mikagami3
2018-02-14 18:49:49
1762文字
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君の瞳の虹へと

楠井さん(https://twitter.com/Exceliza105)の男女二人のサイファーさんたちを独自解釈でSSにしてみました。
ZEROに至る前の、二人が同じ空を飛んでいた頃にはこんなこともあっただろうか・・・?という妄想です。
一応コンビ以上恋人未満なつもりで書いてます。

君の瞳の虹へと

「あんな飛び方してたら死ぬぞー?」

黒髪の男が、同じく黒髪の女に声をかけた。
どこか雰囲気の似通った二人は、先ほど地上に降りてきたばかりの戦闘機パイロット。
飛行訓練を終えて格納庫に来たところだった。

「し、死なないよ! いつもより調子いいくらいだし! むしろ勝つし!……たぶん」

言われた方は必死に反論を試みたが、語気が弱い。
最後には肩を落としてしまった姿を見て、男のほうが小さく呻く。予想外の反応だったからだ。

「あー……なんだ、もう少し自信持って反論しろよ」
「だって、あなたに言われたら……自信失くす」
「何でだよ」
「あなたは私の師匠みたいなものだから。あなたに言われたら、そうかも、って……思う」
「そういうもんか?」

どちらかと言えば楽観的で自信家の彼には、彼女の言い分はよく分からなかった。
助言は聞くし、改善については無論努力するが、納得できないなら反発する。彼はいつもそうだった。
しかし彼女のほうはやや内向的な性格で、考え込むきらいがあった。
指摘されたことが解決できるまで、延々と悩むことも多い。今も心此処に在らずだ。

「あんまり悩むなよ。俺もほら、直感で言うだけだから。どこをどうしろとは言えない」
……でも……
「ただ、一つだけ。言いたいことは、ある」
「何?」

彼女が見上げると、彼は空を見上げて、眉を寄せて自分の後頭部をかき混ぜながら呟いた。

「お前の飛び方をしろ」
「えっ・・・?」

彼女は、完全に虚を突かれた。
呆然と、自分よりずっと背の高い彼を見上げる。幼げな顔が、より一層あどけない顔になる。
顔を下ろし、その黒い目で真っ直ぐに見つめて、彼は珍しく真剣な顔で言った。

「俺の後ろを飛んでるからか分かんねーけど、時々、俺に引っ張られてる」
「そうかな
「自覚がねえなら、気を付けろ。もう模倣の時期は過ぎたんだ」

珍しく、先達らしいことを言う。
彼女に”師匠みたいなもの”と言われて急に自覚したのだろうか。
かつて自分が教わった教官の口ぶりを、なぞるように思い返しながら、それでも彼自身の言葉を探した。
彼は彼の目で彼女を見ているのだから、自分が考えた言葉で言うべきだと思ったのだ。
そうでなければ伝わらない。

「技術は盗むものってのはよく言うが、模倣とは違う。自分の血肉にしねーと意味がねえ。
 模倣は、なんつーか、着ぐるみつーか借り物っつーか、そういうもんだからな」
……借り物」
「ああ。あー、何て言うかな、んー……
「だ、大丈夫。何となく言いたいことは分かる気がする」
「そうか。それならいいか。お前、腕は悪くないんだ。もっと自信持てよ」
……うん」
(ほめられた?)

何気ない、素っ気ない、作為も作意もない所作で頭をぽん、と撫でられた。
声も言葉も同じくらい何気なく普段通りで、だからこそ嘘ではないと彼女は思った。
褒められた。そう気づいたと同時にどうしようもなく嬉しくなって、頬がふにゃふにゃと緩む気がした。
ほんのり赤くなった頬を隠すように俯いて、黒髪を頬に押し付けるように撫でた。

「ありがとう……が、頑張るから。私」
「おう。ま、あんまり思い詰めんじゃねーぞ」
「あなたはもう少し、考えながら喋った方がいいと思う」
「俺なりに真面目に考えたんだぞ? さっきのは」
「それは伝わった。ありがとう」
「ならいいじゃねえか。ごちゃごちゃ考えて伝わらないより、雑でも伝わるほうがイイだろ?」
……うん。そうだね」

大股で威勢よく歩く彼の後ろを、彼女は必死に追いすがる。
まだまだ体力も、技術も、精神も未熟だけれど、いつか目の前の背中に追いつきたいと願う。
強い光を宿した黒い目は、空の中心にある彼を見つめた。

「まあ、上手く飛べたのは本当だしな。なんか奢るぞ、イリス」
「そう言って、いつも缶コーヒーじゃない」
「バレたか」
「ケチなんだから」

小さく笑い合って、今度は共に歩き出す。
彼が歩幅を合わせてくれる。
死と隣り合わせの仕事の中での、確かな安らぎがそこにあった。


あの頃は、こんな事になるとは思わなかった。


何も聞こえないし、何も聞きたくない。
最後まで……傍にいてほしかった。