溶けかけ。
2024-06-08 22:25:35
2128文字
Public ほぼ日刊
 

陽だまりの午後

双子ちゃんがいるヌフ夫婦のお話です。
娘(姉):容姿→ヌ似 目、性格→フ似
息子(弟):容姿→フ似 目、性格→ヌ似

「ただい――

「しーっ」

 大きな声で帰宅を告げようとする娘を息子と二人で制止する。

「ママはまだおひるねしてるんだよ」

「そうだった、ごめんなさい」

「謝る必要はない」

「でもないしょだもんね」

 息子が目をキラキラさせて小さな声で言った。

「そうだね、ないしょだね」

 二人は口の前で人差し指を立てると、しーっと言い、 くすくすと楽しそうに笑った。こうして見ると、やはりフリーナにも自分にもよく似ているように思う。私たち二人の血が流れているのだから当然といえばそうなのだが。

「パパ、はやくはやく!」

 待ち切れないかのように二人が私の両手を引く。それぞれが持ったバケツには、砂浜で拾ってきたばかりのルエトワールがぎっしりと詰まっている。

 リビングに入れば、ソファの上でうたた寝をするフリーナの姿があった。まったく、ベッドで寝ろとあれほど言っているというのに。

「ママ!」

 二人が揃って、フリーナに駆け寄る。

「んぅ……?ん……ああ、おかえり、キミたち……

 寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと体を起こすフリーナ。そして子どもたち、私を交互に見遣ると小さく吹き出した。

「ぷっ……あはははは!キミたち、三人揃って泥んこでどこで遊んできたんだい?」

「うみ!」

 大きな声で元気よく二人が返した。

「そうかい、なるほど。……キミたちが泥だらけなのも納得したよ」

 二人の頭を撫でながらフリーナは何をしてきたんだい?と問うた。おそらく、バケツの中身は既に見えているのだろうが彼女はいつも知らないふりをする。

「あのね、ママにぷれぜんと!」

「いっぱいとった……

 二人がバケツをフリーナに手渡す。フリーナは大袈裟に驚いた顔をして見せた。

「わあ!ありがとう!……ママはこれが大好きなんだ」

 二人を抱き寄せるフリーナは幸せそうに微笑む。

「あのね、ママ!パパもあつめるのてつだってくれたの!」

「パパ、およぐのはやかった」

「それはそうだろう?キミたちのパパなんだから!」

 三対の目がこちらを見る。きらきら、きらきら、と輝く瞳は海面に反射する太陽のようだ。

「いい子にはどうするんだっけ?」

 フリーナが問いかける。

「あたまなでなで!」

「いいこめだる……

「うん、どっちも正解だ。はい、どうぞ!」

 フリーナは二人の頭を撫でると戸棚から手製のメダルを取り出した。宵宮殿や綾香殿から教わった稲妻の『おりがみ』というものらしい。

「パパには?」

「パパ、悪い子?」

 二人が首を傾げる。フリーナはおっと、僕としたことが……パパも勿論、いい子だとも!と言うと両手を広げた。

「ほら、いい子のぎゅーだよ、ヌヴィレット!」

 フリーナの両隣からいいなぁ!いいなぁ!という声が聞こえる。

「二人と遊んでくれてありがとう」

「私の子でもあるのだから当然のことをしたまでだ……君こそ、しっかり休めたのか?」

「おかげさまでね。すっかり元気になったよ」

 フリーナの顔を覗き込む。目の下の隈も薄くなり、血色も悪くない。

「ふむ。確かに顔色がいいな。昨晩の君はホラー小説に登場するゾンビのようであったからな……

「なっ……!さすがに女性に対して失礼じゃないかい!?」

 私たちの両隣で二人が、まま、じょんび、ぞびだね、と言ってはきゃっきゃっと笑っている。

「うぅ……今度からはもうちょっと睡眠を小まめにとろうかな……

「是非ともそうしてくれたまえ……正直、昨晩の君には肝が冷えた」

「ごめんよ……キミたちも怖かっただろう……

 ヌヴィレットの顔は真剣そのもので、本当に心配をかけてしまったのだな、と思った。二人を産んでから、僕の体は弱くなった。何かあればすぐに風邪を引くし、常に貧血が付き纏う。診てくれたシグウィンによれば、ヌヴィレットの水元素の力が僕の体に上手く馴染まないこと、初産で二人も龍の子を産んだことが原因らしい。時間が解決してくれるとは言っていたが。

「ママ、げんき?」

 子どもたちが潤んだ瞳で見つめてくる。ヌヴィレットほどではないが、二人も周囲の人間の心に影響を受けやすい。

「うん……元気になったよ。キミたちのおかげかな」

 二人の額にキスをする。こんなに優しくていい子なのはヌヴィレットの血かな。

「言っておくが、君の血でもあるからな」

 ……何を考えていたかバレバレか。そんなに分かりやすいかな、僕。

「以前よりは余程。だが、それは偽らなくなった君と長く、共にいるからだ」

 ヌヴィレットが近付いて来て、僕の唇にキスをする。触れるだけの軽いキスでも十分すぎるくらいに気持ちが伝わる。

……子どもたちの前なんだけど?」

「気の使えるいい子たちなのでな」

 二人を見れば真っ赤な顔をして目を手で押さえていた。

「ママ、パパ、いちゃいちゃおわった?」

「ママとパパ、らぶらぶおわった……?」

 顔から火が出るくらい恥ずかしい、とそっぽを向いたフリーナに再びキスをする。

 次は4人で出かけよう。