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mikagami3
2019-09-11 18:24:44
4696文字
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エスコンZERO ピクサイ
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「もっと話がしたかった」
「あなたは4時間以内に3RTされたら、6才×18才の設定で付き合っていないけど甘々な雰囲気のピクサイの、
漫画または小説を書きます。」というRT系診断メーカーのRT条件を達成したので書きました。
創作サイファーの名前が出てきます。
現パロ・転生・兄弟・死ネタ・注意!
夏の終わり。
暑さが徐々に薄まる夕暮れの街を、少年が走る。
郊外の、静かで、穏やかな人々が多く住まう、古い街。
今は薄橙色に染まる街を、友人たちと別れた少年は家へと急いだ。
今年で6歳になる彼の短い金髪もまた、橙色に染まっていた。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
「母さん。兄ちゃんは?」
「起きてるわよ。あ、こら!ラリー!」
「な、なんだよぉ
…
」
「お兄ちゃんの部屋に行く前には?」
「手洗いとうがい!」
「よろしい」
母親から前々から言いつけられている通り、ラリーと呼ばれた少年へ大急ぎで洗面台へと向かった。
念入りに石鹸で手を洗い、三度、うがいをする。
自身の病気の予防の為でもあるが、最大の理由は、兄の為だ。
二階へ上がり、一番奥の部屋の前に立つ。
二度、ノックする。
兄への、彼の合図だ。
「ラリー?」
「兄ちゃん。今いい?」
「今日は調子がいいから。大丈夫」
おいで、という言葉に少し緊張を覚えながら扉を開けた。
「おかえり。ラリー」
真っ白なレースのカーテンが薄橙色の光に染まっている。
カーテン越しの柔らかい光を浴びながら、ベッドの上で体を起こした兄が微笑んでいた。
この光景が、ラリーは幼心に最も美しいと思っていた。
「ただいま。ランス兄ちゃん」
ベッドの傍まで歩み寄り、彼のために置いてある小さな椅子に腰かけた。
切らずに伸ばしたままの、プラチナブロンドの髪。真雪のように白い肌。桜貝の色をした唇に、冬空の蒼い瞳。
穏やかな月光のような微笑みの兄を、ラリーはわずかな緊張と大きな敬愛とで見つめた。
「今日は晴れていて良かった」
「うん」
「お前は陽の光が似合うからね」
「兄ちゃんはお月さまだね。とても、似合うと思う」
「はは。まぁ、昼も夜も、俺は出歩けはしないけれど」
「兄ちゃん
……
」
思わず、掛け布団の上に乗せられた兄の手を握る。
ほのかに温かなそれは、細く、白い。
光を浴びていない肌だ。
「ごめん。少し夢見が悪くて、意地悪をしてしまった」
「そう。うん。そんなときもあるよ」
「不甲斐ないお兄ちゃんで、ごめんな」
「そんなことない。おれは、兄ちゃんが大好きだよ」
握る手に力をこめる。
小さな手が、自分よりずっと大きく、白い手をぎゅうぎゅうと握り、次第に縋る様に抱き着いた。
「だから、いつかおれと遊んでよ」
「ああ。お前は元気だからな、しっかり治さないと」
ふわりと、白い手が小さな頭を撫でた。
その優しい感触に顔を上げると、微笑みを浮かべた兄が優しい目で見つめていた。
愛しいという感情を少年はまだ理解していなかったが、その心には確かに愛しさが溢れていた。
ランスロットは幼少期より床に伏していた。
生まれた時には心肺停止の状態であわや死産かと思われたが、寸でのところで息を吹き返した。
齢三つの時、肺炎をこじらせて生死の境を彷徨ったこともあった。
決定的だったのは7つのとき。
白血病と診断された。
初期の段階であったため、症状も軽く、治療期間も短く済む。誰もがそう思っていた。
だが、神が紡ぐ運命の糸は、思わぬ方向へ曲がり始めた。
14の時。肺に、腫瘍が見つかった。
治療の甲斐あり寛解へと進んだが、その間にもあちこちに癌が見つかっていった。
12の時に生まれた弟をことさら慈しんでいたランスロットは、病の巣窟となった体を呪い、自死を決めたこともある。
自分のせいで、弟は家族の愛情を受けることが難しい。そう思った。
幼少期から嵩んできた治療費に心苦しさも覚えていた彼は、弟の2歳の誕生日を祝った後に死のうと思っていた。
入院していた病院からの一時帰宅を許され、ささやかな誕生日パーティーを開いた夜に、彼はベッドを抜け出した。
キッチンでコップに水を注ぎ、白い錠剤の詰まった薬瓶を見つめ、唇を開いたその時、足に重さを感じた。
「にーちゃ」
ラリーだった。
小さな弟がベッドを抜け出し、自分の足に抱き着いていたのだった。
「にーちゃ!だっこ!」
「ラリー」
突然抱っこをねだられ、慌ててコップと薬瓶をテーブルに置いて、抱き上げた。
「どうした?」
「ねんね、しないの?」
「
…
もう、ねんねするよ」
「いっしょにねよ」
「駄目だよ。パパとママと寝なさい」
「いっしょがいいー!いっしょじゃなきゃやー!」
「ああ、だめだって、こら、しーっ。みんな寝てるから」
「やだぁぁああああぎゃあああああああああ」
「あああああ
…
」
癇癪を起こしてしまったラリーの背中を優しく叩いてあやしながら、両親が起きださないうちに自分の部屋へと戻った。
ぱたん、とドアを閉めても、ラリーはまだ泣いていた。
「ラリー。ラリー。ほら、お兄ちゃんのお部屋だよ」
「ぎゃああああぁぁ
……
にーちゃ?」
「そう」
「いっしょにねんね!」
「ああ、うん。そうだね。寝ようか」
「うん!」
にこにこと、腕の中の小さな弟が笑う。
その血色のいい柔らかな頬と朗らかな笑顔を見ていると、死ぬことは許されないと思い始めた。
(自分が死んだら、この子はきっと、さっきみたいに泣いてしまうんだろう)
そう思ったら、何だかとても、死ぬことが恐ろしくなった。。
何より、この無垢な子供から、自分という兄を奪うのはとんでもなく惨いことに思えた。
ランスロットはぎゅっとラリーを抱きしめて、ベッドに腰かけた。
柔らかくて温かくて、甘い匂いがする弟。
泣きつかれたのか、すでにうとうとし始めている弟を、そっとベッドに下ろす。
「はい。ねんねだよ」
「
…
んー
……
にーちゃ
…
」
「はいはい」
たし、たし、と小さな手が力なくベッドを叩く。
瞼がほとんどおりて、眠気に対する無駄なあがきをしている弟にクスッと笑った。
弟の隣に入り込み、毛布を掛ける。
すると、弟がもぞもぞと動いてぴったりと抱き着いてきた。
「おや、しゅみ
……
」
「おやすみ。いい夢を」
そっと額に口付けてやると、ふにゃりと笑って、額をランスロットの胸にぐりぐりと押し付けたかと思うと、そのまま眠った。
丸くて小さな頭がなんだかとても愛おしくて、柔らかい金髪と一緒に何度も撫でた。
「いつまで、お前のことを見ていられるだろうか」
小さく呟いて、青い目から涙が零れるのを拭わぬまま、彼もまた穏やかな眠りに落ちた。
ラリーは小さなころから兄が好きだった。
自分とは全く似ていない容姿の、優しくて綺麗なな兄。
好みも正反対であることがほとんどだったが、いくつか共通項もあった。
一つ、本が好きなこと。
一つ、空が好きなこと。
ラリーは活発な子供で、外で友人たちと遊ぶ事が多かったが、本を読んで過ごすこともあった。
図書館で借りてくることもあったが、大抵は兄の蔵書を読ませてもらっていた。
長く病を患っているせいもあり、年代別のベストセラーが、本棚に多く所蔵されていた。
「兄さん」
「おや。呼び方を変えたのか?」
「う、うん。変、かな」
「いいや。成長したなと思って」
「そっか。良かった」
(兄さんて呼んだほうがカッコイイと思ったなんて、やっぱちょっと
……
はずかしい)
彼なりに兄への秘密を抱える年頃になっても、兄の傍で本を読むのが好きだった。
6歳という年齢の割に大人びているのも、兄とその本の影響だった。
「ああ、そうだ。ラリー」
「ん?なに?」
「来週から入院するから。みんなをよろしくね」
あまりに朗らかな笑顔で言うものだから、ラリーは理解するのが一瞬遅れた。
はっと我を取り戻し、慌てて兄に抱き着いた。
「え?!?き、聞いてない!」
「今言ったからね」
「やだやだ!なんで?!」
「
…
検査、だよ」
「ほんとに!?」
「ほんとほんと。だから、くるしっ、待って待って首締まってる」
ぎゅうぎゅうと力いっぱい縋りつくせいで、ランスロットの首がやや締まってしまる。
一瞬離れて、今度は腹に抱き着いた。
顔をうずめたまま、ぽつりと尋ねた。
「すぐ帰ってくる?」
「数週間かかるよ。全身を細かく診てもらうから」
「
……
やだ」
「ラリー」
「さみしいよ」
また、腕に力を込めた。
ランスロットは小さな弟の可愛い後頭部を、優しく優しく撫でた。
「ちゃんと帰ってくるよ。今までだって帰ってきたじゃないか」
「でも
……
」
「大丈夫だから。ね?」
「うん
……
」
「いい子いい子」
「
……
兄さん」
「うん?」
小さな呼びかけに応えると、そろりと上目遣いに見上げてくる。
可愛いな。そう思っていると、もじもじとしながら恐る恐る口を開いた。
「今日から、いっしょに寝ていい?」
「うーん
…
」
「だめ、かな
…
?」
「お母さんに聞いておいで。俺は、別に構わないよ」
「ほんと!?」
目をキラキラと輝かせる。
無垢で純粋な目で見上げる弟をまた撫でてやりながら、ランスロットはにっこりと笑った。
「もちろん。可愛い弟の頼みだからね」
「おれ、母さんにたのんでくる!」
「ああっ、危ないから、走っちゃだめだよ」
急いで母親の元へ向かう弟を見送った後、ランスロットはベッドに深く沈んだ。
小さく咳き込む。
苦く熱い血の味が、口に広がった。
「
……
感染する病気じゃなかったのは、不幸中の幸いだな」
悲しい独り言を呟いて、唇の血を拭った。
別れは、いつでも考えていた。
物心ついた時からベッドの上で微笑んでいた、美しい人。
突然、目の前で血を吐いて倒れたその瞬間ですら、鮮烈なまでに美しかった。
「ああ、らりー
……
ごめ、ん
……
なーすこーる」
「兄さん!!」
「先生!先生!誰か!」
半狂乱になった母親が、廊下に飛び出して叫ぶ。
駆け寄る弟を押しとどめようとしたが、ラリーは構わずに自分よりずっと重い兄を抱き起した。
「兄さん!兄さん!」
「
…
ら、りー
……
ごめんね
……
さよならだ
……
」
「やだっ、やだよ、どうしてそんなこというの
……
!?」
「泣くな
……
ずっと病気と生きてきた
……
わかって、しまうんだよ
……
」
「うそだっ、わかるもんか!神様だって、わかるもんか!」
「らり
……
」
弟に背を向けて、大きく咳き込む。
びしゃっ、と大量の血が零れ落ちて床を赤く染めた。
ただの咳ではないことくらい、小さなラリーでも分かってしまう量の血液だった。
「兄さん!!!」
「ああ
……
らりー、見てごらん
……
」
ランスロットが、その白くて細い指で窓の外を差した。
高く、上を。
「綺麗な、青空だ」
「にい、さん」
「俺は、青空が好きだから
……
最期に見れて、良かった」
「兄さん
……
さいご、じゃないよ
……
これからだって、ずっと
……
」
「
………
」
呼吸が、徐々に弱まっていく。
血に染まった白い肌を美しいと思う反面、青ざめていくのが恐ろしかった。
ランスロットの目はもはや、弟を見ることもできずにいた。
冬の青空の瞳が、徐々に光を失う。
「ぴくしー
……
」
ぽつりと、呟いた。
ラリーはなぜか、その言葉がひどく懐かしく思えた。
涙が零れるほど、懐かしく、優しく、甘く、切ない響き。
「もう、おいていかれないで、すむ、かな」
そう言って、最期に、ランスロットは微笑んだ。
残酷なほど、美しい微笑みだった。
「
……
サイファー!!!」
聞いたこともない名を叫んだラリーの声は、6歳の少年のものではなかった。
だが、その声は、誰にも聞かれることなく、鉄の匂いの中に消えていった。
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