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torino_y
2023-08-11 18:28:11
3394文字
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『九宝のせかい』小編6
人の域を超えた魔法を簡単に遊びに使う真白と、そんな彼を性格悪いなと思うウィリアムの話。
ローランドの屋敷にはたくさんの部屋があるが、そのうちの一つにバーのような雰囲気の部屋がある。そこにはバーカウンターのほか、テーブル席やソファなども用意されていて、一人でも誰かといても居心地のいい時間を過ごすことができるから、俺はけっこう気に入っている。
俺が一人でその部屋に入ると、部屋の一角で、エドワードとその兄たちがカードゲームで盛り上がっていた。各々がカードを手にしながら、やいのやいのと何やら言い合っているようだ。
そしてそこから少し離れたテーブルで「彼ら」の中では一番ああいう駆け引きのゲームが好きそうな奴が、みんなの方を眺めながら一人で酒を飲んでいるのが目に映った。俺は少し意外に思い、エドワードたちと合流しようと歩き出した足の向かう先を変えることにした。
「真白はあっちに混ざらないのか」
真白は声をかけた俺に気づいて、会釈をしながら無言で隣の椅子を引いた。俺は促されるまま彼の隣に座った。
テーブルには中身が半分ほど減ったウイスキーのボトルと、まだ誰も使っていない空のグラスが一つ置いてあった。真白は空のグラスを手に取ると、無言のまま魔法できれいな球状の氷を作り、それをグラスに入れた。その上からなみなみとウイスキーを注ぐと、どうぞ、と言って俺に手渡してきた。俺はお礼を言ってグラスを受け取り、二人で軽く乾杯をした。
こうして真白と俺がグラスを合わせるのは、実はそんなに珍しいことではない。ユリウスほどではないが真白も酒は好きなようだし、俺も竜の国の人間なので酒はそれなりに飲める方だ。積極的に酒の席を設けることはないが、こうして機会があれば一緒に飲むこともやぶさかではない。
手元のウイスキーを互いに一口飲んでから、真白は話を再開した。
「今回、私は参加禁止なんです」
「へえ。心が読めるから?」
「そうです。だってそれじゃゲームになりませんから」
「まあ、確かにな。自分の手札が筒抜けなんじゃ興が醒める。でも
……
」
そこで一度言葉を切って、俺はグラスに口をつけた。
少し離れたテーブルからは、真白の兄弟たちがゲームに興じる騒がしい声が聞こえてくる。向こう側のにぎやかな声はよく聞こえるが、こちらから気軽に声をかけるにはこの場所は離れすぎているように思えた。
「あっちはみんなで楽しそうなのに、真白は一人で退屈じゃないか?」
俺の言葉に、真白は心底意外そうな顔をした。そしてすぐに可笑しそうにクスクス笑い出した。
真白が笑うたび、その振動で彼が手に持った酒のグラスはカランと音を立てたし、真っ白で透けるような彼の長い髪はさらりと肩からすべり落ちた。
俺が来るまでの間にどんなペースで飲んでいたのか知らないが、真白の顔は少し赤かった。きっと酔っている。なんとなく、いつもより楽しそうに笑っているような気がする。真白は酒に特別弱くはないが、強いというわけでもないのだ。少なくとも俺よりは酒に弱い。
すぐに笑いが収まるかと思ったが、真白はまだ笑っていた。俺はそんなに笑われるほどおかしなことを言った覚えはないんだが。そう思って口を開こうとしたとき、いきなり真白の声が直接俺の頭の中に入り込んで来て、脳みそが震えるような奇妙な感覚に俺は思わず身を硬くしてしまった。
『退屈なんてしませんよ。あなたには思いつかないんでしょうけど、ゲームに加われなくても楽しむ方法はいくらでもあります』
「
……
いきなり人の頭の中に介入してくるのやめてくれよ。慣れてなくて変な感じがする」
「あら、なおさらやりたくなりました」
勘弁してくれ。真白は人で遊ぶのが好きだが、一般的な人の感覚と同じように、俺は真白の遊び道具になるのは御免だ。
俺が非難するように視線を向けると、真白は満面の笑みを返してきた。ささやかすぎる俺の抵抗を意に介さないご機嫌そうな笑みに、俺は潔く抵抗を諦め視線を逸らした。
「
……
ゲームに参加しなくても楽しむ方法って?」
「露骨に話を逸らしましたね」
「逸らしたんじゃなくて戻したんだよ! いいだろ別に」
「いいですよ別に。そうですね、例えば
……
」
真白はわざとらしく顎に手を当てながら、向こうのテーブルで盛り上がっている兄弟たちを横目で見た。つられて俺もあちらに目を向けた。
向こうでは各々が何枚かカードを持ち、順番が回ってくるたびに隣の人のカードを一枚ずつ引いていっているようだ。
……
ババ抜きをしているのか? ポーカーかと思っていた、勝手に。あれだけ長く生きている彼らでも、ババ抜き程度の単純なカードゲームが楽しいのだろうか。
『人間だって、子供の頃に好きだったことは大人になっても好きな人が多いじゃないですか』
『おい、人の頭の中勝手に読むなよ。そういうのやめてくれってさっき言っただろ』
『なおさらやりたくなるってさっき言いました』
『性格悪いってよく言われるだろ』
『巷ではとっても親切で優しい真白お兄さんで通ってますので』
その巷の人たちとやらに今の会話を聞かせてやりたい。親切なお兄さん、なんてものは泣いて逃げ出すだろう。
俺が真白に冷ややかな目を向けようとしたとき、向こうのテーブルでクライドの悔しそうな声が上がって、何かあったのかと俺は咄嗟にそちらに視線を移した。
向こうでは天井を仰いでいるクライドの傍でフィリベルトがエドワードに称えられていた。状況から察するに、恐らくフィリベルトとクライドが最後まで残り、その最後の一騎打ちでフィリベルトが勝ったというところだろう。
その結果に正直、少し驚いた。フィリベルトは目元こそ前髪で隠れて表情が読み取りにくいが、それ以外の部分で内心が筒抜けになるところがある。付き合いの短い俺ですらそう思うのだから、何世紀というレベルで共に生きてきた兄弟であればなおさら分かりやすいことこの上ないだろう。一方でクライドは子供の外見にそぐわずポーカーフェイスが得意だから、あの二人がババ抜きをしてクライドが負けるというのはあまり想像がつかなかった。
手元に残ったカードを悔しそうに放り出したクライドは、おもむろに真白の方を向いた。何か言いたそうに口を開いたが、その横に座ってグラスを傾ける俺と目が合うと、ちょっと目を見開いてから席を立って俺たちの方へ歩いてきた。
「なんだウィル、来てたのか」
「けっこう前からいたよ。お前が負けるなんて意外だな」
「こいつに嵌められたんだよ」
話しながらこちらに歩み寄ってきたクライドは、俺の横で機嫌が良さそうに酒を飲んでいる真白を親指でグイっと指差した。横に立って睨みつけるように見下ろしてくるクライドを見上げる真白は、頬杖をついて、いかにも楽しそうにニヤニヤと笑っていた。
嵌められたって言ったって、真白はずっと俺と話していただけのはずだ。クライドの言っていることがよく分からず首を傾げた俺に構うことなく、クライドはすっかり身体ごと真白の方を向いて真白を非難し始めていた。
「真白お前、右がババだって言ったろ」
「あなたから見て右、とは言ってませんけどね」
「こいつ、自分に何の利益もないのに平気で人を陥れてくるとこがホントに最悪な精神性だなって思わねえか?」
「あなた人じゃないでしょう」
「お前もな。大体お前、この前だって
……
」
(もしかして、俺と話しながら、同時にクライドと頭の中で話をしてたってことか? フィリベルトの手札を把握してたってことは、フィリベルトの頭の中も覗きながら? 人じゃないから当たり前かもしれないけど、普通じゃ考えられないな)
いつの間にか椅子に座って酒のグラスを握ったクライドが、勢いよく酒を煽りながら今までにあった真白の人でなしのエピソードを並べ立て始めた。
それを呆れながら聞き流す俺の頭の中に、何度やられても慣れない真白の声が再び響いた。
『ゲームに参加しなくても楽しむ方法の答えですが。例えば、土俵の外から参加者にハズレくじを引かせる、とかでしょうか?』
『あ、そう
……
』
表向きはクライドの文句に相槌を打ちながら、それと同時に俺の頭の中で実に楽しそうにそう告げた真白の発言に対して、俺は心底こう思った。
(こいつ、やっぱりマジで性格悪いよな)
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