mikagami3
2016-12-11 13:14:46
4247文字
Public エスコンZERO マーセナリー(♀)
 

ブリストーがピクシーに絡み酒されてるだけの話。

タイトルのままです。
酒飲んでたら悪酔いして絡んできたピクシーの話に乗っかって、ブリストーも鬼神に思いをはせる話。
このお話の鬼神は女性なのでお気をつけなすって。
【ピクブラ未投稿】


前略。

オーシア空軍の皆さんお元気ですか。LUCAN=ジョシュア・ブリストーです。
自分は今、とある場所で――

「あんなにバカバカ言わなくてもいいと思わないか?
 なあ。お前も聞いてただろ?アイツの無線をよぉ」

片羽の妖精ことラリー・フォルクに絡み酒されています。
飲ませすぎた。今、とても後悔している。


「大体アイツはいつもいつも人の獲物を横取りしやがって!先に下を片付けるって言うから
 上を片づけてから手伝ってやろうとしたらいつの間にか前を飛んでやがる!
 なんだよ!片づけるのはええよ!鬼かよ!そうだった鬼だったわ!!!!」


よほど溜め込んでいたようだな。
止まる様子を見せないので、俺はただグラスを少しずつ傾けながら聞いていた。
――円卓の鬼神――
素性も経歴も何もかもが不明だが、圧倒的な力を持って戦場を捩じ伏せる傭兵。
今までどこに隠れていたのか、ウスティオに来る以前の噂の一つも聞いたことがない。
正体不明の傭兵は、瞬く間にこのベルカ戦争の空に君臨した。


「基地に戻った後も『遅い』だの『手際が悪い』だのダメ出ししやがって!!お前が!
早すぎ!るん!だ!!!」


彼をして『遅い』と文句をつける戦闘機乗りは、女はおろか男にもいない。
そう、女だ。
円卓に君臨した鬼神は、目の覚めるような美女だった。






一度だけ、彼女に会いに行ったことがある。
我々【国境無き世界】に入らないかと誘うため。
偶然を装い、十分に人払いをして、基地の廊下で1対1で相対した。


『君が、円卓の鬼神、か?』
『どうやら、そう呼ばれてるらしいわね。初めまして。ダイアナ・マクベスよ。
貴方は?』


かすかに微笑んだ赤い唇は、まるで血に濡れているようだった。
凍えた冬空の青。その美しい目を縁取る長い睫毛は純金の指輪のよう。
しかしその眼光は鋭く、ただ見られているだけでも射貫かれるような心地さえした。
豪奢な金髪を惜しげもなく背中に流し、彼女が動くたびにふわりと揺れた。
その肢体はしなやかで、美しい姿勢と佇まいに品がある。
金の額縁に収められた、鮮やかな美人画のようだ。


『失礼した。俺はジョシュア・ブリストー大尉。オーシア空軍の者だ』
『ああ、あの時の。世話になったわね』

彼女は、円卓エリアB7Rにいた自分を覚えていたらしい。
奔放で他者を顧みない性格だと聞いていたが、覚えないわけではなかったようだ。


『いいや。我々こそ君には助けられている。常に戦果を挙げ続ける君に』
『私は傭兵。戦果を挙げなければおまんまの食い上げよ。当然の結果だわ』


堂々たる風格で不敵な笑みを浮かべた。
その言葉は本音であるのだろう。
おおよそ、傭兵という職業には似つかわしくない麗しさを持ちながら、その笑みは獰猛そのものだった。


『頼もしい。実に頼もしい。それでこそ勧誘のしがいもあるというものだ』
『勧誘?』
『ああ。君のような圧倒的な力を、我々は欲している』
『オーシアに来いということ?一介の大尉が言えることではないのでは?』
『いいや違う。君は国に隷属するような人間ではないだろうし、我々は【国を厭う者】だ』
『は?』

不愉快そうな声を上げる。無理もない、我ながら婉曲な表現だった。
目に見えて苛立っている彼女に手を差し出し、出来るだけ友好的な笑みを作った。

『我々は【国境無き世界】腐りきった文明を破壊し、新たな世界を創造する者だ。我々は、君の参加を希望する』
……一応確認するけれど、クーデター組織という認識でいい?』
『一般的にはそう呼ばれるだろうな。だが、世界が変わる。我々はその時に救世主になる』
……

苛立った表情は消え、考え込むように目線を下げた。
その時の俺は、彼女への手応えを感じた。さらに押せば我々の元に来るだろうと思った。
彼女は肩にかかっている金髪を一房指に絡め、くるくると弄び始めた。
その仕草一つ一つが、実に魅惑的だ。だが、後にそれが見せかけだけだと思い知ることになる。


『なるほど? 円卓でのあの無線、そういうことね?』
『察しが良いな。さすがは円卓の鬼神だ』
『片羽に振られて、アタシに唾を付けようって?』
『まだ決まったわけではないさ』
『そう。そのうえでアタシも、ってことね。欲張りな男だわ』


ふふっ、と笑う。先ほどの獰猛な笑みに、さらに鋭さが加わった。


『金払いはいいのかしら? アンタ達は』
『報酬は、世界。世界そのものだ。新たな世界の創造の一役を担う。これ以上の報酬があるだろうか』
『世界・・・世界ね。すでに手中に収めたような言い草だわ』
『必ず変わる。君が加われば盤石になるだろう』
『あっそ』


不意に青い目が持ち上がった。
刹那、その目は俺の目に死を突き付け、首筋には冷たいナイフが押し付けられた。
近づいてきたことも、ナイフを抜いたことすら見えなかった。
ふわりと、甘い香りがした。


『お前を殺したら、オーシアは特別ボーナスをくれるかしらね?
それとも、手足を斬ったほうがいいかしら? 動けなくすれば、拷問もしやすいものね?』


正確に頸動脈に押し当てられた刃は、薄皮だけを裂いてぴくりとも動かない。
主の命令が下ればすぐさま俺の命を断ち切っただろう。
凍えた冬空は、もはや太陽の欠片も感じられない。絶対零度の冷たさだった。
赤い唇が、怒りと殺意で開かれた。


『お前の話は長いわ。つまんないし。その上このアタシを妄想夢想を担保に安く買おうだなんておこがましい。身の程を知りなさい。
父から受け継いだ力とこのウスティオで鍛えた技、そんな物のために安売りする気はないわ。
【国境無き世界】ですって?結構なことだわ。夢のようにおキレイな思想だわ。
哀れだものね、敗戦国はどこまでも切り売りされるのだもの。
降伏文書に調印したら最後、国土は連合国に分配されて跡形もなくなるかもしれない。
最初から国境がなければ、国土を奪い合うこともなくなるかもしれない。
けれどそれが何だと言うの?私の父も国を滅ぼした。それが人間よ。それが戦争よ。
それは人間が生きている限り続いていく業よ。
戦争が始まったら、どちらかが潰れるまでやるだけ。アタシはそこで金を稼ぐだけ。
金すら出せない無能な貧乏人がアタシを使おうだなんて思い上がるな。
アタシを使いたいなら然るべき報酬を、契約書と一緒に持ってきなさい。
追い詰められても仁義を忘れなかったウスティオは、きっちり前金用意したわよ』


不意に怒りと殺気が消え、鬼が離れていった。
恐怖で心臓が早鐘を打っていた。
美しい鬼は、すでにこちらには興味を失くしていた。
ナイフを弄び、曲芸のまねごとをしたかと思えば、次の瞬間には跡形もなく消えた。
そしてこちらに向き直り、最後の警告をした。


『おうちへお帰り、坊や。アタシの気が変わらないうちに』






彼女を敵に回すのが、今から怖い。
敵というには少し違うだろうか。しかし、間違いなく今後の障害になる。
どこかで潰しておくべきだな・・・

「アイツは、アイツはいつも前を向いてるんだよ・・・一緒に飛ぶやつのことなんてお構いなしだ。
 一度文句を言ってやったら、何のことはない「お前ならついてこれるでしょ?」だと・・・俺を何だと思ってるんだろうなぁ?」

思考を現実に戻しても、ラリーはまだ愚痴っていた。
ほんの数か月間のうちに随分とひどい目にあわされたようだ。

「口は悪いわ足癖は悪いわで散々なやつなんだよ。男にやたら厳しいし。
 俺も何度蹴られたか分からねぇ。
 まぁ手加減はするんだが。本気なら骨が折れてるし」

さもありなん。
あの女傑なら可能だろう。実際、俺も殺されかけたわけだから。


「言うことは間違ってないんだ。だがさすがに基地司令に歯向かっていったのは肝が冷えた。司令は笑って許していたが、こっちは笑うとか笑わないとかそういう問題じゃなかったぜ。下手したらそこで解雇だったし違約金払わされるところだった。
 跳ねっ返りにもほどがある。本当、ただそこにいるだけで目を引くぐらい、いい女なのになぁ」


跳ねっ返りの一言で済むようなものだっただろうか。
自分のグラスに酒を注ぎながら、ラリーはまだ続けるようだ。
その目は、遠くヴァレー基地を見ているようだった。


「化粧っ気もない、短気で男勝りで気の強い、だがそれに見合う強さの女だ。
 俺と獲物の取り合いをするやつなんて今までいなかったが、あいつは取り合いどころかさっさと掻っ攫っていってしまう。
 初めてだった。あんな飛び方で、よく今まで無名でいたもんだ」

なみなみ注いだグラスを持ち上げ、一気に呷る。
飲み干したグラスを弄んで、そっと脇に寄せる。
虚ろな目で、最後に一言呟いた。


「俺は、アイツを、置いてきちまったんだな」


言い終えたとたん、ラリーはテーブルに突っ伏した。
慌てて肩をゆすって起こそうとしたが、そのままいびきをかき始めてしまった。
本当にこちらを置いてけぼりのまま飲み終えたな。
呆れた男だ。やっと気づいたのか。


「お前は自分の意志で片羽を置いてきたんだぞ?」


これでは、あの鬼神にバカだバカだと言われても仕方のないことだな。
恐らくは不敵に、冷たく、実力に裏打ちされた嘲笑だったのだろう。
容易に想像がつく。自信家で、それに見合う実力の持ち主らしいからな。
この数時間で散々この男に聞かされたばかりだ。


「・・・あれ?」


もしや、俺は惚気られていたのか?







――夢を見た。
アイツの夢だ。
金色の髪を風に靡かせて、格納庫で愛機を見上げている。
こちらに気づき、笑いかける。
優しい笑い方もできる女だと、最近ようやくわかってきた。
俺が何かを言っている。何を言っているのか、自分の耳には聞こえてこない。
アイツは一瞬目を見開き、そして目を閉じた。
次に目を開いた時には、淋しそうな呆れたような、悲しい色をしていた。

――馬鹿ね、ラリー

赤い唇だけは優しく弧を描いた。だが、それは笑みではないのだろう。

――馬鹿ね・・・

あんな顔で、あんな声で、あんなことを言わせた俺は、何を言ったのだろう。


夢は曖昧模糊のまま、闇に沈んでいった。