吾妻
2024-06-08 01:55:53
4157文字
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in the Wall

SO3、アルベル夢。ヒロインはアーリグリフ軍医です。
Xちゃんで募集した性癖シチュ四大奇書のNo.1は「狭い場所に閉じ込め」です。
めちゃくちゃ久しぶりにSO3夢を書きました。大丈夫だろうか……緊張しましたが楽しかったです!

シオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオンシオン 薄暗く狭い空間に、ふたつの息遣いと衣擦れの音が響く。
……おい、暴れるんじゃねぇ、大人しくしてろ……!」
「そんなこと、言われたって……!」
 服越しにも寒さが染みてくるような石壁を背に、シオンは声を上擦らせる。
 胸の内側でどんどん鼓動が速くなり、呼吸も浅くなっていく。ただでさえ暗くて狭い場所は苦手なのに、前触れもなく詰め込まれてしまったせいでパニックを起こしかけていた。
 それに、動揺をもたらす要因は、何もこの場所の狭さや暗さばかりではない。一緒に閉じ込められている人物も問題だ。
 アーリグリフ三軍が一つ、重装騎士団【漆黒】を率いる軍団長であり、プライベートにおいては恋人関係でもあるアルベル・ノックス。どんな因果か、シオンは今、彼と共にとんでもなく暗くて狭い空間に、向かい合わせで押し込められているのだった。

 事の発端は、他愛もない話だ。
 アーリグリフ城に無数に存在する空き部屋。
 改革による貴族の粛清や戦争の余波によって部屋主を失った部屋のいくつかは、現在、現実主義をつらぬく王の命で倉庫として活用されている。
 シオンは、その部屋の一つに用があった。
 元々読書家であった部屋主の蔵書がそのまま残されているその部屋は、主人を失って以降も様々な文献が持ち込まれ、書庫のように扱われている。
 中には医学書や薬の調合法を記した本などもあり、大変重宝していたのだが、近頃この部屋に妙な噂が立つようになった。
 曰く、亡くなった部屋主の幽霊が出る――とか、なんとか。
 なんでも、掃除中のメイドが、この部屋で啜り泣くような声を幾度も聞いたというのだ。
 記憶にある限り、これまで一度たりともそんな噂が持ち上がったことはない。だというのに、ここ数週間で複数の人間がその声を聞いているという。それゆえ、件の怪談話には妙な真実味があり、怖がりなメイドたちはこの部屋にあまり近寄らなくなった。
 シオンはというと、別にそこまで超常の存在を信じているわけではないのだが、不気味であることに変わりはないし、魔物が紛れ込んでいる可能性もゼロではないため、なんとなく近づくのを避けていた。
 しかし今日、どうしても確認が必要な文献がこの部屋にあることに気づき、一念発起して訪ねてきたのだった。
 
 はじめはなんの異変もなかった。
 目当ての文献も無事発見し、放置されたままの机に向かい必要箇所のメモを取っていた。
 問題は、その後だ。

――……

 か細く、啜り泣くような声が聞こえた。
 シオンは思わず硬直し、神経を尖らせる。耳を澄まし、音の出どころを探った。
(壁の、中……? でも、この音……
 よくよく聞けば、人の泣き声には聞こえない。むしろ風が狭い場所を通り抜ける際に立てる音によく似ていた。
 壁の中から? 屋外に面している部屋でもないのに?
 もしかして、壁の中に空間があったりするんだろうか?
 一瞬感じた恐怖は好奇心に塗り替えられて、シオンは席を立った。耳を頼りに、音の出どころである石壁を探り当て、触れる。
 掌に伝わる、ひんやりとした感触。確かに音は、この向こう側から聞こえるのだが――
(やっぱりこの向こうに、隙間がある……ような……
 もっとよく音を聞こうと、壁に耳を押し当てた、そのとき。
……何をしている」
「ひゃあっ!?」
 突如として後ろから掛かった声に飛び上がったシオンは、慌てて振り返り、壁に背をつけた。見覚えのありすぎる姿が視界に飛び込んできたと思ったら、今度は背後の壁が突如動き――
 話は冒頭に戻る。

 入口はすぐに閉ざされ、周囲は闇に包まれた。
 元いた部屋のほうからうっすらと光が差し込んできてはいるものの、それでもここがどのような場所なのかを探るには不十分だ。
 人ひとりが入れば窮屈な空間。背中には固い石壁の感触。通路というほどの広さもなく、どこかに通じている気配もない。
……ここって、もしかして、そういう」
 隠し通路でもないのなら、もはや目的はひとつに思える。
……だろうな」
 さも興味がなさそうに返事を寄越すアルベルもまた、同様の答えに行き着いているようだった。
 この位置から覗けばおそらく寝台が見える。十中八九、そのためにこっそりと作られた空間なのだろう。
 老朽化でどこかにほころびが生まれ、風が通るようになった。その音が啜り泣きに聞こえ、メイドたちが騒ぎ出した――というところか。
 しかし。
「んん……
 背中側に回された男の右手が、奥の壁を探る。覗き見をするための場所であるなら、この狭い空間のどこかに脱出用の仕掛けがあるはずで、先程からアルベルは周囲の壁を探っているのだが。
 如何せん、人ひとりが入れれば十分という空間なので、どちらかが身じろぎをするだけで密着する羽目になる。
 苛立たしげな舌打ちが、ひとつ。
……少しは大人しくしてられねぇのか」
「だって……
 やたらと細身だから普段はあまり気ならないのだが、傍に立たれるとどうしても身長差や体格差を意識してしまう。
 背にしている石壁が冷たいせいか、触れた肌越しに伝わる体温が余計に熱く感じるし、顔は触れそうな位置にあるし、壁を探る手が予期しないタイミングで体を掠めるので反射的に悲鳴が出てしまうし。
 耳元に落とされる「じっとしていろ」という囁きすらも刺激が強く、非常事態に何を考えているのだろうと自分が嫌になるほどだ。
 言われたとおりに大人しく押し黙ると、今度は自分の鼓動の音さえ触れ合った場所から伝わってしまいそうで、余計に居心地が悪くなる。
「そ、そういえば……、どうしてここに……
 沈黙に耐えかねて、その場しのぎの言葉を口にした。が、口にしてみたら、本当に気になってきた。
 普段はカルサアの修練場に常駐しているとはいえ、一軍の将として王城に呼び出される機会は多い。だから、城にいるのは別にいい。
 問題は、何故ピンポイントでこの部屋にやってきたか、である。
 ここは城の中でも人が寄り付かないエリアだし、書庫に用があるとは思えない。しかもなぜ、この絶妙なタイミングで。
 アルベルは、低めの天井に掌を這わせながら、鼻先で小さく笑う。
「幽霊がどうのこうのと、助手相手にぴーぴー泣いてたんじゃねぇのか」
「な、泣いてなんかいません。最近噂になっているから気になるって話をしただけで……
 確かに医務室でそのような話をした気がするが、特段怖がって見せたわけでもなし、この場合はどちらが話を盛っているのだろうか? 
(ん? でも、それって……
 その話を聞いて、わざわざこの部屋に来たということは。
……心配してくれたの?」
……
 周囲を探る男の動きがぴたりと止まり、狭い空間に沈黙が満ちる。都合が悪くなると黙り込むのは彼の癖なので、おそらく図星なのだろう。
 そうか。心配になって様子を見にきてくれたのか。決して素直な人ではないけれど、手の届く範囲の人間には手を差し伸べてくれることを、シオンは身に沁みて理解している。
 思わずほくほくと喜んでしまうと、ムスッと拗ねる気配が伝わってきた。
 だが、これは決して怒ったわけではなく、十中八九照れ隠しに違いない。何を考えているのかよくわからないと言われがちな人ではあるが、こうして見ると案外わかりやすくて可愛いところもある。
 ……などと考えていたら、不意に目の前の男が纏う気配が変わった――ような、気がした。
……もし」
「え?」
「もしそうだとしたら、お前は何を対価に支払うつもりだ?」
……対価?」
 そんなことを言われても、ついてきてほしいとお願いしたわけでもないし、そもそも背後から声を掛けられなければ、こんな状況に陥っていないと思うのだが。
……そんなの、……っ!?」
 強請りやたかりの類では? と抗議を試みようとしたが、足と足の間に向こうの膝が割って入ってきてしまい、最後まで言葉にできなかった。
 ただでさえ密着していると言うのに、更に体を寄せられ、肩口に男の頭が埋まってくる。
「ちょっと……、アルベル……!」
「うるせぇ」
 首筋に吐息がかかる。
 耳朶を自分のものではない髪がかすめる。
「っ……
 本来、くすぐったさしか感じられないはずのそれらの刺激が、なぜか体の奥に熱を灯す。
 幾度となく与えられた快楽を、体は正直に覚えているのだ。そしてその記憶は、シオンの体から抵抗の意思を奪ってゆく。全身を隙間なく寄せて、耳に齧り付いてくる男に、全てを委ねたくなってくる。
 みるみるうちに大人しくなっていく恋人の様子に気をよくしたのか、上機嫌な笑い声がシオンの耳に直接注ぎ込まれた。
「それでいい。――大人しくしてろ」
 無骨な掌が腰を辿って太腿まで下り、いよいよシオンが息を飲んだ、その時。

シオン様~! どちらですか~!?」

 壁の向こう側から呼ばわる大声。
 間違いなく、聞き慣れた助手のものだ。続いて、室内に踏み込んでくる足音。
 この部屋に文献を探しにいくことは、あらかじめ彼に伝えていた。おそらく、帰りが遅いのを心配して、様子を見に来てくれたのだろう。
 体をまさぐっていた男の手が止まった隙を逃さず、シオンは。
「ここ! ここです~!!」
 壁の向こう側へ聞こえるよう、大声で返事をした。
「ええっ、どうして壁の中にいるんです!?」
「話すと長くなっちゃうんだけど、出られなくて! 人を呼んできてもらえる?」
……わ、わかりました!」
 慌ただしい足音が遠のいていく気配に、シオンは安堵の吐息を漏らす。これでひとまず、脱出の目処は立ちそうだ。触れられるのが嫌なわけではないが、さすがにここは職場で、今は勤務時間中だ。これ以上事に及ぶわけにもいかないだろう。
 ほっと息をつくシオンに覆い被さったままのアルベルは、至極不機嫌そうに舌打ちを落としたのち、すっかりと油断している女の首筋に獣のようにがぶりと噛みついた。

 
【終わり】