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mikagami3
2018-09-20 22:49:33
3065文字
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エスコン7 番引
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異なる法が統べる檻の中で
ACE7バンドッグ×トリガーです。BLです。公式情報がほとんどない状態の今だから書ける、全編妄想オンリーの小話です。控えめながらも暴力表現あります。
ぴとん
ぴとん
ぴとん
水滴の音だと気づくのに、瞬き5回分を必要とした。
暗闇の中で、水滴が絶え間なく落ちている。一か所ではなく、数か所。
この分では隙間風も酷そうなものだが、空気は沈み、澱んでいる。
深呼吸の音がする。
一筋の光も刺さぬ暗闇の中に、男が一人。
すでに幾日も此処にいる。
この場所が男の住居というわけではない。だが、そう言われても仕方ないほど何度も此処にいる。
いや、囚われている。
眼を閉じても開いても同じ色しか見えぬこの場所で、男は瞑目している。
男はこの場所に囚われてから、ほとんど眠って過ごしている。
何度目か分からぬ虜囚としての時間を、無為に過ごすほど慣れてしまった。
水滴の音で一瞬目を覚ました後に、また眠ろうと目を瞑り、ついに寝息を立てる。
囚われの身とは思えぬほど、静かで安らかな寝息だ。
──ガチャン
錠の落ちる音がした。
錆びた鉄が擦れる、扉の悲鳴のような音とともに光が突き刺す。
無機質な蛍光灯の明かりを背に、細身の人影が、久しぶりに光を浴びる部屋の中を睥睨した。
その中央に椅子がある。
今にもひしゃげ、折れてしまいそうな椅子に、男が拘束されている。
両手を背もたれの後ろに、黒革の手枷で繋がれ、両足はそれぞれ椅子の足に足枷で留められている。
囚われの男はゆっくりを目を開く。
とはいえ、男には扉を開けた人影は見えない。
彼の目は革のベルトで目隠しされており、頬骨とベルトの僅かな隙間から光が見える程度だ。
扉が開いたということは、誰かがいるのだろう。そういう推察だけで、男は相手の出方を窺った。
コツ、コツ、コツ、と足音が響く。
軍靴の靴底が、コンクリートの床を叩く音。
男も同じものを履いている。
その神経質な歩き方から、男は、いつもと同じ人物が此処に来たことを察した。
「時間だ。トリガー」
男は答えない。
もう一人の男は、その姿に口を歪める。
狂気的な笑みだ。
「よく似合ってるじゃないか。その拘束具も、すっかり馴染んだようだな」
「
……
」
トリガー、と呼ばれた男はじっとしている。
一歩、近づく。
至近距離で、男はトリガーを見下ろす。
トリガーは身じろぎ一つしない。
静かに、ただただ静かにそこに佇んでいる。
「視界を奪われ言葉を奪われ、聴覚も意味を為さないこの場所に来るのは何度目だ? もう数えもしないか?
それとも愉しんでいるのか?」
「
………
」
(何を言っているんだ?)
トリガーは初めてそこで、明確な疑問を抱いた。
これらは懲罰だと言ったのは、目の前にいる(であろう)この男だ。
懲罰というのは苦痛を与えられなければ意味がない。楽しいなど、まったく逆ではないか。
トリガーは慣れはしたが、楽しいなどとは一度も思ったことがない。
無為だ。そう思っていた。
(早く、首を刎ねればいい)
トリガーは、己の罪を労役などで贖えるとは最初から思っていない。
命で償えるとも思っていないが、彼が差し出せるのはそれぐらいだった。
男は、何も反応を返さないトリガーを冷ややかに見下ろしている。
突然、右手でトリガーの顔を掴む。
鼻から下、黒い革製の猿轡を嵌められた口元を、力の限り締め上げた。
「
……
!」
「やっと起きたか三本線。お前の罪の大きさをよく理解することだ。この程度で赦されると思うなよ」
(分かっている)
トリガーは反射的に身を竦めたが、それ以上の反抗はしない。
ギシギシと軋む音がする。
男の暴力に不平を漏らすように、ぼろい木製の椅子が軋んでいる。
不快そうに顔を歪めた男は、右手をトリガーの口から離して椅子の背もたれをつかむと、一気に引き倒した。
重力と暴力に逆らうことなく、トリガーは床に倒れる。自重で勢いがついたせいで顔面を強打する。
痛みと共に出血を覚悟したが、どうやらその心配はないようで安堵する。
肩に痛みが走る。
「呻き声一つ上げないか。頑丈な男だ」
男が、トリガーの肩を踏みつけた。
砕かんばかりに体重をかけ、力を入れて踏みつけているが、トリガーの体格では本当に砕くには至らない。
今はこんな扱いを受けているが、トリガーも国防の任に就いていた軍人なのだ。
鍛えられた肩を、足首を左右に捻って靴底で抉りながら、男は笑っていた。
鋭利な目をさらに細め、口元に狂気が見え隠れする。
悦んでいるのは、この男のほうだった。
肩を踏みつけたまま、男が屈みこむ。
トリガーの後頭部にある二つの留め具に指をかけ、丁寧に丁寧に、ゆっくりと解錠した。
そうしてようやく、トリガーの目と口の拘束が解けた。
晴れた冬空の眼が、僅かに歪んでいる。
その時には男の笑みは消え失せ、冷酷な表情でトリガーを覗き込んだ。
「痛覚は生きているようだな。結構」
「
……
健康状態は問題ないはずだ」
「開口一番それか。つくづく面白味のない男だなお前は」
そのまま、男が両手の拘束も解く。無機質な錠の音がまた響いた。
トリガーの腕が自由になると同時に、肩をえぐっていた足を引く。
トリガーが起き上がろうとしたその時、目の前に鍵が投げ捨てられた。
「足は貴様が解け。腕が自由ならできるだろう?」
「ああ」
頷く。
鍵を掴んで、軽く反動をつけながら、腕立て伏せの要領で起き上がる。
バランスをとって椅子を正しい位置に立たせて、最後の足枷をトリガー自身の手で解錠した。
無遠慮に眼前に突き出された男の手に、トリガーは文句も言わず鍵を乗せた。
「明日は出撃任務がある。独房で待機していろ」
「了解」
「トリガー」
「何か?」
「なぜ交戦した。なぜ許可もなく発砲した」
「
………
」
トリガーがこの【懲罰房】に入れられたのは、それが理由だった。
哨戒飛行任務。そのはずだった。ただ飛んでいればいい。燃料もぎりぎりの状態。
そこに乱入してきた所属不明機を、トリガーは追い立てた。
僚機が混乱している中、ただ一機で複雑な機動をするその機体を追いかけた。
まるで猟犬のように。
トリガーはしばし考えて、静かに唇を開いた。
「分からない。体が、勝手に動いていた」
「
……
何だと?」
男が薄気味悪いものでも見るように眉根を寄せて目を開く。
トリガーがこのような、不明瞭な答え方をしたのは初めてだった。
だが、どんなに怪訝に思われようともトリガーにも分からなかった。
それは軍人としての習慣か。
体に流れる血の騒めきか。
空を求める、戦闘機乗りとしての性か。
いずれにせよ、今この場で分かるものではなかった。
腕を摩りながら、トリガーが懲罰房を出ようと歩く。
一足先に廊下へと出ていた男は、突き刺すような視線で吐き捨てた。
「今後、許可なく戦闘行為をすることは許さん」
「
……
了解した」
「貴様の死に場所を決めるのは俺だ。最も有益な場所で、その命を使ってやる」
「了解。その時は速やかに命令を頼む、バンドッグ」
穏やかな表情だった。
目尻を下げ、口元には淡い微笑みすら浮かべて、酷薄な言葉を受け入れる。
その表情にバンドッグが呆気に取られてるうちに、トリガーは踵を返した。
自分が本来囚われるはずの独房で待機するために。
地下にあるこの場所から、階段を上がって離れていくトリガーの足音を聞きながらバンドッグは独り言ちる。
「何故、そんな顔ができる
……
?」
湿った廊下に、その言葉がこだまして消えた
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