葉月がシックスナインコースターに搭乗した際の写真を、夏海は後生大事にしていた。恐怖で目が見開かれている、本人が見たら激怒しそうな写真なのだが夏海にとってはかけがえのない宝物だ。
フォトフレームに入れて飾ったその写真は、殺風景な自室に彩を与えてくれている。最初は肌身離さず持ち歩くことも考えたのだが、自分の役回り上写真を痛めてしまったりどこかに落としてしまったりするのが心配だったため、部屋に置くことにしたのだ。眺めているだけで自然と笑みが溢れてくる。
葉月に想いを馳せていると、コンコン、という自室のドアをノックする音が聞こえた。この時間帯に客人とは珍しい。真城だろうか、とドアノブに手をかけようか悩んでいるところで「私よ。早く開けなさい」と言う声がかかる。
「は、葉月さん⁉︎ 葉月さんなんですか?」
「だからそう言っているでしょう」
「今開けます!」
慌ててドアを開けると、果たしてそこにいたのは自分が心酔する夕顔葉月本人だった。
「珍しいですね。葉月さんがいらっしゃるなんて」
自分を足代わりにするぐらいの葉月が、わざわざ夏海の部屋に来るとはどういった風の吹き回しだろうか。心の準備がまるでできていないまま葉月を部屋に迎え入れてしまった夏海は、先ほどまで眺めていた写真のことを動揺ですっかり忘れてしまっていた。部屋の目立つところに飾られている写真を、葉月が見落とすはずもないというのに。
「夏海……こんな写真をよくもまあ買ったものね……?」
「こ、これはその……! あの……!」
しどろもどろになっていると、「没収よ」とフォトフレームごと写真を奪われてしまった。
「葉月さん、あんまりです……」
ぐす、と涙ぐんできてしまう。せっかく手に入れた貴重な写真だというのに。この写真を失えば、葉月の写真を次はいつ手に入れられるかは不透明だった。
「……いいわよ」
「?」
「……だから! 写真ぐらい、こんな顔のじゃなくて、夏海となら撮ってあげても……」
ごにょごにょと消え入りそうな声で葉月が喋ったのを、夏海は聞き逃さなかった。
「本当ですか、葉月さん! じゃあ早速撮りましょう!」
「……お前、強くなりすぎよ」
そそくさとカメラを用意した夏海は、葉月が訪問してきた理由を聞くのも忘れて、満面の笑みで葉月と写真に収まった。
了
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