mikagami3
2017-08-01 23:36:58
2031文字
Public エスコン6 イリタリ
 

例えばこんな恋の始まり

ACECOMBAT6の二次創作(BL)
イリヤ・パステルナーク×タリズマン(創作エース)の、一応BL
こういうのもアリかもしれないなぁ、くらいの短いお話。


「やあ。宿敵」
「よう。宿敵」

 にやりと互いに不敵に笑い、そして腹を抱えて大笑いする。
 ふいに、治りきってない傷が痛むが、大したものではない。
 むしろ、心地よささえ感じた。
 故国を裏切るかのような後ろめたさを感じながら、俺は彼を観察した。
 
 小柄な体。白い肌。銀色の髪のなかに差し込む一房の紅。サファイアを嵌め込んだような青い目。
 それらが彩る容貌は、名工が手掛けた人形のように美しい。
 その美貌が作るのは、歴戦の兵士の笑み。
 ちぐはぐなようでいて、心を抉り取られるほど魅惑的だ。

 少なくとも、俺はそう思う。
 このイリヤ・パステルナークを、目の前の男は魅了したのだ。

「タリズマン。いや、エドワード・キングス少佐。こうして対面を許していただき光栄だ」
「堅苦しいのは無しにしましょう。イリヤ・パステルナーク少佐。俺は野戦昇進の成り上がりだ。少佐、と呼ばれるのは慣れない。
 面映ゆいし、相応しくない」
「俺を墜としておいて、それを言うのか?」
「あー……あのときは必死だったし、あんたは一人だったじゃないか」
「だからたくさんUAV出したのに、君には届かなかったな」
「俺には、仲間がいた。たくさんの仲間が。一人じゃあんたは倒せなかったよ」

 少し遠い目をして、彼が笑った。
 その目に映るのは、きっと仲間たちだ。俺の知らない、彼を慕う仲間たちだ。
 
「羨ましいな」
「あんただって、部下に慕われてるだろ? トーシャはよく話をしてくれるぞ? あんたの武勇伝を」
「はっはっは。いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。キングス少佐。俺は、君と戦った仲間たちが羨ましいのさ。
 君の背中を見つめながら戦うのは、きっと素晴らしい経験だろう」
「分からないな。そんなもののどこがいいのやら。俺の背中は、ちっぽけだ」
「そんなことはないさ。ああ、でも、彼らには絶対に奪えないものが俺にはあったな」
「?」

 煌くサファイアが俺を見つめる。
 その一事に、ほのかに優越感を覚えながら続けた。

「君の敵になったことだ」
……
「君の、その美しい瞳を独り占めにして、あの空の上で踊ったこと。ああ、やはり、今思い出してもこの上なく至福の時間だった」
……なるほど、顔に似合わず――いや、関係ないな。やっぱりあんたも戦闘機乗りだ」
「そうだな。最高の好敵手との戦いを望むのは、戦う者としての性だろう。だが、それ以上に重要なのは君を独り占めしたことだ。
 君は俺だけを見ていた。生きるか死ぬか、その命の天秤を左右する権利を俺は得た。この事実は誰にも奪えない」
……?」
「分からないかい? 君だからこそさ。君だからこそ高揚した。君だからこそ幸福だった。君だからこそ戦いたかった。
 それが叶ったあの日の空は、とてつもなく美しい色をしていた。ああ、まだ分からないのか? では、陳腐だがこう言おうか」

 不思議そうな顔をしたまま、彼はただただ俺を見上げている。
 俺は彼にふざけていると思われないように、真剣な顔を作った。
 この場にたった二人きりでいる事実に頬が緩みそうになるが、堪える。
 跪き、古の騎士が姫君に口づけるような仕草で、無防備な彼の右手をとる。

「我が宿敵よ。君は今や、俺が最も愛する人であるのだ。これは恋だろう。狂おしく愛おしい熱烈な恋だ。
 ――貴方を、愛しています」
……は?」

 思わず、といった具合だろうか?
 蔑むでもなく、嫌悪するでもなく、突然の告白に面食らっているようだった。

「あんたが、俺を?」
「ああ」
「男だけど」
「見れば分かるとも。君の公的資料にも記載がある。むろん、閲覧可能な部分までしか見てない。そこは誓う。
 諜報部も暇ではないしね」
……トーシャからは、あんたは女好きだって聞いたけど」
「確かに俺は自分自身を異性愛者だと思っていた。だが……これは恋だよ。君への」

 この世で最も美しいサファイアは、困惑の表情を隠せずに、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
 その煌きの一瞬すら愛おしいと思う。
 ああ、今すぐにでも攫ってしまいたい。
 しかしそれはきっと、彼の輝きを損なってしまう。彼が彼でいられなくなってしまう。
 それは望んではいない。

「返事は欲しいけれど、気長に待つさ。これでも忍耐強いほうでね」
……返事しなきゃ、だめか。やっぱり」
「曖昧な関係も楽しいものだけどね。だが、正直なところ欲しくてたまらない。君をこの腕の中に閉じ込めてしまいたい。
 だが、急ぐのも性に合わない。ゆっくり、じっくり、策を練るとするさ」

 手の甲にキスを落とし、にっこり笑って見せて、立ち上がる。
 黙っていると、彼はあどけない少女のようにすら見える。
 この可憐な花を手折りたい衝動を抑えて、最後の宣戦布告を。

「覚悟してくれ。この世で最も愛しい人。必ず君を手に入れる」