torino_y
2022-12-07 21:19:00
1570文字
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『九宝のせかい』小編4

カイルがルシウスの側近になったばかりの頃の二人のお話。ルシウスの特別な力について。



 カイルがルシウスの側近として起用されてから少し経った頃、ルシウスはカイルに、自分の唯一の側近として知っておいてほしい自身の話をした。
 それは自分の魔法の話であったり、捨てられない性分の話であったりしたが、中でもカイルの印象に残ったのは、ルシウスがドラゴンの言っていることを理解できるという話だった。

「いやまあ、どんな仕組みでとか、正確には俺にもよく分からないんだけど。俺が竜王として選ばれた頃から、突然ドラゴンの気持ちや言葉がなんとなく分かるようになったんだよ」
……それは……、とてもすごい力だと思います」

 その話を初めて聞いたとき、カイルはこのように返事をした。
 しかし、カイルは心の底では、ルシウスの話を信じていなかった。
 それもそうだ。だって、ドラゴンは人の言葉を話せない。どれだけ互いを理解し合ったドラゴンと竜騎士のパートナー同士であっても、ドラゴンの声は結局のところ人にとって唸り声や咆哮にしか聞こえない。態度や表情、声のニュアンスなどから感情を察することはできても、ドラゴンの言いたいことを真に理解することはできないものであり、それが竜の国の人々にとってもドラゴンたちにとっても当たり前の事実だった。

……私を拾ってくれた主君の話を、疑いたいわけではないが)

 カイルは上手く呑み込めない主君の話に、もやもやした思いを抱えていた。
 そうして数日が経ったある日、カイルは竜王城の裏手にあるドラゴンたちの宿舎に向かう途中で、偶然ルシウスが一頭のドラゴンに話しかけているところに出くわした。
 カイルはとっさに建物の陰に身を隠すと、彼らに見つからないように息をひそめてその様子を伺うことにした。そう遠くない距離だ。耳をすませばすぐに彼らの声が聞こえてきた。

「そういえば、最近新しいドラゴンがここに入ったらしいじゃないか」
「グルル」
「へえ、見どころはありそうな感じ?」
「グアルル」
「もう長いこと竜王城の竜車を務めてくれてる貴方がいうと、説得力が違うね」
「グルアァ」
「ま、確かにな。どうかよろしく頼むよ」
「ガルルアア!」

 その一連のやり取りを聞いたカイルはとても強い衝撃を受けた。だってルシウスは、カイルやほかの人たちがドラゴンと話すときのように、ドラゴンの言ったことを想像で補いながら返答しているようには思えなかった。

(あの人の返答のしかたは、あのドラゴンが何を言ったのか正確に理解していないとできないものだ!)

 まるで人同士で会話しているかのような、ごく自然な会話だった。相手が人の言葉を話さないドラゴンだとは思えないくらいに。
 カイルは静かにその場を離れた。視線の先にいた彼らにはもしかしたら気づかれていたのかもしれないが、それは重要なことではなかった。
 重要なのは、それ以来、カイルがルシウスの言ったことを信じるようになったということだ。なぜなら、カイルが自らの目で事実を確かめたから、という理由ももちろんある。
 だが理由はそれだけではなかった。あのときカイルが受けた強い衝撃というのが、常識を覆されたことによる強烈な驚きと、強大な力を持つドラゴンと対等に会話する彼への大きな憧れと、それから、ほんの少しの畏怖だったからだ。あのときのカイルは、普通ではない力に突然目覚めたという目の前の主君に対し、恐れの念をわずかながらも確かに抱いてしまった。
 ルシウスが自分にこの話をしたのは、きっと自分を信頼してくれていた、もしくは信頼したいと思ってくれているからなのだろう。カイルはそう感じた。そして、自分も主君からの信頼に応えたいと感じた。
 このときの出来事がきっかけとなり、今のカイルは心からの尊敬と忠義をもって、自らの主君であるルシウスを支え続けている。