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mikagami3
2017-11-01 00:11:07
3856文字
Public
エスコン6 イリタリ
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万聖節の前夜に
ACECOMBAT6二次創作。イリヤ・パステルナーク×タリズマンで吸血鬼パロ。
ハッピーハロウィーーーーーーン!!!!!というノリと勢いだけで書いた。反省はしている。
私と同じ趣味の人向け。アニキが吸血鬼、タリズマンがサラリーマン。
あ。BLです。
万聖節の前夜、という言い方をする人間は多くない。
そもそも『万聖節って何?』と思っている人間のほうが多いだろう。
古いしきたりや習慣は、続かなければ忘れ去られるもの。
永遠に続くものなどない。
永遠・悠久・永劫
……
そんなものはないのだ。
生きるものは死ぬ。
形あるものは壊れる。
不変の理。覆せるものなど
……
「Trick or Treat!」
「
…
ああ、今日はハロウィンか」
会社帰りの青年は、軽やかな声を上げながら練り歩く子供たちを眺めていた。
そういえばそういうものもあったな、と遠い記憶がふわりと過ぎった。
幼いころ、彼の近所に住んでいた老婦人は手作りのクッキーや小さなパイをたくさん用意してくれた。
今も元気でいるらしく、たまに会う甥と姪が話をしてくれることもある。
「もう10月も終わりか。あーもう年末になるじゃねーか。忙しくなるなぁ」
ぶつくさと呟きながら、暗い小路を歩く。全くの無人ではなく、ほろ酔いの人影がちらほら見える。
小洒落たバーや居酒屋が軒を連ねるこの道は、さざ波のような、程よいにぎやかさで心地よい場所だ。
ふと、視線を感じて振り返る。
その拍子に、銀色の髪が、居酒屋の軒先に飾られたジャック・オー・ランタンの光を照らして輝いた。
(
……
気の所為か)
どこか納得できないまま、前を向いて再び歩き出す。
一歩、歩いただけでまた立ち止まってしまった。
ワインバーのテラス席に、一人の男性が座っている。
ゆったりとリラックスした様子で、赤ワインを飲んでいる。
ただそれだけなのに、目を離せず、身動きが取れない。
黒髪も艶やかなその男性は、にこりと彼に微笑んだ。
「こんばんは。麗しい銀の君」
「
…
どうも」
なんとも気障で不釣り合いなセリフだ。そう思うのに動けない。
自分にも、場所にも不釣り合いだと思うのに、そう言うことができない。
その声がとても優しく、妖しい響きで、その気障なセリフも似合っていたからだろうか。
グラスを置いたその人は、優雅な仕草で向かいの席を指し示した。
何も言われていないのに、行かなくてはいけない気がして、銀色の髪の青年は浮いたような足取りで席に着いた。
「明るい夜だ。満月ではないのに、随分と月が明るい。君の髪がよく映える月夜だ」
「
…
俺は、この髪はあまり、好きじゃない。ガキの頃は白髪だのジジイだのと、よく馬鹿にされたから」
「なんてことだ。なんて不作法で無教養な連中だろう。子供とはいえ許しがたい行為だ。こんなに美しいのに」
子供の頃の苦い思い出に、目の前の男は大げさに嘆き、静かに怒った。
どこまで本気かは分からなかったが、まぁそう悪い気もせず、初対面の相手に随分と気遣ってくれるのだなと思った。
つい、ふふっ、と笑ってしまう。
黒髪の伊達男のほうも笑みを深くして、深紅のワインをグラスに注いだ。
「いいんだ。俺は反抗期からこっち、ちょっとだけ抗ったから。見えるかな? 前髪、ちょっと染めてるんだ」
「
…
ああ。よく見える。綺麗な赤だ。好きな色だよ。鮮やかで、よく似合う」
「どーも」
決意の証であるその赤色を、初対面の相手にわざわざ見せたのはこれが初めてだった。
ふと、なぜだろう、と思う。
普段は見せぬように隠しているくらいだ。それなのに、前髪をわざわざかき分けて、容易く見せてしまった。
答えを探すように視線をさまよわせていると、ワイングラスが滑るように目の前に現れた。
新たにグラスとワインを注文して、男性が彼の前にグラスを差し出したのだ。
「君の髪に一筋差し込む赤は美しく、こちらの赤は実に美味だ。今日の記念に、一杯奢らせてくれ」
「あ、ああ
……
いや、受け取る理由がない。あんたとは初対面だ」
「だからこそ、だ。確かに初対面だが、それもまた縁だろう。大げさに言えば運命だ。それなら、より良い時間にしようと努力するのが俺の流儀でね。
君が赤ワインが苦手なら、ロゼや白を頼もう。どうかな?」
「・・・変な人だな、あんた」
だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
笑ってグラスを受け取れば、相手は嬉しそうに微笑んだ。
香りは豊かで、甘く、一口含めばワインは門外漢の彼もその美味しさの虜になってしまった。
一息に飲み干して、ふぅっと息を吐いた。
「美味しい」
「口に合って何よりだ」
「こんなうまい酒を奢ってもらっちまって、なんか悪いな」
「いやいや。美味いからこそ奢るのさ。美酒は飲まれなければ、誰もその味も美しさも知らぬままだ。それこそ勿体ない」
「
…
なるほど。そうかもしれない」
「独り占めも悪くないが、分かち合う相手は選んでいるのでね。良い時間のためにも奢らせてもらったよ」
「あんたにそう言ってもらったなら
……
ああ、きっとこう言うべきだな。光栄だ、と」
それは本心だった。
庶民派の自分とは違い、ラベルからして高価そうなワインをさらりと奢ってしまえるこの男は、おそらく裕福な環境にいるのだろう。
地位も名誉も教養もある、自分とは本質が違う男だと思った。
相手がどう思っているかは分からないが、笑みを崩さずにまたワインを注ぎ始めた。
「愛しい人は誰にも触れられぬように守るべきだが、酒は楽しく美味しく飲むべきだ、と思うね」
「あんた、愛情が重いって言われないか?」
「
……
」
「図星か?」
「否定はしない、と言ったところか。どうもうまくいかないことも多くてね」
「へえ。あんたみたいな色男でもそういうことがあるんだな」
「失敗ばかりでもないがね。愛は広く深く持つ主義だが、誰かに決めたら最後まで愛し抜く覚悟はあるとも」
先ほどの、どこか泰然とした態度とは違って、酷く情熱的な口ぶりだ。
薄い灰色に見えた目も、ゆらりと色が変わって見える。
(
……
あんな色だったか?)
ロイヤルブルーの目が捕らえたのは、ワインよりも深い赤の
――
血のような赤い虹彩。
いや、捕らえられたのは、彼のロイヤルブルーのほうだった。
視界が徐々に暗くなる。闇に飲まれていきそうな視界のなかで、その赤い虹彩だけは強烈な光を放っている。
目が、離せない。
「どうかしたかい? エドワード?」
「いや、なんか
……
?」
(俺、名乗ったっけ?)
「一気に飲んだから、酔いが回ったのかもしれないね。大丈夫、俺を信用してくれ」
「でも
……
」
初対面の相手に酔っ払いの面倒を見てもらうわけにはいかないと、そう言おうと思うのに声が出ない。
舌が回らず口が動かない。こんな酩酊状態は初めてだった。
「ちゃんと送り届けるよ。心配しないでくれ。君に会えて嬉しかったよ、エドワード」
「う
……
」
もはやピクリとも動かなくなった銀髪の彼
――
エドワードを横抱きに抱えて、男は歩き出した。
ロイヤルブルーの目は今や閉じられ、銀の睫毛が縁を彩る。
銀は、男にとって避けるべきものだが、それでもこの腕に抱きしめたかったのだ。
「愛しい人。どうか目を覚まさないで
……
」
迷うこともなく、男はエドワードと彼の荷物を抱えたまま、彼の部屋にたどり着いた。
ドアの前で一度考え込み、エドワードを自分に凭れさせるように抱えなおし、右手をドアノブにかざした。
――
カシャンッ
小さく、しかし確かに、鍵が回る音がした。
ノブを回し、開錠したことを確かめると、そのままドアを開けて中に入った。
そのまま奥へ進む男の後ろで、ドアはひとりでに閉じられ、施錠された。
独り暮らしのエドワードの部屋は、余り殺風景ではない程度にモノがあり、しかし生活臭がしない。
あまり家に帰ってないのではと、男は勝手に憶測した。
躊躇うことなく寝室に入り、ベッドに横たえると手際よくスーツを脱がしていく。
ジャケットをハンガーにかけ、ワイシャツをはだけさせ、手入れされた指先で白い首筋をなぞった。
頸動脈を、心臓への流れをなぞるように指を滑らせ、うっとりと目を細めた。
「やはり美しい。この俺の心を一瞬で奪った、美しい人。愛しい人。どうか口づけを受け取り給え」
そう言うと、ゆっくりと口を開いた。歯列が唇から覗くほど開くと、おおよそ人ではありえないほど鋭い犬歯が姿を見せた。
女性からの誘惑も多いであろう黒髪の偉丈夫は、その恐ろしい牙とは似ても似つかぬほど優しく、恭しくエドワードの首筋に口づけた。
そして、牙を立てる。
ぷつっ、と小さく皮膚を裂き、温かな血がわずかに滴る。極上のワインにも勝る甘い香りが彼の本能を刺激した。
それを舌で舐めとりながら、逸る気持ちを抑え、徐々に深く刻み込んだ。ゆっくり、時間をかけて。
眠るエドワードは、ピクリとも動かない。
首筋から唇を離すと、なぜか傷跡は一切ついていなかった。
代わりに、小さな赤いあざのようなものがあった。
それは彼の目には、2輪のバラが咲いている形に見えている。
彼が牙を立てたのは、薔薇の印を穿つための、魔力を用いた儀式だ。
「いずれ迎えに。それ迄しばしの別れです。我が花嫁」
ベッド脇に跪き、手の甲に口づけする様は古の騎士の様にすら見えた。
名残惜しそうに頬を撫で、エドワードには毛布をかけてから立ち上がる。
一度背を向け、しかし離れがたく、最後に一度その寝顔を見つめて、黒髪の偉丈夫は闇に溶けた。
夜が明ける前の街に、霧が立ち込める。
その霧に紛れて、恋の虜になってしまった吸血鬼は根城へ戻っていった。
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