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草枕
2018-08-08 21:51:26
1136文字
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第四夜
学戦辿の夢十夜パロ
自分は死んだ。
と脳が認識してしまったら、それが例え夢の中の勘違いであっても身体は機能を止めてしまう可能性があるらしい。
嘘か本当か、観測する方法はないのだろうけど、そんな話を聞いたばっかりだったから、オレは慌てた。──自分で自分をコントロールできない夢の中で、兎沢辿は、それはもう豪快に喉を掻っ捌いたので。
わー、生き残っちゃうんだ。すごいねその生命力、オレだったら死んでる。なんて、他ならぬオレに思いながら、固定された視界で辺りを見渡す。思考が矛盾だらけってことは分かるくらいには真っ当なオレが察するに、兎沢辿は自決覚悟で喉を傷付けて、敵に情報を漏らすまいとしたらしい。オレだったら最期まで大嘘吐き続けるけどなあ。それでもって、運良く生還しちゃうところが益々夢らしい。やだなぁ、オレの深層心理ってこんなに夢見がちなのかな。死にたくないけど、これは死んじゃうと思う、普通。
それでも生きてた兎沢辿は、喉に手を当てて小さく息を吐いた。まぁ、そのつもりで切ったんだから。もう声は出ないよね。
「辿さん、調子はどうですか?」
(もう大丈夫だよ)
掛かった声は、終生くんのものだ。
終生くんは、夢の中でもやっぱり有能だった。いわゆる読唇術ってやつだろう、読まれるオレの方もはっきりと口を動かしはしたが、それでも一回きりで言葉を読み取る。
そうやって交わされた会話は、本来何枚分の紙になったんだろう。ゴミ箱には、他の人たちと筆談をして出来た紙くずの山ができている。オレは沢山嘘を吐くけど、ああやって形になって見えてしまうと、少しだけ、居た堪れない。それは夢の中の兎沢辿も同じなのか、終生くんと話をする時は気楽そうに思えた。
ところで、この先のオレはどうなるんだろう。口のきけない諜報員、とは。うーん、すぐには思い付かないなあ。役に立たない学徒は、この学校には要らないものだから、自主退学を勧告されると思う。オレの貧相な身体能力じゃ、鉄砲玉にさえなれないだろうから。このオレってば、そんな事も考えなかったのかな?あ、死ぬ覚悟だったんだっけ。オレがそんなことを考えている間に、終生くんとの会話は終わったのか、松葉杖の音が部屋を出る。
環くんは来てくれるだろうか。これが夢であることを鑑みても、いや、夢であるなら尚更、環くんは来てくれる筈だ。
ああ、それで、環くんはオレを受け入れてくれる気がした。声が出ない、役立たずの兎沢辿を、それでもあの部屋に迎え入れてくれる気がした。ただいまと音にできなくても、お帰りを言ってくれて、──
オレは、それが、嬉しい。
夢の中の兎沢辿が、こちらを向いて、四文字を口にしたところで夢は終わった。
(う、そ、つ、き)
舌切りすずめ
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