mikagami3
2018-02-15 14:30:07
3852文字
Public エスコンZERO マーセナリー(♀)
 

太陽の魔法使いと月の魔法使い

魔女集会で会いましょう
魔法使い集会で会いましょう

両タグに触発されて、昔考えていたファンタジーパロをアレンジした、エスコンZERO二次創作SS書きました。
双子の魔法使いと人ならざる子供の、非日常の日常の始まり。
うちの二人のサイファーが魔法使い、ピクシーが人ならざる存在の子です。

ザクッ
ザクッ
ザクッ

真冬の森には、深く深く雪が降り積もっていた。
銀の粉を纏って輝く白い絨毯は柔らかく、見るには美しいが生き物の歩みを絡めとる重みがあった。
その銀の森の中を、一人の女が歩いていた。
白く息を吐きながらも、ブーツに纏わりつく雪をものともせずに大きな歩幅で闊歩する。
寒さを防ぎ、身を隠すための白く厚いローブのフードを目深に被り、彼女は家路についていた。
彼女は毎朝、住処の周囲を散歩する。
それは異常がないかの見回りでもあるし、体力を維持するための日課でもある。
彼女が外に出ている間は弟が家の留守を守っているので、何も心配せずにこの美しい銀の森を楽しんでいた。
朝日に照らされる、白い服をまとった森も、雪化粧の山々も、銀の平原も堪能して実に上機嫌だった。

ザクッ
ザクッ
ザッ……

ふと、足が止まる。
キンッと冷えた空気の中に、見慣れぬ流れが見えた。
それは匂いでもあり、色でもある。褐色の靄のような気配と、鉄錆の匂い。

……確認、しといたほうがいいわね」
(面倒だけど)

面倒くさがりの彼女だが、今回ばかりは自分に言い聞かせて、その匂いと気配を辿る。
小さな不幸は、のちに大きな災禍にも成り得る。それを防ぐのも、この土地を間借りする者の義務だ。
茂みをかき分け、獣道を走り、冷えた空気の中で色濃くなる匂いに近づく。
鉄錆の匂いは、おそらく血の匂い。
褐色の靄はのような気配は、野生の動物とは異なる生き物のもの。端的に魔力と呼ばれる、命の力。
鉄錆の匂いは濃くなるのに、褐色の靄は薄くなる。
彼女は速度を上げた。
獣にも近い速度で森を駆け抜けて、いくつかの古い大木の横を通り抜けながら必死に感覚を研ぎ澄ませる。
匂いは濃いのに、気配が薄くなる。
焦りが強くなった頃、ようやくそれらしきものを見つけた。

「見つけたっ……

息を切らして膝をついた、その場所にこんもりと盛り上がった雪だまりがある。
両手を突っ込んで雪を掻き払い、ようやく白以外の色が見えた。
灰褐色の毛皮。血に汚れているせいで、それが本来の色かは分からない。
小さな小さな、か細い命の光。

「おお、かみ……?」

彼女はその呟きを、胸中ですぐさま否定した。
狼の血筋には違いないだろう。だが、それは野生の獣という意味での狼とは違う。
微かに漏れ出る魔力がそれを物語る。
だが、確証は持てないし、何より確かめる時間が惜しかった。
彼女は着ていたローブを荒々しく脱ぎ、目の前の微かな灯火を包んだ。
その拍子に、太陽の光にも似た金の髪が零れ落ちる。
丁寧に包んだその仔狼を、手持ちの革紐で体に括り付けて、しっかりと抱きかかえた。
そうして走り出す前に、腰の革袋から小さな緋色の石を取り出した。
仄かに光るその石は温かく、手袋越しでも彼女の指先を温めた。
彼女は冷たくなりつつある仔狼の胸元にその石をねじ込んで、今度こそ走り出した。
その速度は狼の如き疾風を誇ったが、それすらももどかしい。
抱きかかえた仔狼は、緋色の石のおかげで体温は保たれているようだが、身じろぎ一つしない。

(急げ、急げ! ここまで弱っては、私の治癒魔法では何ともできない!)

彼女の脳裏に最悪の事態が浮かぶ。
同時に、微笑む柔和な男の顔が浮かぶ。

「大丈夫。きっと大丈夫だから」

自分にも、胸に抱いた仔狼にも言い聞かせて、ただひたすら走る。
雪原を横切り、丘を駆けあがり、大木の枝を掠めて森を疾駆する。
そうして見えた、小さな木組みの家。
転がり込むように、彼女は息せき切ってドアを蹴破った。

「ランス! ランスロット! 助けて!」
「ダイアナ!? どうしたの!?」

奥から、月色の髪をした青年が駆け寄ってくる。焦りと困惑で、品の良い三日月眉を寄せた。
ダイアナと呼ばれた彼女は、《月の女神》よりも《太陽の女神》に相応しい苛烈な美貌を歪ませて叫ぶ。

「説明は後回し! この子を助けてランス! 私の魔法じゃもう手遅れで
「分かった。貸して。まずは火の近くに」

火急の案件だと察した彼は、言葉少なに頷いた。
ダイアナの体に積もっている雪を手で払いながら、暖炉の前の安楽椅子に座らせる。
穏やかに燃える暖炉の火を見て落ち着いたのか、静かな手つきで革紐を解き、ローブの包みを開いた。
仔狼は、先ほどよりは呼吸に力を取り戻し、体も仄かに温かい。胸元の石のおかげだろう。

「火のザクロ石を持たせたんだね。良かった」
「でも、出血が多いわ……
「大丈夫。幸いにして大動脈が傷ついてない。集中するから、そのままその子を抱いていて」
「ええ」

ダイアナが、両腕を揺りかごのように広げて、仔狼を抱きかかえる。
呼吸はしているが、まだまだか細いその仔狼の額に手を当てて、ランスロットは目を閉じた。
息を大きく吸い、その美しい唇を開く。

『廻り猛る火、流れ雪ぐ水、種運ぶ風、命抱く大地、見守る天、微笑む海』

一言、一言、噛み締めるように紡がれる言の葉。
唇から零れるたびに、彼の傍に小さな灯が燈る。その中にはクスクスと笑い合う存在がある。
それは優しい隣人。愉快な友。人々が精霊や妖精と呼ぶ存在。
ある妖精は赤き炎の髪を持ち、ある妖精は青き水の尾びれを持ち、ある妖精は緑の翼を腕にして、ある妖精は褐色の鎧を持つ。
ランスロットが紡ぐ、朗々たる命の詩に合わせて、彼ら彼女らは三人を囲むように輪になって踊る。 

『この手は全てを育む手。この身は全てを宿す身。私は全ての仔等を愛する母……

ランスロットの手が燐光を放つ。薬の手と呼ばれる彼の手が、妖精たちによってその治癒の力を増したからだ。
徐々にではあるが、仔狼の体に刻まれた傷が塞がっていく。
体の内部の出血や酷い骨折も癒すその力は、消えかけた命の灯火に薪をくべていく。
無から有を。失った血液までもを取り戻して、仔狼の傷はとうとう跡形もなく消えた。
残ったのは安らかな寝顔と、乾いてこびりついた黒褐色の血液だけ。
柔らかな燐光は徐々に消え、ランスロットは空色の目を開いた。
妖精たちも笑い合いながら消えていく。対価はすでに払っている。
それは極上の蜜。《月の雫》にして《氷の魔法使い》と呼ばれるランスロットの魔力。
痩せこけているが、温かみが戻った仔狼の頬を撫でて、ランスロットもダイアナもほっと息を吐いた。

「これでもう大丈夫。間に合って良かった……
「ありがとうランス。やっぱり治癒魔法はアンタに頼んで正解だわ」

どこか誇らしく笑う、双子の姉でもあるダイアナにランスロットは照れ笑いを浮かべる。

「これくらいしか得意なのは無いからね」
「またそういうこと言って。貴方に治せない傷も病気もないじゃない。自信持ちなさい」

思わず謙遜すれば、ダイアナは眉を吊り上げる。
彼女の知る限り、治癒の魔法に関する物事に最も長けた魔法使いは、ランスロットである。
自慢の弟だと、彼女は誰相手であろうと、そう紹介する。
強い口調だが、それも自分を思うが故だと思うと嬉しくなるランスロットだった。

「ふふっ、ありがとうダイアナ。とりあえずこの子は、俺のベッドに寝かせておくよ」
「え、そのまま? 汚れるじゃないの」
「怪我をして衰弱した子供を無理やり洗ったら消耗しちゃうよ。まずは寝かせないと」
「ふーん」

ダイアナから仔狼を受け取ったランスロットは、自分の寝室へと入っていった。
残されたダイアナは着替えることにした。冬の寒空を歩くための服を着ているので、家の中では暑い。
自室に入り、まずは腰の革袋を壁の杭に引っ掛ける。持っていた杖とナイフはベッドに放り投げた。
分厚いムートンのブーツを締め付ける革紐を解き、革の室内履きに変える。
毛皮で出来た胴着とズボンを脱ぎ捨てて、綿の肌着を身に着けて上から毛織物のワンピースを被る。
さらにその上から黒いローブを羽織り、服に埋もれた髪を掬い上げて、背中に流した。
腰まで伸ばした金の髪。
凛と冷たく吊り上がる、しかし優しい光の晴れた冬空の目。
意志の強い眉に通った鼻筋。
血のように紅い唇。
並みの男性より高い背と、研ぎ澄まされた刃のように鍛えた身体。
《太陽の牙》にして《火の魔法使い》呼ばれる彼女・ダイアナ。
ランスロットの双子の姉は、魔法使いらしい服に着替えて自室を出た。
暖炉の前にはランスロットが戻ってきていた。

「ああ、ダイアナ。着替えたのかい」
「ええ。あの狼は?」
「寝てる。一日はあのままがいいと思う。眠りの魔法もかけておいたし」
「そう」

ランスロットは、ダイアナとは全く違う容姿で生まれた。
項のあたりだけ伸ばして短く切った、月の光のような白金の髪。
三日月のような弧を描く優しい眉に、品の良い鼻筋。
春に咲く花のような薄紅の唇。
姉より少しだけ高い背、針金を撚り合わせたように鍛えた身体。
目の形も姉に比べて優しく、やや目尻が下がっているが、その晴れた冬空の色だけは同じだった。

「さて、朝食にしようか」
「そうね。あ、ランスはそのままでいて。魔法使って消耗したでしょ?」
「別に何ともないよ」
「ランス?」
「分かった。大人しくしてる」
「よろしい」

名を呼ぶ声にとんでもない重圧を感じ、ランスロットは諸手を挙げて降参した。
その姿を見て機嫌を戻した姉は、朝食づくりに取り掛かった。