草枕
2018-10-20 15:16:09
827文字
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黒猫の声はきみに届くか

ミルドレッド不調の日に、リカルダちゃんとエンカ妄想。

動物には好かれる性質だ。それがここalone、ツクリモノの動物にも適用されたのかは分からないが、仕事の合間、レンガ塀の上の黒猫を撫でてから、テルトの帽子か肩の上には、猫が貼りついている。その可愛らしい重さが唐突に無くなったかと思うと、飛び降りた猫は、ととと、と真っ直ぐに駆けて行って、誰かの足下にすり寄った。浮気性め。そんなところが猫の可愛さなんだけど、と目で追えば、猫にじゃれつかれて硬直している人物が目に入る。──黒髪のリカルダクローン。初めて見る色だ。なんとなく、1区に居るのは桃、2区は黄、3区は赤の色をしていると把握していたが、黒とは珍しい。

「こんにちは。猫にお困りすか?」
直立不動のリカルダに声をかける。リカルダ達は、話しかけても返事をしない。食堂で働いている時に分かったことだ。それでも、こちらの意図を読み取ることはできるようなので、テルトは声をかけていた。それは、植物や動物を愛する感覚に、近い。
黒髪のリカルダクローンは、ぱちり、と目を瞬かせて、足下の猫を見た。無表情でなにかを見下ろす少女という構図は、なんだか計り知れない凄みがあって、テルトは慌てて黒猫を庇う。
「これは、こいつなりの愛情表現すから!」
……愛情表現?」
「しゃ、喋った!?」
驚いて、まじまじと黒髪のリカルダを見る。相変わらず表情は無い。幻聴でも聞いたような心地だ。

「この猫はリカルダのことが好きなんすよ」
それでも、声を持たない猫の代わりに、愛を伝えることだけはしておきたい。テルトは、猫の顎の下を撫でた。ゴロゴロと喉が鳴る。

「リカルダが、この猫を可愛いって思うなら、こうして撫でてあげると良いすよ。晴れて友だち同士す!」

ともだち、とささやく声が聞こえた気がした。それはやっぱり、幻聴なのかもしれなくて、でも、テルトは、この黒髪のリカルダの、声だと良いなと思うのだ。


「じゃあ、オレは仕事に戻らなきゃ。──良い一日を、リカルダ」