mikagami3
2019-10-26 21:49:26
3096文字
Public エスコン7 トリガー♀
 

貴女がくれた名前を呼んで

SPミッションが辛いと聞いて取り急ぎ女子バージョン書きました。
暗殺姉弟とトリガーちゃんのお話。トリガーちゃん、ダルセン姉弟を連れて里帰りの巻。
トリガー君とほぼ同じシチュエーション。違うのはセリフくらい。

明日は目覚ましをかけずに、時間を気にせずに寝よう。そう決意して彼女はベッドに入り込んだはずだった。

「暑い!重い!」

弾むようなソプラノで、寝起きだと言うのに思いっきり声を上げた。
祖父が「生還祝いだ」と買ってくれたキングサイズのベッドに、成人が三人寝ていた。
一人は《トリガー》と呼ばれている、褐色肌の女性。
戦争の間に研ぎ澄まされた晴れた冬空の瞳と、きらきらと眩い金髪が印象的な、20代半ばほどのパイロット。
その両脇に、男女がすやすやと寝ている。
どちらも両腕でトリガーを抱きしめ、両足を絡め、トリガーの体温を二人で共有するかのようだ。
女性のほうは、眠ったままでも分かる強い目元と、反対に清廉さを感じる白い肌に金色の髪。
男性のほうは、普段の陰鬱な顔が、すっかり緩められた穏やかな目元に、女性とよく似た白い肌に金色の髪。
正反対なようで、よく似た特徴を持つ二人は、戦闘機パイロットで姉弟だ。
姉が《スクリーム》
弟が《レイジ》
この名で、トリガーと戦ったパイロットだ。
様々な思惑と偶然と数奇な運命によって、二人の処遇はトリガーに一任された。
悩んだ末に長期休暇を申請し、トリガーは二人を伴って里帰りした。
二人は昨晩、トリガーの家族に質問攻めにされた挙句に、祖父と母と酒盛りをしていたはずだった。
だが、二人からは酒の残り香はしない。

「どーして二人ともここにいるのよ」

と、記憶を遡ってもこうなる原因が見当たらなかったトリガーは、溜息を吐く。
レイジの腕が首に絡まっていて少し呼吸が苦しかった。頭を抱き込むようにされている。
スクリームの腕は胴体を抱きしめていて、胸の上に頭を乗せる形になっていた。本格的に抱き枕だ。

…………

あまりにもすやすやと眠っているので、身じろぎひとつ呻き声ひとつすら、一瞬躊躇う。
昨日の夕食時に、あったかい手料理は久しぶりだ、と困ったように笑ったレイジと無言で口に詰め込んでいたスクリーム。
二人の安らかな眠りを邪魔することには酷く葛藤が生まれる。だが、トリガーとて現状を維持できるほど頑丈ではない。
意を決して、声を上げた。

「スクリーム。レイジ」

すぅ……すぅ……

寝息は続く。だが、トリガーはわずかに変化した腕の力を見逃さなかった。

「起きて。苦しい。お腹空いた」

力が強まる。

「なんでそうなるのよ。お願いだから起きて。スクリーム、私のおっぱいは枕じゃないわよ」

しかし、力は弱まらない。弟のほうがピクリと動いた気がしたが、抱きしめた腕は変わらない。

「お腹空いたし喉乾いたし、トイレ行きたい!おーきーて!」
名前」

何が響いたのか分からないが、ようやくスクリームが口を開いた。
だが、トリガーにはまだ、何のことかは分からなかった。

「スクリーム?」
「そうじゃない」
エルケ・ファン・ダルセン?」
「違う」
「うーん?」
「そっちじゃねえんだ。アシュリー」

TACネームと本名の両方で声をかけたトリガーに、レイジがようやく目を開けた。
下がり眉の困ったような顔が、じっとトリガーを見つめる。

「あるだろ?もう一つ。お前がくれたやつが」
「でもあのとき、スクリームは子供っぽいって笑ったじゃない」
「照れ隠しだよ」
「レイジ!」
「スクリーム。アシュリーは良い奴だ。俺たちの言葉を真っ直ぐ信じてくれる。分かるだろ?」
……ああ。知ってる。そういう奴だ。あたしみたいなのには、ちょっと、手ごわい相手」
「分かるよ。だから、ほら。ちゃんと言えよ」
「くそっ、弟じゃなきゃ殴ってる」
「あたしを抱き枕にしながら喧嘩しないで!」

気づくとスクリームも顔を上げて、トリガーの目を覗き込んでいた。
アイスブルーの目が、真冬の空を見上げるように。
ぱちぱちと瞬きをするトリガーを見て、スクリームとレイジは内心溜息を吐いた。

(くっそ可愛い)

凛と鋭いナイフのような美しい容貌とは裏腹に、無垢な子供のような反応を返すトリガーは、二人に庇護欲をかきたてさせた。
存分にその表情を堪能した後に、スクリームが絞り出すように言った。

……あんたがくれた名前。好きだから、そっちで呼んで」
「いいの?」
「レイジの言ったとおりだよ。照れ隠し。だから、本当は気に入ってる。でも、あんた以外には呼ばれたくない」
「いいぞスクリーム」
「黙ってなレイジ!アシュリー。あたしを呼ぶときは、あんたがくれた名前じゃきゃ返事しないよ」

拗ねたような表情で言うスクリームに、レイジが同意した。

「俺もだアシュリー」
「レイジ?」
「俺まで拗ねちまったら話進まねえし伝わらねえから、こうして言うが……俺も、あっちの名前じゃないと返事しない」
……
「頼む。呼んでくれ」

ぎゅっとトリガーの頭を抱きしめて、耳元で熱く囁いた。
それが縋るような、必死な声音に聞こえたトリガーは、そのふっくらとした唇を開いた。

「エル」

ぱぁっ、とスクリームの表情が明るくなる。

「トト」

嬉しいような、照れたような、絶妙な表情でレイジは頬を赤らめる。

「なぁにアシュリー」
「どうした?アシュリー」

何処か甘えたように頬を摺り寄せる二人に苦笑しながら、トリガーはまずこう言った。

「おはよう」
ふふっ。はよ、アシュリー」
「おはよう。アシュリー」

にっこりと美しく穏やかな微笑みに、姉弟は妙なくすぐったさと温かさを覚えていた
おはようと返事を返しながら、腕を解いて頬を寄せてキスをした。
ちゅっ、ちゅっ、と二人からの軽いキスを頬に受けて、ようやくアシュリーは身体の自由を取り戻した。
ぐーっと伸びをする

「もう行くの?」
「うん。着替えたいし」
「じゃあ俺が手伝ってやるよ」
「トト」
「すいません調子に乗りました」

酷く冷たい視線で睨まれたレイジは、すごすごと布団の中に潜り、ベッドを出るトリガーに道を開けた。
弟をからかうようにケケケ、と笑ったスクリームもベッドの上で頬杖を突きながらドアノブに手をかけるトリガーを見つめていた。

「戻ってくる?」
「もちろん」
「良かった」
「二人はコーヒーと紅茶、どっち派?」
「コーヒー」
「俺も」

即座に返ってきた答えに、トリガーはしっかりと頷いた。

「朝食の準備を手伝ってから戻るわ。それまでは寝てていいよ」

言い終えるとすぐに部屋を出ていき、足音が遠ざかる。
そして、二人同時に大きく息を吐いた。

「はぁ~~~~」
「あ~~~~~」
「くっそかわ
「まじかわ
「ぶち犯したい」
「それな」

実に物騒である。

「でも、なんか、毒気抜かれない?レイジ」
「分かる。喋ってると、なんか、今日はいいかってなる」
「あたしも」
「あと、アシュリーが俺を怖がらなくなったら……それからのほうが、いいと思ってる」
うん」
「アシュリーがああなった原因をぶち殺してやりてえ」
「あたしもだよ」
「まぁとりあえずさ」

ごろり、と寝返りを打ってレイジはスクリームと向き合う。
幼い頃からずっと見つめ合ってきた姉に、にまっと笑う。

「朝飯は食おうか」
「そうだね」

スクリームも同じように笑って、トリガーが戻るのを待つことにした。
階下ではトリガーの父親と祖母が、家族と客人の為に腕を振るっている。
その温かな匂いが鼻を擽るのを心地よく感じながら、二人はうとうととしながら、口を開いた。

「ここに来て、良かったねオットー」
「そうだな。エルケ」