Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
mikagami3
2019-06-23 23:25:25
6100文字
Public
エスコン7 トリガー♀
Clear cache
いつか、あなたと
エイブリルとうちトリガー♀が、戦争後の未来を語り合うお話。壮大な国の行く末ではなく、美味しいごはんやスイーツやファッションを楽しもうと話す女の子二人の話。
「あー。かったりぃ」
「毎度毎度、敵さんもご苦労なこったぜ」
「無駄口を叩くな。さっさと戻れ!」
幾度目かの欺瞞出撃の後だった。
その日も朝から快晴。雲一つなく風も穏やかで、空を飛ぶには絶好の日和だった。
だがそれは、敵も同じこと。
エルジアの爆撃機が、今日も今日とて真面目に、ペンキで描かれただけの滑走路を爆撃しに来た。
それを適当に追い回させ、付け狙わせ、戯れに許可を出して数機落とさせて、鬱憤晴らしもさせた。
444基地の看守兼管制官のバンドッグは、今日も何とか一仕事を終えた安堵感を胸中に収めながら、いつまでもざわついている囚人達に怒声を浴びせていた。
腐っていても、戦闘機パイロットという人種は、空に上がれば血が騒ぐらしい。
任務直後は特に気持ちが昂るらしく、声高に喋る者も、勢い余って小競り合いになることもある。
行動に問題ありとされている人間には注意深く視線を走らせ、バンドッグは営倉に戻る囚人たちの背中を睨んでいた。
そこに、こんな場所には不釣り合いな明るい声が響く。
声域としてはソプラノの、歌えば空に高く響くだろうと思わせる、澄んだ声だ。
「ねぇ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「
………
」
「ねぇったら!聞こえてるのは分かってるのよ!?」
「
……
」
明るく弾むように耳に届く声は、緊迫した様子はない。体調も悪くなさそうだ。
ちらりと横目に表情を観察してから、バンドッグはクリップボードに視線を落として仕事の続きに取り掛かる。
それを悪意と捉えたのか、彼女はきりりと眉を吊り上げて、怒りの表情を浮かべた。
「ちょっとバンドッグ!無視しないでよ」
「うるさい。トリガー、何の用だ?碌でもない用件だったら承知せんぞ」
バンドッグは体ごと向き直り、腕を組んで渋面を作った。
それに対抗して彼女のほうも、腰に手を当てて胸を張り、呼びかけの正当性を訴えるべく声を上げた。
「大事な用件よ。少なくともあたしには」
「ほう?」
渋面が少し和らいだ。
だがそれは隙を見つけた猟犬の顔で、友好的と言うには獰猛な顔だ。
バンドッグ自身の容姿は整っているものの、浮かべる表情の全てがそんな調子だった。
「あたし、今日は独房に行けって言われてないのよ」
「結構じゃないか。三本線のお前には贅沢な話だ」
鼻で笑いながらの皮肉に、トリガーは肩を竦めた。
そんなことはどうでもいい、と言う顔だ。
溜息を吐いて、もう一度バンドッグの目を見上げる。そして今度こそ、本題をその顔に投げつけた。
「で。あたしはどこで寝ればいいの?」
「
………
は?」
それは、彼女がこの基地で見た、バンドッグの一番間抜けな顔だった。
「というわけで、今日から世話になるわね。エイブリル」
「まぁ、別にいいよ」
身一つで、トリガーはエイブリルの営倉に間借りすることになった。
管理が杜撰な444基地でも、さすがに男女を分ける分別はあったらしい。
その杜撰な管理ゆえにバンドッグの眉間の山脈が常に険しいのだが。
鉄格子の外に、彼女をここまで連れてきた看守がいる。手錠を仕舞いながら、警棒で肩を叩いた。
「毛布は後で持ってきてやる。もう少し待ってろ」
「はいはーい」
「はいは一回だ」
「はーい」
「
…
まぁいいか。ミード。そいつが妙なことしない様に見張っててくれ」
「見ることしかできねえぞ」
「念のためだ。どうせ、そいつは戦闘機が無きゃ只の女だ」
嘲る様に鼻で笑ってから、看守はわざと足音を高く鳴らしながら戻っていった。
その背中を、トリガーが射殺すような目で見ているとは知らずに。
鉄扉が閉じた瞬間に、鉄格子を掴みながら唸る様に呟いた。
「あいつ絶対殴る」
「やめとけよトリガー。前に看守殴った後、基地の草むしり一人でやらされたの忘れたのか?」
「あれはあれで、楽しかったよ?」
「変な奴
…
」
エイブリルのほうへと向き直った時には、にこにことした笑顔に変わって上機嫌に見える。
だが、晴れた冬空の目には、まだ剣呑な光が宿っている。
鉄格子から離れたトリガーは、それきり看守のことは忘れた振りをして、壁に凭れながら軽く手を扇いだ。
「狭くしてごめんね。まぁ、すぐに独房行きでしょ。ちょっと我慢してね」
「静かにしてるつもりはないんだな?」
「あら、あたしは大人しいつもりだけど?静かかどうかは
…
まぁ。あたし、お喋りだから」
エイブリルが手ずから短くした金髪を揺らして、ふふっ、と揶揄うように笑う。
揺れるたびに、切れかけの蛍光灯の明かりを反射してキラキラと輝く。
金貨より綺麗だ。エイブリルは素直にその金色を胸中で称えた。
「あの司令、何やかんや理由つけて独房に入れようとするのよね」
「なんだそれ」
「さぁ?あそこに入れれば言うこと聞くと思ってるんじゃない?」
「バカかよ」
「頭は悪くないはずよ。空軍学校出てるんだし。賢くはないと思うけど」
口調は軽いが、トリガーは何かを思い出したのか、苦虫を嚙み潰したような顔をした。
あまり、良い思い出ではない様だった。
エイブリルとて、ここの看守にも司令官にも優しくされた覚えはないが、三本線をつけられた彼女は相当だろうと思い至った。
それでも手柄にしか興味がない司令官が、彼女に何かすることも考えにくかったが。
「お前も結構ずけずけ言うじゃないか」
「ひん剥かれそうになった上に、初日から独房に入れられたら、多少嫌いにもなるわよ」
「ひん剥かれそうになった!?」
エイブリルは驚きを隠せなかった。どうしようもなく無能だが、囚人に手を出す趣味は無いと思っていたからだ。
エイブリルの驚きに対して、トリガーは大きく首を振った。
「別に、レイプされそうになったわけじゃないの。あたしが性別を偽ってると思ったらしいのよね。名前が名前だし」
「それにしたって、お前の姿を見れば確認しなくたっていいだろ。骨格も、顔だって女だ」
「『女みたいな男も男みたいな女もごまんといる。この目で見るまでは書類も紙屑だ』だって」
「
……
馬鹿か
……
」
「あんまり言わないでエイブリル。あたしたちは、そんな馬鹿の気まぐれで死ぬこともあり得るんだから
…
」
額を片手で覆って、トリガーはがっくりと肩を落としながら首を左右に振った。
あんまりにも力なくがっくりとうなだれるものだから、エイブリルも気の毒になってしまった。
「すでに身体検査で一度裸にされてる上に、公衆の面前でまた裸にされそうになれば嫌いにもなるよ」
「ああ、そうだな。納得したよ」
真剣な顔でエイブリルが頷くのを見て、気まずそうに前髪を弄り出す。
しばらく、沈黙が流れる。気まずさに耐えきれず次の話題を探そうとしたとき、油の切れた蝶番の音がした。
こつこつと革靴の足音が近づいてきて、鉄格子の向こうで止まる。
「ほら、毛布だ。受け取れ」
「ありがとう」
「
……
ああ」
自然と笑顔と礼を返したトリガーに、看守は面食らった。目を軽く見開いて、首を傾げる。
囚人が返してくる反応は、無視か舌打ちがほとんどだ。
毒気を抜かれたのか、それ以上は何も言わずに、看守は踵を返して出ていった。
その看守の反応に、トリガーのほうが小首を傾げた。
「なんだろ?」
「さあ?」
興味なさげにエイブリルも肩を竦めて、ベッドに仰向けに寝そべった。
トリガーは受け取った毛布を、エイブリルの向かいのベッドに置いて、その横に腰かけた。
もともとは複数人で使うはずの部屋であるので、エイブリル一人に対してベッドが余っていた。
トリガーはまた、指に髪を巻き付けて弄りながら、溜息を吐いた
「はぁ
…
。私物、捨てられちゃったかなぁ。せめて実家に送り返してくれるといいんだけど」
「私物?ああ、此処に来る前のか。寮にでも入ってたのか?」
「新人だしね。独身寮にいたの。こつこつ買い集めた小物とかを眺めるのが日課だったのに」
「ふーん?」
「家族は受け取り拒否はしないと思うから、実家に送ってくれてるといいなぁ
…
」
トリガーはベッドに腰かけたまま大きく右足を振り上げて、天井を蹴り上げる真似をした。
キレも速度も申し分なく、これで蹴られればたまったものではないなとエイブリルは思った。
パイロットとしてだけではなく、白兵戦も得意そうだ。
当のトリガーは、今はブーツも脱ぎ捨ててベッドに寝そべってエイブリルのほうへ顔を向けていた。
「ねぇエイブリル。好きなお店とかある?」
「何だよ急に」
「暗い話ばかりじゃ滅入っちゃうもの。あたしはあるよ、好きな場所もお店も」
「まぁ
…
無くはない、よ。じーちゃんに連れて行って貰った喫茶店とか」
「いいわね!あたしもおじいちゃんが良く色んな所に連れてってくれた。遊園地もキャンプも。
母さんに内緒で、ケーキ屋さんにも」
「へぇ?」
「優しい祖父よ。優しくて強くて、格好良くて。自慢の祖父」
その自慢の祖父を思い出しているのか、少しだけ遠い目をして笑顔を零した。
エイブリルも祖父を思い出していた。自分が戦闘機を組み、ダークブルーの空を目指すきっかけになった人物を。
祖父と、その仲間たちを。
「家から、車で30分くらい走ったところにあるケーキ屋さんが一番のお気に入り。ちょっとした喫茶店にもなってるの。
そこで、お茶の勉強をしたって言うチーフさんが淹れたお茶と、ベイクドチーズケーキを食べるのが好き。
テストでいい点を取ったときとか、何か良いことをしたご褒美に連れてってくれた」
「買ったのをその場で食えるのか?」
「それもできるし、別注文もできるの。お土産で買った後に、自分だけのを食べたり。でもたぶん、もう行けない」
「何でさ」
「あたしは大罪人にされてしまったもの。私がお店に行ったら、迷惑かけるわ」
「
……
」
「家族は信じてくれても、その他大勢は、公的な発表を信じるでしょ。私が何を言おうとも、罪人の戯言よ」
笑って、さらには欠伸までするものだから、エイブリルはむっとしてしまった。
そんなことを、そんな風に、諦めさせたくなかった。
彼女の中ではもう、トリガーは《ハーリング殺し》ではなかった。
「そんなこと言うなよ」
「エイブリル?」
「あたしが、ついてってやるから。行こう。そのケーキ屋」
「でも
……
」
「ちなみに、あたしはアップルパイが好きだ」
「
…
もちろん。そこはアップルパイも絶品よ」
にんまりと笑いあう。
そこからは、二人で此処から出られたらどうするか、という話になった。
「アップルパイもね、いくつかバリエーションがあるのよ。
パイ生地がしっとりしてリンゴがごろごろしてるのと、パイ生地がサクサクしててリンゴがとろとろしてるのと。
カスタードの味も微妙に違うし、トッピングも違うし。間違いなくどっちも美味しいからおすすめ!」
「あたしのおすすめはパンケーキだ。昔ながらのシンプルなやつだけど、焼き加減が最高に良いぜ」
「メープル?はちみつ?」
「両方。ディスペンサーでどん!と来る。かけ放題さ」
自慢げに語れば、トリガーは目を輝かせて両手を打った。
「やった!パンケーキにはどっちもたっぷりかけたいんだけど、足りなくなっちゃうときあるから」
「甘党なんだな」
「甘いの大好き!ただ、やっぱりそういうのってカロリーが
…
ね?」
「まぁな。そういうもんだって割り切って、食べた分動くしかねえな」
「だから、学生の時は頑張ってたんだよ?おじいちゃんと一緒にジョギングして、カロリー計算して。
軍人としては筋肉もつけなくちゃいけなかったから、栄養素の計算もしてたし」
「じいさんとジョギングじゃ、遅いんじゃないか?」
「我が家で一番体力筋力戦闘力があるのは、おじいちゃんなの」
「何もんだお前のじいさん」
「秘密」
また、得意の悪戯な表情で笑う。
普段は無邪気な表情が多いのに、ときどきこうやって妖艶な笑い方をする。
それはとても魅惑的で、神秘的にも見えた。
同性ながら目を奪われる笑みだった。
だが次の瞬間には、唇を尖らせて、拗ねたような表情になった。
「軍に入ってからも体型維持頑張ってたのにさ、ここのご飯少なすぎて痩せすぎちゃった
…
。
筋肉も減った気がするし、おっぱいもしぼんじゃった気がするのよね
……
」
「そうか? まぁお前、飯抜きも多いしな」
「美味しいあったかいご飯食べたい! 此処から出たら、おすすめのレストラン教えてあげるね」
「あたしは下町の食堂みたいな場所が好きなんだけど」
「そういうにぎやかで、美味しい物食べれるとこも好きよ。でもインテリアに拘った空間も楽しいよ」
「そういうもんか?」
「そうそう。カジュアルなお店選ぶから行こうよ」
「
……
ああ。お前と一緒なら」
「ランチして、服もお揃い買いに行ったり。ちょうど肌の色似てるからお揃いコーデも違和感ないと思うの」
「
…
あんまり、女っぽい服は苦手だ」
「パンツスタイルでも可愛くできるよ!センスのいい店員さんがいるお店知ってるし!」
「
………
」
「なぁに?どうしたの?」
「いや」
じっと見つめてきているのに気づいたトリガーが、首を傾げる。
エイブリルは軽くかぶりを振り、少しだけ少しだけ言葉にするのを躊躇い、考えた。
だが、きっと隠し事したところでお見通しなのだろう。そう思って口にすることにした。
「お前、本当に出られると思うか?」
「良くて終身刑かな、とは思うけど。意外と恩赦が出るかも?」
「図太いなぁお前」
「戦争だからね。前線に出て、戦えば飯が食える。そういうものでしょ」
「
……
」
「今更、綺麗ごとは言わないわ。どちらが勝つにしても、永遠に戦争なんてやってられない。
それまでにたくさん殺して、せいぜい貢献してやるわ」
「
……
こんな、国に?」
「今のところ、除籍されてないからね。この国の軍人である以上、職務は全うする。その先は知らない」
「その、先?」
「そう。戦争が終わったその先。恩赦が出てここから出て、エイブリルと遊んだその後」
「どうするんだ?」
「軍なんてすっぱり辞めるわ。で、世界旅行でもしようかな~。おじいちゃんのツテを頼りながら、東へ西へ。世界中!」
両手を大きく広げて、輝くような笑顔でエイブリルに語った未来は、まったく漠然としていた。
軍人のくせに随分楽観的だな、と少し呆れもするが、釣られてエイブリルも笑った。
トリガーなら、やってしまいそうな気がしたから。
「迷惑じゃなかったら、手紙出すね」
「楽しみにしてる。忘れるなよ?」
「もちろん!」
そうして、夜は更けていった。
ぼろい毛布にくるまって、まだまだ、たくさんの、小さな幸せを語り合いながら。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内