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mikagami3
2018-09-19 00:00:54
6762文字
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エスコンZERO マーセナリー(♀)
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空色の風が届いた
スカイアイハッピーバースデー!という気持ちだけで書いたスカメビ(BL)です。
スカイアイ・メビウス・サイファー(マーセナリー♀)と郵便局員(仮)がメインの小話です。
時間軸はメビウスが退役した後、オペレーションカティーナの前です。
どこかの、ソラのカケラ
それは突然、彼の元に届けられた。
「すいません。《スカイアイ》という御仁はアンタでよろしいんで?」
その風体は、制服を着た只の士官に見えた。
特筆すべきところもない、ごくごく平凡な顔立ちと声。
だが、その喋り口調は実に不自然だ。
男は、話しかけた相手の返事を待たずに朗々と告げた。
「とある女性の依頼でコチラをお届けに参上しました。リボンの切れ端を空の目へ、とのことで」
右手の包みを上下に揺らしながら男が言う。
リボンの切れ端、という言葉に目が見開いた。
表情を悟られまいとしていた金髪の偉丈夫の、隠せなかった驚愕の顔を見て、男はにやりと笑う。
「俺も事情があって長居ができやせん。可及的速やかに受け取りのサインをいただきたく存じます」
「貴官は──」
「申し訳ありませんが企業秘密です。一応こいつぁ、自前ですがね。ご心配なく、悪用する気はござんせん」
彼の制服を見て、金髪の男──スカイアイは【貴官】と呼んだが、やはり正規の軍人ではないらしい。
凡庸な顔をした男は、その制服を示すように胸に左手を置いて答えたが、どこか煙に巻かれたような印象だ。
しかし、此処この時に至るまで一切の騒ぎを起こさず、まして今も静かな会話を続けている。
スカイアイはゆっくりと頷いた。
「貴殿を信じよう。わざわざ届けてくれてありがとう」
「いえ、こちらも仕事ですんで。何より依頼を反故にしたとあっちゃあ、鬼に食われちまう」
「鬼?」
「こっちの話でサァ」
ここに、と示された伝票の空欄に、スカイアイは胸ポケットから取り出したペンで署名した。
一瞬、紙にペン先が触れる直前に空色の目が揺れたが、それもすぐに定まった。
きっちりと枠内に収められた流麗な字に、男は満足げに頷いた。
「あんた、一瞬迷ったね?」
「
……
そんなに分かりやすかったかな?」
「こっちもまぁ。それなりに場数は踏んでまさぁ。だが、ここの名前は何でも良かったんですぜ?
偽名を書こうがコールサインを書こうが本名を書こうが。どれでも受領の証拠になったはずだ。
あの坊主、空以外でも目がいいらしい」
にんまり、男が笑う。悪巧み、というよりはいたずらを仕掛けた子供のような顔だ。面白がっているらしい。
スカイアイは、男が言う《あの坊主》の心当たりは一人しかいない。
それが空に関わっている男なら、なおのことだ。
風と共に笑顔で去った、青い目の英雄。
渡された紙包みを撫でながら、スカイアイは微笑んだ。
男は軍帽を目深に被り直し、スカイアイへと敬礼した。
先ほどまでの砕けた口調とは打って変わって、教本の挿絵のような綺麗な姿勢だ。
「では、失礼いたします。お元気で、中佐」
「待ってくれ、君の名前は?」
「名乗るものじゃねえんですよ。名無しのポストマンです」
「そうか
……
君はこの後、彼の元へ?」
「はい。この受領書を渡さにゃならんので。正確には坊主の師匠に、ですがね」
「ほう?」
「おっかない女で、金勘定もシビアだ。もしココであの女を雇うなら、報酬には気をつけたほうがいいですよ」
「肝に銘じよう」
「それじゃあ、俺はこれで。その荷物と、俺のことはくれぐれも内密にお願いします」
そう言われて、手の中の包みに目を落とした。
何が入っているのか、そう問おうと視線を上げた時には、すでに男の姿は消えていた。
あまりに見事なものだから、まるで狐に化かされたような面持ちであった。
(あれが噂の、東方に伝わるというNINJAか
…
)
大昔に親から聞いた冗談を、思わず信じかけるほどだ。
手の中の包みは軽いのに、その存在はその後一日中、スカイアイの心を捉えて離さなかった。
夜。
自室に戻った彼は、すっかり寛いだ様子で包みを眺めていた。
食事も入浴も済ませ、あとは寝るだけという状態でもって紙包みと対峙する。
まず外装は何の変哲もない茶色の紙。宛名も差出人もない。
昼間の自称ポストマンの言葉を信用するならば、それら全てが警戒ゆえの措置だ。
スカイアイはゆっくりと包みを開いた。
無理に破かず、慎重に、張り合わされた包みを剥がして、解いていく。
現れたのは、白い箱。
そして、青いリボン。
水色と紺色の、メビウスの輪を象ったリボンだ。
箱自体は鍵も、封もされていない。ただ蓋がかぶせられているだけ。
それだけあのポストマンが信頼に足る人物であったのか、包装した人物がずぼらだったのかは定かではない。
だが、そのリボンだけで、スカイアイは完全なる確信に至った。
差出人は──少なくともこの箱を彼に送ろうと思ったのは──彼が望んでやまない最愛のパイロット。
メビウス1。
流行る気持ちを抑えて、慎重に蓋を開ける。意外にも気密性が高く、少々骨が折れた。
そうして持ち上げられた蓋の下には、ディスクが一枚。
何の飾り気も、タグもない。おそらくはDVD-ROMだ。
スカイアイは、ほっと息を吐いて肩の力を抜いた。
だが、すぐに気を取り直してDVD-ROMを取り出す。
メビウスがわざわざDVD-ROMに何かを入れて送ってきたのだ。
たとえそれが他愛のない何かであっても、スカイアイは真摯に受け止める覚悟でいた。
デスクのPCに挿入すると、問題なく読み込みを始めた。
どうやら映像データらしい。アプリが立ち上がって、自動的に動画が再生される。
『ハーイ、スカイアイ。この声は届いているかしら?』
画面に映ったのは、意外にもメビウスではなかった。
彼の従姉妹で、現在は師匠でもある女性だ。
スカイアイは彼女の名前も経歴も知らないが、旅立つ彼の導き手として現れたのを今でも覚えている。
眩い金髪と、煌めく冬空の瞳に、鮮やかな赤い唇。
猛獣の蛮勇と姫君の気品が異常なほどに調和する、苛烈な美女。
朗らかな笑顔で、気さくに手を振っている。
『私は音声テスト役よ。この声が聞こえないなら、データが破損しているからすぐに処分して頂戴。
聞こえるならそのまま再生を続けて。すぐに貴方のリボン付きに代わるから』
『ディー!』
弾けるように声が飛ぶ。
間違いない。
間違えるはずがない。
何度も聞いた、あの、幼さの残る、若い新芽のような声。
『じゃあ、あとは任せたわよ』
『もう
……
』
彼女が、金の髪を揺らして画面から外れる。
そして
………
『やあ、スカイアイ。久しぶり』
彼が、そこにいた。
バーカウンターを背にして椅子に座り、照れ臭そうに、ほんのり頬を染めて微笑んでいる。
『突然ごめんね。でも、手紙は検閲されるかもしれないし、言葉より声を送りたかったんだ』
微笑む彼は、最後に会ったその日と何も変わらないように見える。
艶やかな黒髪。先ほどの彼女と同じ、晴れた冬空のような目。象牙色の肌。成人男性としては少し小柄な体躯。
少し観察して、以前より引き締まっただろうか?とスカイアイは思った。
そして指先が、少し荒れている。
それは、彼女の下での修行の厳しさを物語るようだった。
『人を忘れるときって、声を先に忘れるんだって。だから、何とかして声だけでも届けたかったんだ。
そうしたらディーが
……
あ、従姉妹のダイアナのことだけど、ビデオレターにすれば?って言うから。
こうやってカメラに向かって、貴方に対してしゃべるのはなんか照れ臭いけど、送ることにしたんだ』
そこまで言い終えると、どうしたことか両手で顔を覆ってしまった。
ダイアナが声を上げる。画面外で見守っているらしい。
『ちょっと、ノリス? どうしたの?』
『ごめん。ちょっと、恥ずかしくて。大丈夫。すぐ仕切り直すから』
『これ編集しないからね? ノーカット保存版よ』
『ひどい!』
『向こうだって許してくれるわよ』
明るい笑い声が響く。
飽くまで他人事の、だからこそ気負いなく手伝っているダイアナの言葉に後押しされ、彼が両手を下げる。
あどけない顔の、はにかむ表情が現れる。
しばらく視線を泳がせていたが、意を決してカメラへと向き直る。
視線が絡み合っているような錯覚を、スカイアイは覚えた。
(そうか、ノリス。それが、君の名前だったな)
改めて噛み締めるほどに、スカイアイにとってこの青年は《メビウス1》だった。
《メビウス1》は、彼以外にいない。彼だけのコールサイン。
彼がいなくなってからは、口に出すこともなかった。
リボンは彼の手を離れ、遠く見知らぬ空の下にいる。
『えーっと。何から話そうかな。ディーは自由に話せって言うんだけどね。いざとなると、うん。困るな。
あれから僕とディーはあちこち転々とした。半年くらいしか経ってないのに、色んな所へ行ったよ。
大陸も超えたし、パイロット以外の仕事もした。結構楽しんでる。
ディーはね、怖いよ。でも強い。すごく強い。少しは近づけてるといいんだけど』
『まだまだね』
『やっぱりね。そう言われると思ったよ。困ったことと言えば、そうだな
……
意思疎通が難しいことかな。
ディーに言わせれば、僕はとても変わってるらしい。考え方も言葉も違うから大変だよ。
それでも僕は周りに恵まれてるみたいで、笑って許してもらえてる。今はそこそこ慣れてきたかな。
いくつか違う国の言葉も覚えたよ。覚え始めると、楽しくてどんどん覚えたくなる。使いたくなる。
飛ぶ時も、教わった動き、見て覚えた機動を自分のものにしたくて心臓が逸るんだ。
ああ、でもしんどくはないよ。辛いんだけど、苦しいんだけど、それもすぐどこかに行くんだ。
風に乗って、まるで最初からなかったみたいに飛んでいく』
画面の中の彼は、あれもこれもと欲張る子供みたいに、笑顔で語り続けていく。
ときどき相槌を入れる女性の声も、どこか誇らしげで楽しげだ。
師として、成長を確かに感じているのだ。
北の空から始まった戦争は、一人の平凡な若者を変えた。
数多の戦争で屍の山を積み上げてきたダイアナの、凄惨なまでに厳しい指導に耐え得るほどに。
まだメビウスはしゃべり続けていて、スカイアイはその声にじっと耳を傾けていた。
あまり饒舌ではなかった彼が、こうも矢継ぎ早に話すのは珍しい。
新鮮な驚きと、深い愛おしさに、スカイアイは胸が満たされていった。
同時に、後ろめたさも感じている。
スカイアイは上層部からある種の圧力を受けていた。
今まではのらりくらりと躱していた。それはひとえにメビウスの所在が知れなかったからだ。
脳裏をよぎる不安をどうにか忘れようと、スカイアイはメビウスの瞳をじっと見つめた。
柔らかな光の、晴れた冬空の青だ。
『スカイアイにも見せたいな。ディーが飛んでるところ。離陸からすごいよ。きっと呆気にとられる。
あ、ついでに言うと管制なんて碌に聞かないからね』
『そんなことないわよ』
『嘘だもん。この間の管制官、カンカンに怒ってたじゃないか』
『いいのよー、長い付き合いだから』
『そう言うものかな』
ふと、口を噤む。
何かを言いあぐねているように、唇がわずかに動いている。
うにうにとうごめいたかと思うと、薄く開き、また閉じる。
真っ直ぐにカメラを見ていた目は伏せられ、膝の上の手がぐっと握られる。
さっきまであれほど楽しげに話していたメビウスの沈んだ表情に、スカイアイも身を乗り出した。
「どうした、メビウス」
『ノリス?』
『ああ、ごめん。少し、寂しくなったんだ』
呟いたスカイアイの声とほぼ同時に、ダイアナも呼び掛けた。
まるで二人の声に応えるように、メビウスは顔を上げる。
微笑みを取り戻してはいたが、どこか寂し気な表情だった。
『思い出していたんだ。貴方の声を。大きな背中を。抱きしめてくれた腕を。
僕があの空を飛べたのは、貴方がいたからだった。貴方の声が導いてくれたからだ。
それを思い出したら、ひどく、寂しくなってしまった。
まいったな。こんなことを言うつもりじゃなかったのに。
ごめんね。スカイアイ。楽しいことだけ話すつもりだったんだ。失敗してるけど』
へへ、と笑いながら頬をかく。照れ隠しか、また別の感情を隠しているのか。
スカイアイはもどかしく感じていた。
今、自分とモニターの距離のように、メビウスの傍にいたなら。
今すぐ抱きしめてやったのに、と。
「寂しいのは君だけではないよ、メビウス」
あの空を共に飛んだ戦士たち、ヴァイパー隊やオメガ隊、レイピア隊も、口には出さないがどこか寂しげだ。
それはもちろん、彼らを導く空の目も。
職務に忠実なスカイアイだからこそ、レーダーで見る機影にメビウスがいないことを突き付けられる。
全てのデータが、メビウスがいないことを告げる。
目に見えない小さな氷柱が、心臓に刺さり続けていた。
画面の向こうで、メビウスは深呼吸している。
図らずも湿っぽくなってしまったこの雰囲気を変えようとしているようだ。
大げさなまでに深呼吸をして、再びカメラを見つめた時には元に戻っていた。
寂しさを押し込めて、スカイアイにいつも見せていたあの笑顔だ。
努めて明るく、弾むように語り掛ける。
『スカイアイ。また貴方と、空を飛びたいな』
それは遠い夢を語る様に、甘く響いた。
知らず、スカイアイは胸に手を置いていた。いや、掻き毟るように握られていく。
切実なまでに愛おしさが迫り、苦しさを覚えていた。
『僕はまたしばらく別の国に行くけど、今生の別れじゃない、ってことだけは伝えておくよ。
だって会いたいもの。僕は貴方に会いたい。でもそれは今じゃない。
もっとたくさんの国を、人を、空を見て、たくさんお土産を持って会いに行くよ。約束する。
だから今年は、これで許してほしいな』
最後の最後に伝えたいことを言うために、彼は大きく息を吸い込んだ。
わざわざこうして撮影をしているのも。
ダイアナのツテを頼って、誰にも知られずに手渡してもらったのも。
ただ、スカイアイだけに伝えたいことがあったから。
『誕生日おめでとう、スカイアイ。貴方が僕にくれた以上の祝福が、貴方に降り注ぎますように』
ゆっくり、噛み締める。
それは言葉を届けたメビウスもそうであったし、受け取ったスカイアイもそうであった。
愛おしい声が、遠い異国の地で、自分の生まれた日を祝ってくれた。
あまりの歓喜にスカイアイは身震いし、それを押さえるために必死に自分を抱きしめた。
画面の向こうのメビウスは、緊張から解放されたようで、ふにゃりと笑っている。
『えへへ。よかった、ちゃんと言えた。ディーが編集しないとか言うから緊張した!
終戦記念日以上のものは用意できなかったけど、お祝いだけはしたかったんだ。
また貴方の傍でお祝いできたらいいな。じゃあ、また。会う日まで』
──動画はそこで終了した。
スカイアイは深く息を吐いて、椅子に凭れかかった。
いつの間にか、息を止めていたらしい。肺が軋むような心地だった。
そのまま天を仰ぎ、瞑目する。
愛しい愛しいと、何度も想いを募らせていたというのに、この手は届かないのだ。
嗚呼、この想いの一欠けらでも君に届けられたら!
スカイアイは手を虚空に伸ばさずにはいられなかった。
「会いたいのは私も同じだよ、メビウス。出来れば平和な空の下で」
それが出来ないことは、スカイアイ自身が分かっていた。
極秘情報ではあるが、エルジアが不穏な動きをしているらしい。
もし本当に彼の国が動くとなれば、上層部はメビウスの呼び戻しにかかるはずだ。
彼は、この国の英雄だから。
スカイアイはそれに対し、発言権を持たない。
交渉の材料にされることは、予想できる。
スカイアイにできるのは、ただ、祈るのみ。
彼が自由な空を奪われない様に。
虚空に伸ばしていた手を、ディスクが入っていた箱へと下ろす。
そっと、青いリボンを撫でる。
彼のリボンは、今も空の目と繋がっている。
それが露呈してはならない。メビウスたちも気づいているはずだ。
だからこんな手のかかることをしたのだ。
そんな手のかかることをしてまで、誕生日を祝おうとしたのだ。
「勝利も終戦記念日も、そして君の言葉も、最高の贈り物だ。メビウス」
そっと、箱を持ち上げたスカイアイは、そのままリボンに口付けた。
わざわざパーソナルマークを模して作られたリボン。
それは彼がメビウス1であることを示していて、メビウス1であったことを誇りに思っている証。
感謝と愛をこめて、スカイアイは口付けた。
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