mikagami3
2018-04-23 11:39:09
5394文字
Public エスコンZERO マーセナリー(♀)
 

太陽の魔法使いと月の魔法使い4

ACECOMBAT ZERO二次創作・ファンタジーパロ第4話。ラリーが自分の正体を明かす話。
これで子供編は一旦終わりです。

窓から朝日が差し込む。
柔らかな光。冬の、凍えた大地を照らす光。
瞼越しにも感じる明るさに、少年は目を覚ました。
脳裏に、昨夜のことが蘇る。
少年はベッドの上で体を起こして、膝の上に両手を置いて見つめた。
出来れば秘していた方が生き易い。そういうものを、彼は抱えている。
少年が抱える秘密が招いたのは、過酷な運命だった。
たった10歳の少年は、その短い人生を不幸で彩られていた。
その秘密を、彼は、二人の魔法使いに打ち明けようとしていた。

……後悔は、しない。絶対に」
(自分で決めたことだ)

少年はベッドの上で独りごちる。
火を操る魔法使いは狼の自分を見て「ラリー」と呼んだ。
氷を操る魔法使いは狼の自分を抱きしめてくれた。
少年は両手を握り締める。小さく頼りない両手を、決意と共に強く。

──コンコン

ノックの音がした。
次いで、優しい男の声。

「ラリー? 起きてる?」
「起きてる!」
「朝食ができたよ。顔を洗って食卓においで」
「わかった」

遠ざかる足音を聞きながら、少年はベッドから降りた。
与えられた寝床は清潔で作りも丈夫であった。
枕には綿のほかに安眠のための薬草が詰められていて、仄かに草の青い匂いと、甘く優しい香りがする。
眠る前に深く呼吸すると、そのままスゥっと寝入ってしまう。とても安心する香りだった。
そっと、その枕をひと撫でしてから部屋を出た。
洗面台で顔を洗って食卓へ向かうと、すでに二人が席についてお茶を飲んでいた。
優しい香りが部屋を包んでいた。

「おはよう、ラリー」
「お、おはよう」

声が上ずる。
ランスロットは何も変わらず微笑んでいる。
緊張で鼓動が早くなる。それを何とか抑えながら席に着いた。
ふとダイアナのほうを見ると、難しい顔をして小さな石を睨みつけている。
掌の上にちょこんと乗っているそれは、水晶のように見えた。無色透明で、まるで氷のようだ。
何をしているのか問おうと思ったが、あまりにも真剣な顔をしているので、声をかけるのは憚られた。
緊張感がダイアナとラリーの間に漂う。
じっ……と只管睨み続けている彼女を不思議な顔で見ていると、パキッと音がした。
湖に張った氷が割れるような音。
ダイアナの掌に載っている水晶が、割れた。
いや、違う。
膨れ上がっている。

パキ、パキパキッ……

内側から膨れ上がるようにして、その水晶は割れて、膨張し、成長していく。
小さく成長して形を作る水晶を睨むダイアナは、徐々に顔を歪めていった。
苦しそうだ。
手も震え始めている。ラリーはだんだんと心配になってきた。
やはり声をかけよう、としたその瞬間。

……だぁっ!!」
「うわ!?」

ダイアナが叫び声をあげる。
その声の大きさに比例するかのように、掌の水晶も急激な成長を遂げた。
天を衝く霊峰の形を取り、一気に天井を突き破らんとした。
一瞬で見上げるほど伸びた水晶に唖然として、ラリーは口をぽかんと開けたまま天井を見上げた。
ダイアナは額の汗を拭って大きな溜息をついた。

「ああ~、もう! やっぱりアタシこれ苦手!!」
「途中まで上手くいってたよ。また頑張ろうよ。で……これは、後で俺が加工しておくね」
「頼むわ……もー、だめ。疲れた。お腹空いた」
「な、なんだ?? 今の??」

ダイアナから受け取った水晶を、ランスロットは少し離れた場所にある作業台に置く。
彼女のほうはといえば、すっかり疲れ切ってぐったりとテーブルに突っ伏してしまった。
それでも、まだ状況が掴めていないラリーに、簡単に説明してやる。

「あれは魔力で成長する水晶。自分の魔力を注いで好きな形に変えて、飾りにしたり魔法の媒体にしたり。
でもアタシは昔からあれが苦手。たまに練習するけどあんな風に失敗するのよ。ランスは得意なんだけど」
「へえ?」
「ランスは本当にうまいのよ~? 水晶だけで宝冠も作れるわ」
「言いすぎだよ。そういう複雑なのは部品ごとに作って、繋げるんだから」

オムレツの皿をラリーとダイアナの前に置きながら、ランスロットは笑った。
ふわりと美味しそうな匂いを漂わせて立ち上る湯気に、頬が緩む。
次いでライ麦パンとかぼちゃのスープが。

……いつも、思うんだけどさ」
「うん?」
「ダイアナって料理できるんだな」
「あ"ぁ?」
「ぶふっ!」

たまらず吹き出すランスロットはひとまず無視をして、ダイアナがラリーへ詰め寄る。
苛立つままにラリーの耳をぎりぎりと捩じり上げた。

「この三日四日の間、アタシの料理を食べといてよくもまぁそんな口が叩けるわね!?」
「いででででごめんなさいごめんなさい!!」
「くくっ……お、おかしっ……ふふっ……
「ランスロット!笑ってないで助けてくれ!!!いででで!?」
「ぷくくっ……だ、ダイアナ……その辺で許してあげれば? 耳真っ赤になっちゃってる」
……全く、失礼なクソガキだわ」

舌打ちをしてダイアナが手を離した時には、危うく千切れる寸前だった。
もちろん手加減はしているのだが、ラリーにとっては今にも千切れて窓から捨てられるかと思ったほどの痛みだった。

「料理ぐらい出来なきゃ、食うに困るじゃないの」
「生で食べられる食材ばかりでもないからね。調理法は何でも覚えておくといい」
「美味しい食事がなきゃ、人生に張り合いがないもの」
「そういうもんか……

鮮やかな黄色のオムライスはつややかで、綺麗な楕円形をしてふんわりと柔らかそうだった。
これを大雑把な性格のダイアナが作ったというのは未だに信じられない。
しかしこの数日間、確かに美味しい食事を食べさせてもらっている。
朝食と昼食はダイアナが、おやつと夕食はランスロットが担当するというのが昔からの決まり事らしい。

「ラリーも、もう少ししたら野営の仕方でも教えようか」
「え?」
「出来ることが多いほうがいい。知識は武器だ。武器は多いほうが生き残れる。ね?」
……うん」
「さ。食べましょ。あったかいほうが美味しいんだから」
「ダイアナのオムレツはいつも美味しいよ」
「お世辞を言っても何も出ないわよ」
「お世辞じゃないよ~」

食べ始めた二人を見て、ラリーも一口、口に運ぶ。
新鮮な卵の優しい味が胃袋に染み渡っていく。
二口目をスプーンに乗せて、彼は考え込んだ。
生き残る。
その言葉が妙に胸に残って、スプーンを持つ手がぎゅっと強くなる。
自分が生き残れたのは、運が良かったから。
自分を助けようとした人間が、同時に二人もいて、二人とも強かったから。
その二人に対して秘密を抱えたままなのは、なんだか卑怯だとラリーは強く思った。
言うなら、今だ。

「あの、さ」
「うん?」
「どうしたの? 塩辛かった?」

ラリーは首を振る。ダイアナのオムレツは美味しかった。
息を吸い込んで、緊張に震えながらも、視線だけは真っ直ぐに二人を見据え、口を開いた。

「おれ……人狼、なんだ。まだ大人じゃないから小さいけど、オオカミに、なるんだ」

絞り出すように、やっとの思いで伝えた。
これを言うだけで、人は恐れ、嫌悪し、疎んだ。酷いときは殺されそうになった。
何度目になるか分からないくらい殺されそうになり、這う這うの体で逃げ、行き倒れ、この二人に助けられた。
二人ならきっと、大丈夫。
そう思うがどうしても恐怖で体が強張り、ラリーは震えて俯いた。
少年の思いを知ってか知らずか、二人の美しい魔法使いはたった一言だけ答えた。

「うん」
「知ってた」

それぞれ言葉は違えど、言いたいことは『何をいまさら』であった。
そんなことなど百も承知で、二人は迎え入れたのだ。
一人ぼっちの狼を。
しかし、言われたほうは何だか納得がいかなかった。
生きるか死ぬかの決意で伝えたのに、あまりにも素っ気ない返事だったからだ。

「もう少しおどろいてくれねーかな!?」
「どうやって驚けっていうのよ。アタシはちびっこ狼のまま行き倒れてたアンタを担ぎこんだのよ?」
「俺もまあ、ただの狼じゃないなと思って手当てしたし、翌日には今の君の姿だったから」
……気持ち悪いとか、おどろくとか、こわいとか………なかった、のか?」

恐る恐る聞けば、またあっけらかんとした声が返ってくる。
ダイアナは呆れて眉根を寄せて、ランスロットは優しく微笑んで。

「そんなの無いよ」
「あんな小さな狼、野生だったとしても怖くないわよ」
「すぐに分かったしね。ああ、この子は因果を背負ってるんだな、と」
「因果……?」

ラリーには分からなかった。
ただ物心ついた時から体を自分の意志で狼へと変化させることができた。
両親も「自分たちはそういうものなのだ」というだけで詳しいことは語ってくれなかった。
因果とは何なのか、ラリーは聞かされていない。
彼の両親も知る由はない。彼らも迫害の果てにその起源を伝えられることなく生きていたのだ。
ランスロットは少し悩み、言葉を選びながらも口を開いた。

「恐らく、だけど……君の祖先は女神の怒りを買ったのだろう。山の女神か何かの。
 その怒りのために動物へと姿を変えられてしまった人間の末裔。それが君だろう。たぶん、ね。
 君の中に流れる力は神聖なものがある。自然の気、恵みといったもの。呪いだけではないよ。
 もしかしたら神殿付きの巫女の血もあるかもしれない。全部憶測だけど、君の力は悪いことだけではないよ」
「悪いことをしでかす気がないなら、アタシとしては何でもいいけどね。無礼なのは直すべきだけど」
「この年頃なら、やんちゃなのが仕事じゃない?」
「放置しておく気はないわよ、アタシは」
「短気は起こさないで……。まだ病み上がりだし」
「病んでないでしょ」
「大怪我はしてたよね!? 治ったばかりの子供に厳しくしすぎないの!」

二人でやいのやいのと言い合う姿を、ラリーな不思議な心地で見つめていた。
自分が置かれた状況が、まだ呑み込めていなかった。
だが一つ、希望が生まれた。
もし望むなら、望んでいいのなら……
ぽつり、呟いた。

「おれは、ここにいて、いいのか?」

ぴた。
いつの間にかラリーの教育方針について言い合っていた二人の応酬が、止まる。
揃って顔を見合わせ、同時に笑う。さすがの双子といったところか。
そこで深い深い溜息を吐いたダイアナが、おもむろにラリーに手を伸ばした。
びくっと肩を竦めるラリーを無視して、わしゃわしゃとその髪をかき混ぜた。

「変なところで遠慮するんじゃないわよ馬鹿」
「最初から、好きなだけ居て良いって言うつもりだったよ。俺たちは」
「えっ」
「行く当てがあるなら止めないし、旅立つにあたって必要な物も分けてあげるけど?」
「いや……その……

行く当てなどない。
故郷も家族も失って、彼はたった独り。
助けを求める術も知らず、力の無い手で虚空を掻くしかなかった。
選択肢などなかったはずだった。
それが今や、あれやこれやと目の前に道が示されている。
幾つもに枝分かれして、その先はどれも明るく見える。
その道を示す魔法使いは、可能性と自由を与えて笑うばかりだ。
強制はしない。恐らくどれを選んでも、必要以上の干渉はしないだろう。ただ行く末を見守るだけ。
ラリーは悩んだ。頭が追いついていかないのだ。
だから、それを正直に言うことにした。

「そんなにいっぺんに色々言われても、分からない、よ」
「そうか」
「そうね」
「だから……分かるようになるまで、選べるようになるまで、ここに、いたい」

二人は、先ほど好きなだけ居てもいいと言った。
ラリーは、自分の無力さを痛感していた。何も出来ずに野垂れ死ぬところだったのだ。
だからせめて、一人で生きるだけの力が欲しかった。
狼の姿になっても、狩りの一つもできはしないのだから。

「おれは、何も知らないから……色々、教えて、ください」

深々と頭を下げる。
金茶の髪の中にあるつむじを見て、二人はそっと笑いあった。
二人そろって、ラリーの肩に手を置いた。

「もちろん。君に必要なことを、俺たちは分け与えよう」
「知識も。技術も。魔法は難しいわね。あれは才能がモノを言うから」
「努力次第で、簡単なものならできると思うから、まずはやってみようか」
……ありがとう。ダイアナ、ランスロット」

はにかむように笑って、ラリーは照れ臭そうに礼を言った。
彼が、初めて見せた笑顔だった。
双子の魔法使いは、その笑顔に満足げに頷いた。

「さ。食事の続きよ。スープならお代わりできるからね」
「うん」
「ダイアナ、あの水晶で何作ろうか?」
「ナイフが欲しいわ。最近折っちゃったのよ」
「また? ナイフの耐久性考えて使ってよ」
「すぐ作れるんだからいいじゃないのよ~」

また賑やかに話し始めた双子の声を聴きながら、ラリーはスプーンを口に運んだ。
やはり、優しい味がした。

(おいしい)

自然と笑顔があふれた。
ラリーは黙々と、双子は今日の作業について言い合いながら、朝食を食べる。
小さな笑顔が増えた、優しい朝の風景だった。