目を見つめながら、息子が背中を預けるソファへと腰かける。
「何度も休んでいるんだろう?一度、病院で診てもらったほうがいいんじゃないか?」
「
……
いらない」
ふるふる、と息子は首を振った。
言葉少なにジェスチャーで返事をする息子の姿に、ツキリと胸が痛んだ。
昔は、もう少し話してくれる子だったのに、と。
ガルシア家の女性たちは皆が陽気で明るく、お喋りが好きである。
特にテオドロの二人の娘、双子のマーガレットとヴァイオレットは顕著で、兄であるアイザックは相槌を打ちながら微笑んで話を聞いてやっていた。
女性たちに比べて寡黙ではあっても、全くの無口ではなく、時にはアイザックの話をにこにこと笑って聞く家族の姿もあった。
今は、それもない。
お茶をする暇がなくなったのもある。アイザックが成人して空軍に入ってからは忙しくしていたし、彼の妹たちもちょうど思春期で、言えないことも増えた。
これも成長の証だと寂しくも嬉しく思いながら妻と話している内に、戦争が始まった。
テオドロの妻の両親は「心配するな」と言うばかりであったが、看護師である妻は家に帰らない日が続き、息子とは全く連絡が取れないまま日々が過ぎた。
ようやく連絡が取れた時には、太陽のようだった金髪はくすみ、がっしりとしていた体は痩せ細り、眼の光は弱く、少し俯いて歩く姿は、彼の良く知る息子ではなかった。
それでも、家族の姿を認めた彼はほっと安堵の息を吐いて「ただいま」と微笑んだ。
「ああ、頑張って、頑張りすぎたんだ」と悟ったテオドロは涙を流しながら「おかえり」と抱きしめた。
終戦から少し経った今はほぼ元通りの体格に戻り、妻によく似た色の青い目は光を取り戻している。
「そうしてると、やっぱり似てるな」
背後にあるキッチンから、足音が近づいてくる。
二人分の気配に振り替えると、長身の男女が近づいてきていた。
「トト、エル」
「はいよ、アイザック。お待たせ」
アイザックが声をかけると、女性のほうが焼きたてのクッキーを差し出す。
その後ろの男性のほうが、リビングのテーブルにカップとポットを置いていく。
優しい紅茶の香りがする。テオドロの義母が好むブレンドだ。
「似ている、かな? むしろサンドラに似ていると思っているけど」
ココアを飲み終えて、差し出されるクッキーを受け取る息子を見ながら、トトと呼ばれた男性へと答えると、彼は軽く首を傾げて笑った。
「目の色は、そうだけど。でも顔かたちとか、表情とかはやっぱり旦那に似てますよ。アイザックは」
そういうと、アイザックが飲み終えたココアのマグカップを持ち上げてキッチンへと消えていく。エルと呼ばれた女性はアイザックの足に凭れている愛犬、ニューファンドランドのフィニア(5歳、メス)を撫でまわしている。
「この子大人しいよね。なんで? アタシみたいな赤の他人に吠えたりしないの?」
「
……
たぶん、俺が居るから。あと、おじいちゃんの匂い、するんじゃないか?」
「えっ、ウソ!?」
顔をしかめながら自分の匂いを嗅ぎだす彼女に、アイザックはふるふると首を振る。
「犬の、嗅覚で感じる程度だと、思う。そんな嫌な顔、しないで
……
」
「だって、いやじゃん
……
自分からジジイ臭がするの
……
」
「そうかもしれない、けど。そういう、のじゃなくて。個体としての、匂いだよ」
「ええ~?結局臭いってことでしょ?」
「ち、違う
…
!」
「エルケ、その辺にしとけ。トリガーが泣いちまうだろ」
「トト
…
」
「オットー。出来た?」
戻ってきた弟を見上げて笑うエルケと、ほっと息を吐いたアイザックを見て、オットーはほんの少し口角を上げて頷いた。
テーブルに一つ、皿を置いて、床に座るアイザックの隣にぺたんと陣取った。
「ちゃんと味見してきた。出来てるよ」
「えっずるい!あたしにも!」
「待て。トリガーが先だ」
手を伸ばした姉を制して、オットーはアイザックの顔を覗き込む。
「マダムに教わって、あー
……
練習した。これ、生焼けになりやすいっていうか、難しくて
…
。エルケも一緒に作ったんだ。それは後で持ってくる。最初に、俺が作ったこれ、食べてくれると、嬉しい」
「歯切れ悪いじゃんオットー。照れてんの?マジ?ウケるんだけどっ!」
「
…
エル。だめ、だよ。弟を揶揄ったら」
にしし、と笑うエルケをそっと叱る。その顔はしっかりと兄の顔で、自身は弟として生きてきたオットーは何だかくすぐったく感じた。叱られたエルケはしゅんと肩を落としながらも、くすくすと笑いだした。
「どうした?」
「だって。ふふっ。アイザックがお兄ちゃんしてるからさ」
「
……
そりゃ、そうだよ。俺が、兄妹の、一番上なんだ」
ほんの少し、家族でも判断できるかどうかという、ほんの少し。
照れ臭いような不機嫌なような表情をほんの少しだけ浮かべるアイザックに、エルケは更に笑みを深める。うん、うんと頷いている。
「いいなー。お兄ちゃん。守ってくれるお兄ちゃんだ。いいね。うん。とっても」
「
……
馬鹿に、してる?」
「してない!全然!やだそんな顔しないで!本当に!してないから!!」
少し唇を尖らせて目を細めたアイザックに慌てて弁解をするが、疑わしい目を向けられてしまっている。
そんな二人の様子を、すぐ傍でニヤつきながらオットーは眺めていて、ソファに腰かけているテオドロは微笑ましそうな顔で見ている。
「日頃の行いが悪いからだぜ、エルケ」
「うるっさいねオットー!」
弁解よりもさらに勢いを増して弟に噛みつくエルケは、知らない人が見れば殺気だった凶暴さだ。しかしオットーはどこ吹く風と笑うばかり。二人の信頼の上で成り立っているやり取りだ。
ひやひやしていたテオドロだったが、すっかり平然としている息子の表情と、聞くに堪えないスラングまみれの悪口の応酬だが、手が出る様子はない二人を見て、一先ずは姉弟喧嘩を見守ることにした。
ヒートアップしてテオドロには聞き取れない言語での喧嘩になってきているが、何とか言い合いでとどまっている。その間に挟まれているアイザックは首を傾げるものの、その場から動かずにフィニアを撫でている。撫でられているフィニアはすっかりリラックスして、ごろりと寝返りを打ってお腹を見せ、鼻先を擦り寄せている。
何もできないまま十分ほどが経過したころ、フィニアが再び寝返りを打ってうつぶせになったかと思うと、のそりと起きて立ち上がる。
のしのし、とゆっくり姉弟の間に立ち塞がる。
オットーに鼻先を向けて、一声。
「
…
わふ」
「な、なんだよ」
次はエルケに鼻先を向けて、じっと目を見て一言。
「
…
うぉふ」
「あ、あたしだけが悪いわけじゃないじゃん!」
うろたえる二人を二度、交互に見る。
間近に迫る巨大な犬に、思わず口をつぐむ二人。
フィニアはただ静かに、アイザックを隠すように座った。
「
………
」
「
……
」
「
……
」
無言で見つめ合う二人と一頭。
最初に折れたのはオットーだった。
「
…
あー、ごめん。ちょっと調子に乗った」
「
………
」
目を伏せて黙るエルケの膝に、フィニアは前足を乗せた。
顔を上げてフィニアを見たエルケは、しばし逡巡したあとにオットーに向き直る。
「あたしも、ごめん」
ぺこっと頭を下げたエルケを見つめたフィニアは、ふんす、と満足げに鼻を鳴らしたあと、アイザックの足元に戻ってごろり寝そべった。
ちょいちょいと前足で軽くアイザックの足を引っ掻いて「撫でて」と催促する。
「
……
よく、できました」
両手で頭をかき混ぜるように撫でてやると、嬉しそうに目を細めて尻尾を大きく振り回す。しばらくそうしてやると満足したのか、アイザックの手を抜け出して太腿に頭を乗せて寝始めた。
「
……
アイザック」
「
……
ごめん」
「喧嘩、ほどほどに、な?」
『はい』
素直に頷いた二人に対してアイザックも一つ頷くと、先ほどオットーが持ってきていた皿を手に取る。
皿の上には小さなフォンダンショコラに銀のフォークが添えられていた。
「あ、えっと、無理しなくていいからな?」
「アイザック、食べてやってよ」
「エルケ!」
「
……
食べて、いい?」
「うっ
……
はい
……
」
ひどく迷って、視線を彷徨わせながらも何とか頷いたオットーに微かに笑みを返して、フォンダンショコラにフォークを入れた。
火が入らないことを懸念したのか、通常のレシピより少し小さなチョコレートの生地からとろりとチョコレートソースが流れ出てくる。それを生地に絡めて一口、含む。
ちろりと見えた赤い舌を目で追う様に、オットーはじっと見つめている。
もぐもぐ、と咀嚼して飲み込む喉の動きから目を離せずにいると、はぁ、と息を吐いたアイザックが視線を上げる。
「
……
おいしい」
「本当に?」
おずおずと尋ねるオットーに、ゆっくりと頷くことで肯定する。
もう半分を口に運ぶアイザックの肩に、オットーは額を乗せて深いため息をついた。
緊張の糸が切れたのか、ずしりと重くのしかかる。そのまま二度ほどぐりぐりと擦りつけた。
「あ~~~
……
良かった」
「そんなに緊張、しなくても
……
。おばあちゃんの言うことを聞いてれば、ちゃんと作れる」
「それでもよ、初めてだったからさ
……
」
「
……
そうか」
少し考えこんで、テーブルに皿を置いたアイザックがオットーの頭に手を伸ばす。
ぽんぽん、と撫でつけるように優しく手を置いて労いの言葉の代わりにした。
「
……
ずっる
…
」
「そうだよズルイ!あたしも!」
ぽすんと軽い調子でエルケも反対側の肩に頭を乗せる。手を掴んで頭に乗せられたアイザックは催促されるままに軽くエルケの頭を撫でた。
「堂に入ってるじゃん。お兄ちゃんだねぇ」
「また、そういうこと」
「馬鹿にしてるんじゃないったら。優しいねってこと。ちゃんと優しくできる、優しいお兄ちゃんだねって言ってんのさ」
「
……
そういうことに、しておく」
『あー!!!』
突然、二人分の少女の叫び声が響く。
四人と一頭が廊下に繋がるドアを振り返ると、金髪の美しい少女が二人、アイザック達を指さして震えている。
二人は瓜二つの顔を歪めてわなわなと体を震わせて、意を決したように駆け寄っていった。
アイザックの10歳下の妹たち、双子のマーガレットとヴァイオレットだ。
「お兄ちゃんは私達のお兄ちゃんなんだから!」
「エルケとオットーにはあげないの!だめ!!」
そう叫びながらソファ背もたれの後ろからアイザックに飛びついて、二人ともがぎゅうっと首にしがみ付いた。
「ぐっ」
「いーじゃん!減るもんじゃなし!」
「減る!」
「構って貰える時間が減っちゃう!」
「
……
」
四人それぞれがぎゅうぎゅうとアイザックに抱き着いてしがみ付くため、いかに鍛え磨かれた肉体を持つアイザックと言えど耐久に不安がある。
「皆
……
不毛な、争いは」
「酷いお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんは私達のことどうでもいいの!?」
「そうじゃ、なくて」
――
ぱんぱんっ!
その時キッチンから、上品な老婦人が大きく手を叩きながら入ってきた。
腰に手を当てて、少しだけ眉を吊り上げて団子上になっているソファの一団を睨む。
アイザック達兄妹の祖母、マリアンヌである。
「マギー。レティ。手を洗ってきましたか?」
「はい。おばあちゃま」
「うがいもしてきたよ」
「宜しい。では。おやつにしましょう。今日はたくさんあるのよ」
『やったー!』
妹達二人がアイザックから離れ、祖母の手伝いをすべく駆け寄っていく。
再び争いの火種が生まれるところだったのを回避できたアイザックと、なすすべもなく見守っていたテオドロは、ほっと息を吐いた。
「丸く収まってよかった
…
」
「うん」
頷き合う親子を見て、エルケはアイザックの肩に寄りかかる。じゃれるようにくすんだ金髪に手を伸ばす。
「ほら。可愛い妹があんなに懐いてるんだ。いいお兄ちゃんだよ。やっぱり」
「
……
そうなら、いいな」
「自信持てよアイザック。俺にも兄がいたとしたら、お前みたいな兄さんが良い」
「
……
トト?」
「あたしも。兄貴がいたらあんたくらい優しい男がいいと思う」
「
……
エル、おだてたって」
「だからさ」
アイザックの言葉を遮って、オットーが呟く。オットーの真剣な表情を見て、アイザックは茶化すのも反論するのもやめて、続きを待った。
「たまには、俺も甘えていい?」
「
……
」
エルケすら口を挟まずに見つめる中、アイザックは目を伏せて考えこんだ。
彼は、エルケとオットーの姉弟のことをほとんど知らない。
彼ら二人の本名と、彼らが姉と弟の姉弟であることと、自分の命を狙っていたこと。それだけしか知らない。
正確な年齢すら知らないのに、何故こうも自分に身を預けようとするのか。
彼らのことを何も知らないのに、自分に何ができるだろう。そう思ってしまう。
同じ空を飛んだ、助けようと思った、《彼女》ですら助けられなかった自分に。
彼らのことを何も知らないように、自分が何もできないことを、彼らは知らないのだ、とアイザックは伝えるべく口を開く。
「
……
俺、は。人を殺すしか能がない、男だ。トトのために何ができるかなんて、分らない」
「同じだよアイザック。俺も、俺達も人殺ししかできない。それでも傍に置いてくれるお前の、傍にいたい。傍にいることを許してくれたら、それでいい」
「あたしも一緒にいさせてよ、アイザック。いられるならそれでいい。何も、心配しないでいいんだよ」
ひゅっと息を飲むテオドロの視線は無視をして、エルケとオットーはそれぞれアイザックの手を取った。
彼らはそれぞれ《トリガー》《スクリーム》《レイジ》と呼ばれる戦闘機パイロット。
空で殺し合いをするための訓練を経た人間達であることを、テオドロは今更ながら認識させられていた。
研ぎ澄まされた空の、彼らにしか分からない空の色に満たされていく。
「他の誰よりも、きっとあたし達は理解できるよ。色んなことを」
「だから、傍に居させてほしい。何かしなきゃいけないときは、きっとその時に理解できる。今は
……
ただ、寄りかからせてほしい」
「
……
妹達とも、仲良くしてくれるなら」
エルケとオットーは、真剣な表情で冷たい青の目を見つめる。
彼が浮かべる微笑はささやかで、余りにも儚い物であったが、今の彼ができる最も優しい笑みだった。
「少し寄りかかるくらい、平気。俺にできる何かが、あれば、言ってほしい」
「
……
おう」
「ありがとう、アイザック」
姉弟はアイザックの手に両手で触れ、そっと持ち上げる。
大切な何かに祈りを込めるように、額を押し付けた。
「俺達はお前の為なら何でもする」
「あたし達を離さなかったあんたを、絶対に守るから」
時間にして数秒、ほんのわずかな時間ではあったが、二人の真摯な誓いは確かにアイザックの胸に届いた。
唇を引き結び、真摯な表情でしっかりと頷いた。
伝わったことが分かったのか、二人は手を離してソファに持たれて笑いあった。
「ふふっ、緊張したー!」
「俺も」
「おにーちゃーん!おやつ!」
「これ、エルケが作ったんでしょ?すごいね!」
にこにこと楽し気な双子の少女がチョコレートムースのタルトを持って近づいてくる。
すっかり機嫌を直した二人を見て、アイザックが微笑む。
それを見て少しだけ唇を尖らせたエルケとオットーだったが、すぐに肩を竦めた。
「ま、これからさ」
「そうだな、少しずつだ」
二人だけが分かり合える言葉で頷き合って、すっかり冷めた紅茶を飲み干した。
改めて見渡せば、マーガレットは父テオドロにケーキを勧めて、ヴァイオレットはフィニアに犬用おやつをあげてやり、アイザックは祖母マリアンヌに呼ばれて席を立つところだ。
この穏やかな家に、居場所をもらった。
これから、自分たちも。
彼らのようになれればいいと、そっと目を交わし合ったのだった。
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